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六匙




(あれ?話し合うんじゃなかったのかな?)


 ラルガは内心首を傾げた。

 慎ましくも華やかな歓迎会を終えて、仕事に行ったのばらが帰って来た時には、オリフィラは自室に戻ったらしい。

 歓迎会が行われた談話室で、ラルガは手ずから淹れた緑茶をのばらの目の前にある小さな卓に置くと、紅茶色の革張りソファにちょこんと腰を下ろした。のばらが座る場所から指二十五本分ほど離れた位置であった。


 ありがとうございます。

 のばらは礼を言うと緑茶が淹れられ十二支の名前が書かれた湯呑を手に持つ、前に、これをどうぞとラルガに手渡した。

 青竹色の縦書きの封筒、つまり、手紙である。

 表の中央には、ラルガ様と書かれ、裏の左端には、原のばらと書かれていた。

 きれいな字だった。とても。


「失礼します」


 両手で手紙を受け取っていたラルガはのばらに一礼すると、手紙を引っくり返して封を開いた。糊付けではなかったのだろうか。すんなりと開いたことに感動しつつ、中の手紙を取り出した。封筒と同じ青竹色で、右端に白の笹が描かれている一筆箋だった。

 どんな要望が綴られているのか。

 ラルガは緊張しつつ、綴られている文字を目でなぞった。


(あれ?)


 ラルガは一筆箋を引っくり返して裏を見た。

 何も綴られていなかった。


(あれ?やっぱり、)


 どんな部屋にしましょうか。としか、綴られていなかった。


(………こ、これは、口頭でお答えすべきか?もしくは、手紙でお答えすべきか?で、でも、どうお答えすべきか?のばらさんはどんな部屋にしたいですか?それとも僕の要望?え?僕?僕は。どんな部屋に、したい、の、かな?)


 のばらから自分たちの部屋を設けようと言われた時から考えてはいたのだ。

 が。

 まったく思いつかず、まあ、二人で考えればいいやと思っていたのだ。

 二人であれこれと口頭で話し合うと思っていたのだ。

 それがまさか手紙。

 しかもどうしましょうかとの疑問から。


(ど、どうしましょうか?)


 どうしましょうか。

 この言葉がぐるぐるぐるぐる頭の中で回る中、ラルガはちらちらとのばらを見た。

 のばらは美味しそうに緑茶を飲んでいた。

 よかった、味は薄くなかったかな、濃くなかったかな、丁度よかったかな。

 尋ねたかった。

 けれど。


(ま、まずはやっぱり、この手紙の返事を、手紙ですべき、だよね)


 この談話室に手紙一式はない、自分の部屋に戻らなければ、戻って自分の部屋で書くべきか、しかし待たせるのはどうなのか、ではこの部屋に持って来て書くべきか本人を前にして?


 ラルガは思考停止に陥りそうになりながら、オリフィアにヘルプミーと内心で叫んだ。











(2023.6.21)




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