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あきちゃんとぼく  作者: ぶらふまん
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にゃんちもいっしょ

あきちゃんは僕の妻だ。

2002年9月30日に入籍し、2022年3月4日にこの世を去った。


入籍前の同棲期間を入れると、あきちゃんとは20年以上共に人生を歩んだことになる。

そんな20年余りのことを振り返りつつ、足跡をたどって行こうと思う。




【出会い】


高校時代からバイトとゲーム三昧だった僕は、バイト代が入っては欲しいゲームを買い漁っていた。

ある時行きつけだったゲームショップの店長さんから声をかけられ、そのお店でバイトを始めた。

スーパーファミコンもまだまだ元気だったが、プレステやサターンもソフトが少しづつ出始めた頃で、

家庭用ゲーム機もアーケードもとても賑わっていた。そんな頃だった。


趣味と実益を兼ね備えたゲームショップでのアルバイトはとても楽しく、地元の大学に進学後もその

ゲームショップのアルバイトは続け、むしろ段々とシフトを増やしてもらった。

僕に声をかけてくれた店長さんは、同じフランチャイズのゲームショップを2店舗経営するオーナー

さんで、人間的にも素晴らしい方だった。


大学2年までは、単位を取る関係で授業を多めに受けていたが、3年に進学すると授業数が減り、その分アルバイトを増やした。

大学4年の頃には大学の授業が更に減り、その頃には大学生活よりもゲームショップでのアルバイトがメインになっており、就職活動もほとんどしなかった。


仕事にも慣れ、最初に勤めていた店舗とは別の店舗にも時々手伝いに行くようになった。

あきちゃんはそこに居た。

あきちゃんは僕より5歳年上だ。

オーナーはあきちゃんより更に10歳以上年上で、もともと大手化粧品メーカーに勤務していた

やり手の人だった。

会社で何があったのかは詳しく知らないが、脱サラをして当時勢いのあったゲームショップの

フランチャイズに加盟し、2店舗を経営していた。


そんな年上でやり手のオーナーとも、あきちゃんはバンバンと意見をぶつけ合い、仕事もバリバリ

こなしていた。

というか明らかに仕事し過ぎだったと思う。

今だったら完全にアウトだと思うが(当時でもアウトだと思うけれど)普通に1日10〜12時間の

シフトで30連勤とか、繁忙期の場合はそれ以上に仕事をしていた。

あまりに仕事の日数や時間が多いので、別人名義でタイムカードも分けていたほどだった。


仕事の日数や時間が多いだけではなく、あきちゃんはとにかく手順や作業の効率にこだわっていた。

これをやりつつあれをやって、この間にこれをやって・・みたいな感じで、当時は正直こちらが引く

ほどの熱量で仕事をしていて、一緒にシフトに入るとどっと疲れるくらいだった。

でもこの熱量や真面目さは、あきちゃんの個性であり持ち味だったんだと思う。


対してオーナーはとにかくフットワークの軽い人で、アルバイトの僕の意見などもどんどん取りれて

お店づくりにも反映させてくれた。

だから従業員はやり甲斐やモチベーションも高く、その頃すでにそのお店の主となっていたあきちゃんも

お店への愛がハンパではなかった。


ある平日の日中、店内に「ガンッ!」という音が響いた。

お店に2台だけ置いてあったNEOGEOの筐体をプレイしていた茶金髪の、いかにもな不良男が台を蹴ったのだ。

100円で2クレジットタイプの筐体だったので、確かその分難易度は高めに設定していた記憶がある。

きっとCPUお得意のタメ無し対空でも食らいまくったのだろう。

プレイヤーとして気持ちはわかるが、台蹴りは良くない。


「ガンッ!」

僕の思いをよそに、再び台を蹴る音がした。

するとレジカウンターから身を乗り出したあきちゃんが

「次蹴ったら電源落としますよー。」

と不良の背中に声をかけた。


今度はCPUに逆転超必KOでも食らったのだろうか。

あきちゃんの忠告は耳に届いていたはずだが、再び強く台を蹴る音が店内に響いた。

ガクガクする僕とは対照的に、あきちゃんは無言で不良の側に行くと筐体の電源を引っこ抜いた。


不良「何すんだテメーコラ!」

あきちゃん「次に台蹴ったら電源落とすって言いましたよね!!」

僕「あばばばば」


NEOGEO筐体の伴侶ともいうべき赤い四角いシートの椅子に座ったまま、あきちゃんを見上げて

睨む不良。

腕を組み、仁王立ちのままその不良を見下ろすあきちゃん。

震える手でオーナーに電話を掛けようかとオロオロしている僕。


しばし睨み合ったあと、不良は舌打ちをしてお店を出ていった。

「フンッ!」と鼻息を鳴らす勢いでお店のカウンターに戻ってきたあきちゃんは、一言

「勝った!」と勝利宣言をした。


怖かった。不良もあきちゃんも。

というか、むしろあきちゃんが怖かった。

でもちょっとカッコ良かった。



【職場環境アメとムチ】


オーナーのT本さんは人たらしだ。

もともとオーナーはゲームを自分では全くしない人なので、当時アルバイトだった僕にも色々と

相談をしてくれた。

ゲーム三昧な日々を送っていた自分としては、自分の意見がお店に反映されることは嬉しく、高い

モチベーションで仕事をしていた記憶がある。


しかし所詮は遊びたい盛りの大学生。

ある時、一人暮らしをしていた自分のアパートに友人が集まり、ゲームや麻雀を徹夜で遊んだ

事があった。

次の日のバイトのシフトも午後からだったので、自分も甘く考えていた。

早朝になって友人たちが帰ったので、昼前まで寝てからバイトに行こうと思ったが、どうにも体調が悪い。

そのままどんどん体調が悪くなり、寒気や吐き気も覚えて熱を計ったら38度以上の高熱だった。


とりあえずバイトは無理だったのでオーナーに電話をし休みをもらった。

もともと滅多に熱を出すことのない僕は、38.5度ほどの熱で完全にダウンした。

意識も曖昧で食欲もなく、家に置いてあった市販の風邪薬を飲むと、あとは少しづつ水分を取り

ながら布団に包まってじっとしていた。


夜10時過ぎに突如家のチャイムが鳴った。

友達かな?と思い、気怠い体を引きづって玄関を開けるとオーナーのT本さんだった。

彼は「ホレ、差し入れ、早く良くなってもらわないと困るぞ」

と言って、バナナ・ヨーグルト・ドリンク剤などの入ったビニール袋を僕に渡した。

お店の閉店作業を終えた後にわざわざ来てくれたのだ。


T本さんの自宅はお店を挟んで僕のアパートとは反対方向だ。

僕のアパートに寄ってから帰宅するとなると、かなりの時間ロスする事になる。

にも関わらず、彼は仕事を終えた後に、わざわざアルバイトの僕の為にこうして来てくれたのだ。

僕は感謝すると共に、心底申し訳ない気持ちになった。

自分自身の怠慢がこうした事態を招いたのに、このような善意を向けてくれる事にいたたまれない

思いだった。

オーナーからの励ましを受け、彼が帰った後のそのそと布団に戻り、バナナを食べながら泣いた。


後日体調が回復しシフト入りした時には、あきちゃんと同じシフトだった。

あきちゃんは、スーパーサイヤ人のオーラの音が聞こえてきそうなほどに、物凄い不機嫌オーラを

全身から噴出していた。


僕は自身の怠慢から体調を崩して休んだ事、負担を掛けてしまった事を謝罪した。

しかし、あきちゃんの反応はガン無視だった。

仕事をしつつ様子を伺い、作業がひと段落したところで改めて恐る恐るお詫びをした。

すると彼女から。

「体調管理も仕事のうちだろうがっ!!大学生にもなってそんな事も分かんねーのか!!」

と烈火の如く怒られた。

それはもう、20年以上経った今でも忘れないほどに、当時はめっちゃ怖かった。

40を過ぎて色々な筋肉が衰えた今なら、間違いなくチビリーノだったと思う。


その時は単に彼女に負担をかけた事に腹を立てたのかとも思ったが、今になって思えばそれは違う。

彼女は義理堅く、何より信頼を裏切る事を嫌う。

あきちゃんは、彼女自身の事はさておき、お世話になっているオーナーT本さんへ迷惑を掛けた事や、

お店に対する僕の甘い考えや姿勢に対し腹を立てたに他ならない。


アメのT本さんとムチのあきちゃん。

あきちゃんも当時はアルバイトの立場だったし、今考えれば損な役回りだったと思う。

でもそれが彼女には合っていたのだろう。

今思えば、僕の仕事に対する姿勢の根幹はこの頃に築かれたのだと思う。



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