第17話 ピザと懇願
ここで一旦投稿を中止して次の投稿は11月の初週にします。
「食う前に言うが、お前そんなに頼んで大丈夫か?」
「え?」
「いくらお前の体質が大食いのそれだとしても流石に胃袋には収まらないだろ? 大丈夫か?」
「いけるいける! 家に1人でいる時は普段こんなに食ってるから」
「本当かよ?」
ユキナリはこういう小さな体格とは裏腹に、かなりの大食い体質だ。今は亡き母親がその体質であったらしく、チヅルや3姉妹はその体質を受け継がれなかったか何故か彼だけが唯一受け継がれたらしい。
それは昔から聞いてはいたし、それこそ斡旋するぐらい大量の飯を頬張るのはよく見ていた。
だがピザをタワーにする程大量に頼むは初めて見たぞ! 1月の時は5箱だけ買って「5重のピザの斜塔!」なんて言いながらはしゃいでたのに一気にスケールアップしてないか!
「で、何を頼たんだ? まさか同じ種類を数枚ずつ買ったりしてないよな?」
「ちがいますよ! ちゃんと一枚ずつたのんでるから」
「そっか、よかったー。 同じ種類を数枚ずつだったら俺ここから飛び出してたよ」
「まあまあ私も同じやつだったら飽きてしまうから、そんなバカな真似なんてしないよ」
「そうだよな、何を頼んたんだ?」と聞くとユキナリはそれぞれの一番上の箱を全部開けて。
「ええとこちらがマルゲリータのクリスピー生地のあっさりチーズで、こっちが同じ生地のコクのあるチーズで、そんでこっちが厚生地のあっさり」
「5枚どもマルゲリータじゃねえか!!」
なんだよ! 全部種類が違うとか言いながら同じやつをまとめて買っているじゃねえか! どういう感性でちがうと言い張るんだ!?
ユキナリは「えーーっ!!」と少しまぬけな声を出して訳を言い出した。
「生地とかチーズがすこし違うじゃない! 同じものじゃないよ!」
「結局は全部マルゲリータじゃねえか!」もうさっきからツッコミしかしてねえな俺!
「なあ頼んだピザって何種類なんだ?」
「20種類ですけどそれが何か?」
「細部のことは良いから品名で数えてくれ! マジで!」
「それだったら5種類です」
「5種類が4枚ずつねえ」
ほぼ同じ味のピザのLサイズが4枚ずつあるのは罰ゲームかなにか?
これを食うのはさすがにキツ過ぎるぞ! これもユキナリがほとんど食べつくすだろうが、俺はせいぜい1枚半が限外だろうな。
まあこれは俺の勝手な推測だが
「あとの4種類は何を頼んたんだ?」
「テリヤキとゴルゴンゾーラとジャーマンポテトだけですよ」
見事に味の濃いやつしかそろってないな。これをもう見るだけで腹がいっぱいになって胸やけも起きちゃう。
でもほとんどはユキナリが食べてくれるから大丈夫だろ。 たぶん。
ユキナリは手を合わせて「いただきます」と唱えると、マルゲリータを2切れ取ってチーズと具が載ってる側を内側にして挟んだ。
こいつそんなデブがやるような食い方を始めたのか。量だけじゃなくて食い方も変わってるなんて。
でもそれをやっても体系に影響がないのはちょっと羨ましいな。
俺みたいな体質が普通の人間は、こんなには食べれないし食べきれたとしても腹周りが油樽になって、脂肪肝とかにかかって即ドクターストップを貰うだろうよ。
食べ方はあれだが他はそれなりに良くしようと、持ち方なり姿勢なり綺麗にとどめようと意識はしている。
俺もピザに手を出して食べ始めると、ユキナリが何か言い出し始めた。
「あの、ちょっといいですか?」
「どうした?」俺が返すと最初は言葉が喉に詰まいためらってたが、すぐに詰まった言葉を出した。
「今日のことは、みんなに言わないでください。 本当にお願いします」
いや、あれを話すなんて普通にできねえよ! 俺にまで変に疑われてしまうかもしれねえ内容だったぞあれは。
「言わなくても分かってるよ、ここで誓っても良いから」
「ありがとうございます」俺に頭をコクリと小さく頷いて感謝した。
ピザは相変わらず美味いが、この壁みたいな量を見ると気分が重くなるな。
ユキナリはこういうのにはもう慣れているのか、とにかく異袋に納めようと、コップに淹れてある飲み物を一切口にしてなかった。
この前テレビに出ていた大食いタレントが、飲み物は胃をすぐ溜めてしまうため食べ物が多く入れるために極最小限しか飲まない、と語っていたのを思いだす。
多く飲むときは口内に呑みきれない食べ物を押し込む時に飲む、とも言っていたな。
テレビで時たま流している大食い番組は、できるだけマイペースで多く食べているから迫力なんて皆無だ。だがモニターの映像越しで、それも目の前で見ていると迫力を感じる。
ユキナリは重ね食いをしているが、俺に不快感を与えないよう綺麗に食べようとしている。けれど彼の1口は大きく、ペースが早いため感じるところはある。
食べることに集中して一言も口にださず、黙々と食っているため拍車がかっていた
黙々と食べていたユキナリはすぐに3枚目に突入していたところで俺に話しかけてきた。
「そういえばテスト終わったら時間とか空いてますか?」
「ん? 俺もうバイトしてないから時間はそれなりにあるけど?」
聞いたユキナリは目を輝かせると、俺に顔を詰めように寄って。
「それだったら夏休みも暇ですよね!? 私の映画に出てください!! お願いします!!」
「お前、そんなに近づくなよ! 時間はあるけど今年受験が控えてるからそんなに付き合えねえぞ!」
「大丈夫ですよ! 15分の短編映画ですから早くおわりますから!」
「でもそういうのは友だちとやるもんだろ!? そいつらと映画撮れよ!」
ユキナリは顔を下に向いて悲しげな表情をすると。
「学校の友だちはみんなは、こんなの出たくも関わりたくももない、て言われて断れました」
悲しすぎるだろ! しれっとコイツの心の闇をえぐり掘ってしまった、何かマジでゴメン!
「なあそれだったら彼女とかその友人にも頼んだらどうなんだ?」
「それもダメでして」
「もしかして、俺が最後の頼みの綱なのか?」
「はい」と小声に出して小さく頷いた。それを見た俺は自然とため息を吐いた。
「ハアッ撮影だけならいいけど、他のも手伝えってのは無理だからな」
「えっでも校長推薦が取れるのはほぼ確実だから、時間は誰よりも余裕なんじゃ?」
「それ誰から聞いたんんだ?」
「昨日、姉さんから」
チヅルのやつ、即行言いふらしたな。
ユキナリは「おねがい、一生のおねがい」と涙目で俺に懇願してくる。
自分がやりたいことを頼み周り込んで断られたから、俺が断ったらコイツはかなり落ち込むよな。
それに映画を撮りたいんだろ? 頼むってことはPOVとかそういうのじゃなくて数人参加のやつだと思うから、そういうもんは1人でやれ、て言うのは酷すぎるな。
若いうちにやりたいことをやれって言葉があるし、そうとなりゃユキナリの小さな夢を叶えさせてやるとするか。
「分かったよ、お前の映画撮影に付き合うよ」
「本当に!? 本当に手伝ってくれるんですか!?」
「そう言ってるだろ? だったらこんだけのピザ、冷めないうちに全部平らげようぜ」
「分かりました! 脚本はテストが終わった後に渡してもいいですか?」
「良いけど脚本がもう出来上がってるなんて気合入ってるな」
「今年の賞には送って、受賞したいから本気なんですよ!」
「そうか! それじゃあ受賞目指そうな!」
「はい」とユキナリは返事をするとピザをもっと早く食べた。