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小石を積み、積んだ小石を崩し、また小石を積み小石を崩す。

ここ最近で最もアツい僕の娯楽だ。

他にも蜘蛛と話したり、鉄格子を石で叩いてリズムを刻んだりもしたけど全部禁止された。

蜘蛛は看守に笑いながら潰された。

悪趣味なヤツだ。

それでも慣れれば此処も悪くない。暗くてジメジメしてて水のようなスープと硬いパンが2食付き。

嘘。此処は最悪の場所だ。暗くてジメジメしてて鉄格子が付いてても良いからせめて肉入りのスープとパンが食べたい。

もう少しまともな扱いをしてくれても罰は当たらないはずだ。

2週間前、僕の頭はヴァリシアに割られて死んでいるはずだった。

しかし目覚めてみると僕は此処にいた。

それ以来ずっと此処にいる。

大きな男に捕まってから牢にばかり入っている。

助けてもらった事には感謝しているけどあれは疫病神か何かだったのかもしれない。

「参ったなぁ...」

看守たちの馬鹿笑いが響いた。

「やめろ、やめてくれ!」

「へへへ、誰も助けには来ねえぜ。」

ここの看守たちはとても趣味が良い。

だから、毎日のように牢に監禁してる者へ嫌がらせをしている。

僕の娯楽も奴らに奪われている。

幸い、最後の楽しみである小石積みは見つかっていない。

しかし時間の問題だろう。

看守の足音がこちらに近づいて来る。

小石を隠し、備え付けのベッドに転がった。

看守の足音が僕の牢の前で止まる。

こういうときは寝たフリにかぎる。

「おい!起きろ!」

寝たふり寝たふり...

「姫殿下がお呼びだ!!」

「へ?」


豪奢な造りの廊下をピカピカの装備を武装した兵たちに囲まれて歩く。

どうやら僕が居た場所はこの城の地下牢だったらしい。

それにしても今まで見たことが無いほどにきらびやかな通路だ。

天井が高すぎる。

壁にも大きな柱にも満遍なく装飾が施されている。

そして一定間隔で大きな魔獣の像が廊下の壁に並んでいた。

金でできた魔獣の像に様々な宝石が散りばめられている。

思わず足が止まる。

「凄い像ですねぇ...。」

「黙って歩け。」

後ろを歩く兵にお尻を蹴られた。

「...はい。」

手錠を掛けられているため擦ることもできない。

「ここで止まれ。」

信じられないほど高い天井まで届きそうな上、華美な装飾が施された扉が目の前にあった。

扉の脇には衛兵と思わしき兵が立っていた。

「姫殿下!!囚人をお連れ致しました!!」

兵が声を張り上げた。

扉が音をたてゆっくりと開いていく。

「進め。」

また尻を叩かれる。

思わずムッとしながら先へ進んだ。

赤い絨毯の上を歩く。

左右には衛兵が並んでいる。

よくわからないが、緊張してきた。

僕を囲む兵たちが静止した。

兵が脇に避けていく。

目の前に装飾華美な玉座が現れた。

そこに座っているのはヴァリシアだった。

肌の露出が少ない白いドレスを身につけていた。

ぴったりとしたドレスがヴァリシアの曲線を映し出している。

大きな胸がそのせいで更に強調して見えた。

「頭が高いぞ、犬。」

犬とは誰のことを言っているのだろうか。

兵たちが僕の頭を押さえ付け無理やり床に膝まづかせる。

「ふむ。見栄えがよくなったな。」

満足そうにヴァリシアが言った。

「あのぅ...。どうして僕は牢屋に入れられているんでしょうか...。」

「貴様に、話す権利を与えた覚えは無いが...まぁ良いだろう。」

ヴァリシアが足を組んだ。

「犬。貴様はこのセント王国が買いとったのだ。」

「僕を買いとった?そうか、あのオークション...」

「そうだ犬。存外賢いではないか。貴様はあのギギサナスの拳を何度も受け、今も生きている。普通の人間にはあり得ぬこと...。」

そう言った声に怒りの色を感じたのは僕だけだろうか。

「しかし、貴様の出品者に話を聞けば然もあらん。貴様は...」

ヴァリシアが言った。

「タルディウの生き残り!本物のバケモノ!哀れな畜生ではないか!」

高らかにヴァリシアが笑い声を上げた。

「それならば、並外れた頑強さも目を見張る再生能力も頷ける。私も見るのは初めてだが貴様のような小僧だとは思いもしなかったぞ。」

好奇心と哀れみが混じる視線が僕に集まる。

「あの忌々しい伝承は本当なのか?貴様を造り上げた研究者はどんな顔をしていた?そも研究所は一体どこにある?」

「わかりません。」

「わから、ない...だと?」

「はい。僕は人の親に育てられました。伝承も研究所のことも知りません。周りが騒いでるだけです。」

「...。」

呆けたような顔をヴァリシアがしたのは一瞬のことだった。

表情は消え去り、赤い瞳だけが爛々と輝いていた。

「それで...勘違いであることがわかって貰えたのなら僕はそろそろ...」

少しずつ後ずさる。

「ならん。」

兵が僕を取り囲んだ。

ヴァリシアが立ちあがりこちらへ近づいてくる。

「貴様はタルディウの民では無いのかも知れぬ。しかし、ギギサナスの拳を受けて生きている奇跡もまた事実。」

ヴァリシアが僕の胸倉を掴みあげ持ち上げた。

爛々と輝く瞳が目の前にある。

「貴様はこのセント王国の魔獣研究者たちが丁重に扱うことになっている。血の1滴、骨の一欠片まで全てな...。」

胸倉を放され床に足が着いた。

「ゴホッ、ゴホッ!ゴホッ!」

「貴様は地下牢で一生を終えるのだ。貴様の寿命が何年なのかは知らぬ、しかし安心しろ、セント王国の陽も永遠に沈む事は無い。その身を持ってギギサナスの敗北を贖え。」

冷酷な瞳が僕を見下ろしていた。

僕はまた牢に戻った。




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