その16 真紅の破壊者と黒の咎人 作者:伊月ともや様
『魔具』事件簿:例えるならXファイルか。但しスチームパンクではない
19世紀後半の『イグノランド王国』という世界。イングランドではありません。
国家秘密組織である魔法専門教団『嘆きの夜明け団』において、唯一魔力を持たない団員が、主人公『アイリス・ローレンス』です。
彼女は、有名な魔女の家系の子孫でありながら魔力を持たず、本来所属できないはずの組織に『特例』としてただ一人の魔力無しとして剣の腕を生かして所属しています。
彼女が組織にいる理由は、彼女の両親と弟妹を殺した『魔犬』と呼ばれる伝説級の魔物を自ら討伐する為です。
また、彼女は学生でもあります。
物語は彼女が『魔具調査課』へ異動となり、そこで相棒となる新人『クロウド』と出会うところから始まります。彼は教会で保護されていた『呪われた男』とされており、自らも呪われるからと他人との接触を拒み、少々得体のしれない存在でもあります。
新人同士が組まされるのが伝統なのか、はたまた、アイリスとクロウドのそれぞれの持つ問題を見込んでか、課長でありアイリスの件の師匠でもある『ブレア』は早々に初任務を命じる事になります。
Boy Meets Girlなお話なのですが、この『魔具』と呼ばれる魔力を用いた道具を無許可で所有者の中で、回収を拒否する者から強制的に魔具を「窃盗」まがいに回収する『奇跡狩り』を行う部署で出会うとろがアクセントとなっています。
訳アリの男女が訳アリの部署でともに仕事をする。ハリウッド映画やTVドラマにありそうな舞台設定です。
それは、1stシーズンや2ndシーズンではわからない伏線や人間関係が少しずつ解き明かされていくように描かれている点が似ているのでしょう。
アイリスは『真紅の破壊者』という異名を持ちトラブルメイカーでありますが、他人の不幸を見逃せない優しさと、真直ぐさをもつ優しい少女として描かれています。
馬車が走る時代、スチームパンクではなくビクトリア朝時代の雰囲気を持つ背景を匂わせながら、主人公アイリスは捜査に取り組んでいきます。
舞台も「秘密のオークション会場」であるとか、「孤児院」にスコットランド・ヤード的「警視庁」に「封じられた悪魔」etc。散りばめられた退廃的都市の雰囲気。魔力はあるが『魔具』を用いなければ、その力を発揮できないことや、魔法の行使が厳しく制限されていて、主人公側はそれを取り締まる仕事であること、また、魔法は魔法らしく展開されるところも見事です。
アイリスは魔力を持たず、『魔具』を使用するには自らの寿命を差し出すことで発動させるという設定も、その力の行使をためらわないところも魅力を感じます。
『クロウド』の抱える秘密が最初の章で解き明かされ、二人の距離が縮まり信頼関係が芽生え、二人の考えが少しずつ理解し合えるようになり、物語は徐々に深みへと進んでいくことになります。
『クロウド』の呪いのタイムリミットまでに二人は解決できるのかという命題と、アイリスが自分の生き方を貫けるかどうか読み進めたくなる展開が飽きることなく進んでいきます。
週一投稿にペースダウンされておりますが、完結まで進めて頂けると嬉しい所です。
【Nコード】:N6178DN
【URL】:https://ncode.syosetu.com/n6178dn/
【掲載日】2016年 09月18日
【最新部分掲載日/話】2021年 04月05日 755話 219.2万字
評価:『洋風幕の内弁当』級
メインのおかずがトリ南蛮トマトソース和えだったりする折衷物系です。酸味の利いたソースで見た目も良く、飽きの来ない食材となります。
物語としては『連続ドラマ風』であり、一つ一つの事件で区切りをつけて読み終えることができること、アクションと謎解きが繰り返される『ホームズ風味』であるところも「洋風」と言えるかもしれません。
一話3000字程度で、会話と字の分もバランスも良く読みやすいと思います。一つの章が7万字前後でしょうか、文庫本一冊分ほどの分量です。つまり……現時点で30巻分の投稿が為されています。幕の内30個を一気に食べるのは無理なので、精々一度に三個にしておいてください。
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