2.4 追跡、魔術の行使
公園に来てから二十分が経った。
隼は頭上の木漏れ日を眺めていると
「来たぞ」
草薙は二冊の本を抱え、中央図書館へ向かっている。
二人は図書館と草薙との間に立つ。
草薙は隼に気づくと、逆の方へ走り出した。
二人は草薙を追う。
「やっぱり本を持っていたか。
だが走って俺たちから逃げられると思っているのか?
図書館へは入れさせねえぜ」
隼は不適な笑みを浮かべて言った。
「悪党だな」
大島が冷静に言った。
二人はペースを上げて距離を縮め、残り20メートルほどになったところで
「大島さん、やっちゃいなさい」
隼はおもしろい魔術を見られる事と、草薙の確保を期待してうれしそうに言った。
「責任はお前にあるぞ」
大島は術で空気を操り、草薙の脚に対して動きを制限、拘束しようとしたがあっさり抜けられる。
「術」とは対象に直接影響し、現象を起こさせる能力を言う。
「すごいなあ」
大島はクラスセカンドプラスである自分の術があっさり外されたことを予想しつつも、草薙の実力を再確認した。
「感心するなっ。
まあいい。
じわじわ疲れ苦しめ仕留める」
隼はやはり不適な笑みを浮かべて言った。
「ほんとに悪党だな」
大島はあきれたように大きく息をついてから言った。
そのとき草薙は本を空に掲げたかと思うと、そこから強い光を発した。
二人は一瞬目を閉じたが、角を曲がるのを確認することができた。
「あの程度の光で眩まそうとしたのか?
凡人ならまだしも、こっちの能力をなめてるな」
そして走り初めて約五分が経過した。
「おい、もう2キロは走っているぞ」
隼が不審に思った。
「確かに、ペースを上げているのに追いつかないのはおかしい。
何かやられたな」
大島は息が切らしながらいった。
「光ったときからか?」
「気づくのが遅かったな。
多分」
大島はそう言うと指輪を外し、それを握り念を込めると大型ジェット機の離着陸のような低い轟音があたりに響き渡り、そして草薙の姿は消えた。
「流石。
だけどすごい音だな」
隼は耳をふさいだ手をはずしながら言った。
「もっと鍛練を積めば小さな音ですむのだけれど」
二人はモノレール乗り場へ向かいながら話す。
「消えた草薙は幻術ってやつ?」
「いや、顕現術の一つだろう」
「なにそれ?」
「授業でやっただろ。
成績は良いんじゃないのか?」
「能力には興味ない。
それはそれ以外の話し。
それでなに?」
なぜか強気の隼にあきれて大島が説明する。
「幻術は実体のないものを作ったり、対象に催眠のようなものを掛けて無いものを有るように感じさせたりする術。
草薙の作ったのは人形みたいなものだ。
すぐに追いつかれる可能性も考えていたのだろう。
しかも走りながら構築し、俺達との距離を保ちつつ、しっかりと道に沿って走らせるのはかなり高度だ」
「大島でも無理?」
「無理をすれば出来るけど、あまりやりたくないな。
それに草薙のは術じゃなくて、あの能力だろ。
そんなことより五分前から自宅へ向かっているんじゃないか?」
「いーや。
僕が追っていることを理解した今、家に帰るよりあのばかでかい図書館にいるほうが奴にとっては落ち着くだろう。
それで閉館時間は?」
偉そうな口調で尋ねた。
「土曜は十九時、閉館まで五、六時間待ち伏せか?」
「するわけないだろ。
図書館へ乗り込む」