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異世界闘士外伝 中井真也の章 〜雪下のヨルムンガンド〜  作者: 進藤jr和彦
2015年4月25日〜4月27日 過去に縋り付く日陰者達を殲滅する。
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プロローグ 爆破事件

『ヤクザ』


 現代日本においては、所謂暴力団のことを指し示す。暴対法が敷かれた今では縮小傾向にある中でも、未だ組織はこの国にあり続けている。この英和田町にも、まだ生き続けていた。


 その昔こそ、昭和から平成初期にかけては上方、下方全域を取り仕切っていたが、時代に取り残され、摘発され、さらには開発事業に張り付いて来た外部の勢力の波に抗えず縮小し、今や下方に小さいながら事務所を構えている。構成員も20人を割り、下は40〜50代の者達しか居ない。


 さらに……菊川トオルという存在もあり、彼らは表立って道を歩けなかった。


 英和田町ではそれはもう当たり前だった、何しろ肉体が違うし無茶もする。度々ぶつかり、喧嘩となれば倒れていたのは彼らであった。


 彼らは語る、こんな筈ではなかったと。惨めで仕方がないと。


 そんな菊川トオルが、殺されたとなるならば、彼らも黙ってはいなかった。昔を今こそ取り戻す、暴対法?知った事か、もうクソガキに馬鹿にされる形だけのヤクザは終わりだと彼らは英和田下方の統制に足を掛けた。


 ーー刹那、まさかそこに地雷が置かれて粉々にされるなど彼らは知る由もなかった。



ーー2015年4月27日


 英和田町下方、安手組事務所。


『安手組』


 安手組は英和田町『下方』で唯一のヤクザ組織であった。元々その始まりは戦後からとなるが、組織として大きくなったのは英和田港が開港し、その人足からなる利権を受けた事が始まりで、暴対法施行前は上方含めた英和田一帯を取り仕切っていた。


 しかし、暴対法により英和田港への事業介入が取り締まられ、そして上方の開発事業による、他の組織の介入と、様々な事が重なり勢力は縮小、今や唯一の事務所が一件だけ建っているという有様であった。それこそ彼らは全国に根を張る他の大組織とも盃は交わしておらず、高齢化もたたっており、看板だけを掲げるだけとなっていた。


 そんな安手組事務所が……襲撃され爆破された。白昼の事である、住民達からも下方で久々に聞く怒号から、またトオルちゃんと喧嘩しているのだろうかと思ったら、そもそもトオルちゃん死んだやん!からの爆破音、そして窓から上がる火、と来てやっと警察と消防に連絡が行った。


 消防による消火活動を終えた後、現場検証に英和田警察が繰り出し、事務所には黄色と黒の立ち入り禁止テープが貼られた。


 英和田警察の少年課である、桃原と鬼島も、人手の関係から来て欲しいと連絡を受けた。何しろ下方で、こんな大事な事件は久々であったからだ。


「ものごっついのう……おっさん連中が抗争でもしたんか、これ?」


「しか、考えられないですよねぇ?」


 桃原と鬼島は、現場の安手組事務所に貼られた立ち入り禁止テープをくぐり抜けるや、一階の様相に唖然とした。飛び散る血液が、抗争の凄惨さを物語る。仏となった者達は、この時間帯に居た全員、その中には組長である『安手粟原』の死体もあったという。


「安手の死体もそうなんですけどね、それぞれ腹部、頚部と二箇所、正確に撃たれてるそうで……ああ爆発の原因の手榴弾と、使われた凶器の拳銃は、安手組のものらしいです」


 鬼島による、死体の有様を聞いた桃原は顔をしかめた。それは鬼島も同じであった。正確に、頸部と腹部へ二発……適当に撃ち散らかしていないのだ。怒りのままにではない……慣れているのだ、ヤクザや素人が乱射したわけではない。


「どこぞの組の雇いの殺し屋が……いよいよ下方もと考えて、殺し屋でも寄越したか?」


「無いでしょう、下方自体に今更、介入する利益が無いですから……」


 桃原は予想する、この安手組襲撃の理由を。パッと思いついたのが、開発区に流れ込んでいる様々な組織だ。顔こそ見せないが、開発事業によって生まれるその利権や利益を求めて来た、大組織達。政治家と癒着した輩だ。それが邪魔だから襲撃したのではと。


 しかし、安手組にそれらを邪魔する力も、影響力も無い。そもそもが眼中に無い、所詮高齢化により自浄を待つ他ない土着の組織を、わざわざこうして襲撃するメリットも無いのだ。何より港はもう、それこそ暴対法の一斉捜査により浄化が行われ、付け入る隙も利益も無い。


「やったら……何でこんな事なっとるんや、鬼島ぁ……」


「わからないですよ、もう内輪揉めで自浄したとしか……」


 事務所内を歩き、目の付く物が無いかと二人して調べる鬼島と桃原。


 結局、この安手組襲撃事件は、内紛によるものとして処理されるのだがーー。


「ん?」


 鬼島はこの時、手がかりを目にしていたのであった。


 それは、手榴弾により爆破された、二階にある窓。その枠に微かに残る破片……爆破の衝撃により割れた事が分かるその窓の破片に、血の付着した布片が付いていたのだ。


「おっとろしいのう、マグロがここまで飛んだんか……」


 この時、手榴弾により酷い有様の死体が幾つかあったので、その死体の衣服と肉片がここまで飛んだかと震えて気にもしなかった桃原。その布片が証拠になろうなど思いも知らなかった。この時、この布片を回収していれば、血液を採取していれば、この事務所は内輪揉めで爆破に至った結論に待ったがかかったかもしれない。



 ーー翌日、英和田町上方、緑陽中学校。


「あれ、中井くんその顔、どうしたの?」


「昨日街歩いてたら転んだ先にガラス片がね、危なかった」


 中井真也は左頬にガーゼを張り付けて登校していた。

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― 新着の感想 ―
[一言] ただでさえ影の薄い暴力団が中井くんの気が障ったんだろ?もしかして中井くんのおじさんにいちゃもんをつけたとかかな?
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