第11話 貴戸チヅルファミレスで
チヅルと最後に連絡を取ったのはいつだろう?とにかく電話を取って話しでも聞くか。
「あ、おいチヅル?俺だけどどうしたんだ?」
『ソウゴ!今すぐ例のファミレスに来て、あなたにしか出来ないことがあるの!』
「落ち着けって、今そっちに向かうから! 例のファミレスでいいんだな?」
相変わらず、寺か神社の鈴を鳴らしたような声は健在だな。
てかかなりの勢いで助けを言われて流れを委ねるように答えちゃったな。
『お願い、あなたしか頼れないの!』
「分かったから、今からファミレスに行くから、落ち着いてくれよ」
「いやいやいやいや、落ち着いてるから落ち着いry」
あわてふためくチヅルは何か言おうとしたけど、俺は最後まで聞こうとはせず通話を切り、例のファミレスへと向かった。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「もうあり得ない!本当にあり得ない!なんであんなあり得ないーーーー」
例のファミレスでチヅルは怒りながらドンドンテーブルを叩きながら、あり得ない!ばかり連呼していた。
テーブル席で彼女の前に座ってる俺は特にこれといった反応はせず、駄々を捏ねる子どもを見る親のように冷めた目でジーッとチヅルを見ていた。
とりあえず、チヅルがどんなキャラなのか今から説明するか。
貴戸チヅルはお嬢様だ。不動産、輸出、建設、などの事業をこなす会社をもつお金持ち家庭の三女として育っている。
容姿は端麗で長身、華奢なミキとは正反対に可憐さが際立っており、栗色の毛色をしたストレートな長髪とそれが似合うキツネ顔は、一度目にした者の記憶に焼き付ける程の神秘的な美しさを兼ね備えている。
身長なんか高くて、俺が173cmと日本人男性の平均的身長にに対し、彼女は197cmと女性の平均身長の30cm以上もオーバーしている。
中学の時はポポポというアダ名でしばしば呼びれていたりもした。
そして誰にでも分け隔てなくフランクに接することで入学当初から高い人気を得ており、男女双方から理想の女性として見られている。
そして大の特撮オタクである。
オタクつっても好きな作品をコレクションして私の推しキャラはこれ! とかのレベルのオタクだと思うだろ?
違うんだよ! チヅルはそんなかわいいレベルのオタクじゃねえんだ! コイツは好き嫌い関係なしに作品を網羅してその作品のルーツを調べたり自分の意見や考察を主張する、所謂研究者タイプのオタクだ。
オタクだからもちろんコレクションはする。が一般からみたら何も変わらない同じフィギュアを新装番が出たら即買って。
それを舐めまわすように拝見すると、「あ、旧版より肩と股関節の稼働が1つ増えてる」とか「塗装と造形の精度はやっぱり上がってるわね」とか言い出して、「グヘッグヘヘヘへッ」て不気味に笑うんだぞ!
俺が1番慄いたのは、見た目が同じ小物玩具なのに一目で必殺武器と変身アイテムとガチャの種類を見分けたことだ。どうやったら見分けれるんだよ全く。
先ほどいった通り彼女はお嬢様だが、その印象を覆すぐらい超濃厚な特撮オタクなのだ。
まだ述べたいことがあるが今はここで割愛しとこう。
「で、何があり得ないんだ? 呪詛のように聞かされる俺の身にもなってくれよ」
「うっーーーーーーーーー」
さっきまで怒っていたのに急に黙り込んだ。
「もしかして、まだ男に逃げられたのか?」
「----っええ、また男に逃げられたの、どうして?」
「どうせデートは映画館で仮面ライダーとかウルトラマンを見て、おもちゃ屋でフィギュアを買ってんだろ?そんでお家デートでは怪奇大作戦とかミカドロイドとかマニア向けの作品を見せて? また2週間かそれぐらいで逃げられたんだろ?」
「ウッ!! そ、それは~~」
図星だな、チヅルは自分が良いと思ってることは相手も良いと思って、デート先が完全に自分好みに染まってしまうオタク特有の悪い癖があるんだ。
俺もコイツとの初デートは映画館で仮面ライダーを見せられて、その後はおもちゃ屋でベルトとフィギュアを買って、スタバで「もう待ちきれない」て言いながらそれを開封してフィギュアを立てて遊んでたんだ。
その時は周りが見世物のように見つめてくるから、もう恥ずかしくてずっと下を向いてたよ。
「やっぱりな、そういうのをやって無事だったのは俺だけなんだぞ」
「でも男の子ならーーーー」
「あのな、男だからって全員がヒーロー物が好きじゃねえんだぞ」
「そうなの!?」
「そうに決まってる、お前だって女の子だからって少女漫画が好きとかじゃないだろ?」
チヅルはコクコクと顔を頷いた。ここからは俺の説教タイムへと入るとするか。
「いいか、お前にすり寄ってくる男たちはな、貴戸チヅルという1人の人間ではなく、1人のお嬢様と付き合いたいんだ、まあようするにガワだけしか見てないようなもんだな」
「ガワだけって、そんな事!?」
「あるんだよ実際、人は地位的な物には敏感かつどん欲だ、金や肩書やパートナーとかな、お前は家柄的にそういうのは余り縁がないかもしれないが、俺たち一般様は芸能人や高スペックの人間がパートナーになることを夢見てんだ」
「だから」
「ああ、だからお前を狙ってくる男はわんさかいるんだよ、まあお前は美人てのも大きな理由に入ってるだろうが」
身体目当てでお前を付き合いたいてのは言わないでおこう、こいつが男性不信に一歩でも近づくのは御免だからな。
「念願のお嬢様と恋人になったぜ! と夢が現実なった、でもそのお嬢様が年がら特撮特撮、て頭の中が特撮ばかりの超濃厚特撮オタクだったら? 行動がキモオタのそれを見続けられたら? 相手はそのギャップに耐え兼ねず逃げてると思うぞ」
「そうなのね、でもソウゴ、あなたは5年も付き合ってたのにそういうの無かったよね?」
「いや、無いという訳じゃないんだ、ただ最初が最初だったからなぁ」
俺がチヅルと付き合いだしたのは彼女と特別付き合いたいからではない。
中学に入学して数か月が経ったある日、既に学校の人気者であったチヅルはいろんな男から声をかけられ、友人からでも、恋人からでも関係なく1人ずつ丁寧にデートの誘いを受けていた。
が、どれもこれも進展がなく、付き合った男はみんなチヅルから離れて行った。
離れた男たちはチヅルよりお姉さんたちの方が良いと言い出す始末で、学校にいるチヅルは1人席に座ってお通夜フェイスでいた。
そのことに興味を持った俺はチヅルに近づいて「試しに俺と2週間だけでも良いから
付き合いませんか? 良い所と悪い所を教えますから」て誘ったのが始まりだ。
最初は彼女に対して好意なんてなかった、付き合うってなっても恋人同士ではなく、どちらかというと検査を行う行われるみたいな関係に近かった。
そしていざ約束の初デートの日に映画館で仮面ライダーを見せられて、その後はおもちゃ屋でベルトとフィギュアを買って、スタバで「もう待ちきれない!」て言いながらそれを開封して、ベルトを腰に巻いてフィギュアを置いて遊びやがったんだ!
この際ハッキリと言おう、コイツは特撮の前じゃIQがチンパンジー以下の行動を取る生き物と成す!
まあそれからあれこれ指摘したり直そうとしたりするが、別れたり付き合い直したり続いて結局、2週間のつもりが5年も長く続いたのだ。
俺もよく長続きしたもんだなと今でも思って実感するよ。
「まあとにかく、お前とすぐ別れる男なんてお前の中身なんか見てなくてガワだけしか見てないんだ、ろくでもない奴なんだから落ち込む必要なんかないよ」
「そうだよね、ソウゴが言うと説得力があるわ」
まだ顔は落ち込んでいるがどうやら納得はしてくれたみたいだ。
「まあ相談は終わったし、せっかくファミレスに来たんだから何か食おうか?」
「まだ話は終わってないわよ、ていうかここに呼んだ理由は別にあるわよ」
「え? まだなんかあるの?」
男関係以外にまだ用があるのか?俺は聞いてみると、チヅルは両手をテーブルに据えるように置いて深々と頭を下げた。
「お願いします、どうか私と関係をやり直してください!」