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闘技場の壁の一部が動き始める。

壁がずれ巨大な通路が現れた。

暗がりから何かが飛び出す。

人間の上半身がおもちゃのように地面に転がった。

続いて大きな灰色の腕が明かりの下に現れる。

のしり、のしり、と巨大な拳を地面に付きながら歩いてくる。

堂々たる偉容を誇るようにゆっくりと優雅にその姿を現した。

獅子のような顔を持ちヒヒのような体を持っていた。

見上げる程に巨大な体躯をしている。

天に怒るような咆哮が闘技場に響き渡る。

静寂。

そして狂ったように観客たちの歓声が沸き起こった。

「皆様!これより、ギギサナスのオークションを開催致します!しかしただ競り合うだけでは興が覚めます...。よって!ギギサナスとここに集められた強者達によるバトル・ロワイアルを同時開催したく思います!!最後まで生き残れた者の出品者にはギギサナスと同額の報酬が支払われます!」

「コイツは参ったぜぇ...」

観客の興奮と裏腹に大きな男はうめき声を上げた。

「まさかこんなオークションもあったとはなぁ。もしかするとお前さん、一文にもならんかもしれんぞ!」

「そうですか...。」

「畜生!!もっと確認してから出品するべきだったぜえ!!」

他の出品者は粛々と檻から屈強な品物を出しているというのに大きな男は地団太を踏んでいる。

「あの...そろそろ僕もここから出してもらって良いでしょうか?」

「お、そうだな。負ける確率が100%だとしても博打ってのはやりたくなるもんだ。」

そう言って男は大きな手でポケットをまさぐった。

大きな男がごそごそと小さなポケットに手を突っ込む姿は何だかおかしかった。

「あー...。兄ちゃんよ...。悪いんだが...」

「え。」

嫌な予感がした。

「皆様!!準備は良いでしょうかッ!ギギサナスも獲物をお待ちかねです!それでは...」

「鍵、無くしちまったみたいだ。」

「オークション開始!」

「嘘だぁああ!」

ギギサナスが両拳で地面を叩いた。

振動が闘技場にいる全てのものを揺るがした。

「すごい力だなこれ...ん...?」

いつの間に大きな男は側から消ええていた。

「兄ちゃん後ろだぜぇ!」

振り向くと通路の中に男がいた。

その姿に似合わず逃げ足が早い。

「頼むから最後まで生き残ってくれや!!生きてたら飯でも奢るからよ!!頼んだぜえ!!バケモンの兄ちゃんよお!」

そう言うと通路の先へ消えて行った。

「簡単に言ってくれるけどこんなのどうすれば...。あれ?」

いつの間にか辺りが暗くなっている。

それに生暖かな獣臭が漂ってくる。

「...」

「...」

自然と冷や汗がこめかみを伝う。

振り向くと巨大な獅子の顔が此方を覗き込んでいた。

巨大な拳。

刹那、世界が回転した。

いや、これは僕の方が回っている。

鉄の檻ごと宙を舞っていた。

衝撃。

意識が朦朧とする。

地面に激突した衝撃で鉄格子が歪み外へと出れそうだ。

ここから出たく無いけど、出ないと痛い目に遭いそうだ。

嫌々ながら此処から出る事にした。

「うわ、すごいよ...これ...」

辺りに人の一部分と思われる物体や武器が散乱している。

剣を手に取る。

普通に使えそうな物だった。

土煙の先でギギサナスとかいう魔獣が暴れ狂ってるのが見えた。

人が舞い、魔獣が雄叫びをあげている。

「...これ持ってても仕方ないな。」

剣をその場に捨てた。

刀身が頼りない音を立てて転がった。

「どうしよう...。」

転がっている屍体を見て、ふとある事を思い付いた。


「さあっ!最後の1人です!!ギギサナスが競り落とされるのが先か挑戦者が死ぬのが先か!人の命が皆様の懐具合に掛かっております!!」

歓声が鳴り止まない。

闘技場の真ん中に立つ1人の筋骨隆々の獣人に視線が集まっていた。

「はぁっ!ハァッ!糞!悪趣味のクソッタレ金持ち共め!早く競り落とせよ!馬鹿野郎共が!!」

灰色の巨拳が繰り出される。

断末魔を挙げる間も無く、獣人は宙に舞い地面に落ちた。

「おおっと!ここでギギサナス落札!!何と劇的な一幕でしょうか!!獣人が絶命する瞬間の落札であります!!!見事、実に見事!!落札者は...」

闘技場の灯りが暗くなりスポットライトが派手な演出を見せる。

全てのライトが観客席の1番上にあるVIP席を照らし出した。

「セント王国の苛烈な華!!戦場の女神!!ヴァリシア王女!!!」

豪雨のような拍手と歓声と共に1人の女が立ち上がった。

赤く長い髪。

褐色の肌。

戦士の男と見劣りしないほどの身長。

深くスリットの入った紫色のドレスを身に纏い惜しげもなく脚を衆目に晒している。

大きな胸部を覆うドレスの生地は裂けそうなほどに張っている。

性別を問わずにこの場に居る誰もがヴァリシアの美しさと堂々たる立ち姿に魅入っているかのようだった。

ヴァリシアの名を叫ぶ者が後を立たない。

ヴァリシアが片手を上げると緩やかに歓声が引いていく。

「...はっ!私としたことがヴァリシア様の美しさに我を忘れておりました!!それでは!今オークション最大落札者でもあるヴァリシア様にインタビューをさせていただきます!」

ヴァリシアの映像が闘技場の真ん中に大きく投影される。

「ヴァリシア様!本日の催しはいかがでしたか!?」

「ああ。近年稀にみる盛況ぶりだ。私も大いに愉しませてもらったぞ。」

「ありがたき御言葉...。ときに、セント王国が出品した魔獣をセント王国の姫が落札した形となりましたが、何かお考えがあっての事でしょうか?」

「考え、か...。中々面白き事を言うではないか。」

恐ろしくも妖艶な笑みがヴァリシアの顔に浮いた。

「もっ、申し訳ございません!!」

「よい。そうだな...敢えて申せば...。」

ヴァリシアが楽しそうに逡巡する素振りを見せる。

「この魔獣は我がセント王国だけが持つ最強の魔獣。そして量産態勢も整っている。戦にコレが投入された日はどうなるか。そうさな、試しに...」

被虐的な笑みがヴァリシアに満ちた。

「今此処で放し飼いにしてみるか。」

息が詰まるような静寂が闘技場を支配した。

誰もが呼吸することさえ躊躇う中でクツクツと喉奥で笑うような音が響く。

「ククク...あっはっはっはっ!!冗談!冗談だ!お前たち、私を何だと思っているのだ。」

高らかに笑うヴァリシアを見て闘技場の雰囲気が氷解していく。

「ごっ、ご冗談が過ぎますよ!ヴァリシア様ぁ!」

「すまん、すまん。お前達の慌てぶり中々に愉しめたぞ。」

和やかなムードが闘技場を包んだ。

「しかしながら、この場は国と国の交流地帯。当然、今も肝を冷やしている輩も居るであろうがな。」

釘を指すような口振りで言った。

「私からは以上だ。愉しい催しであった。」

ヴァリシアが席に座る。

「あっ、ありがとうございました。皆様、セント王国の姫君ヴァリシア様に今一度大きな拍手を!!」

万雷の如く拍手が鳴った。

「それでは!今オークションはこれにて閉幕とさせていただきます!皆様、また来年御会い致しましょう!」

豪華絢爛な花火が打ち上がった。

司会の男は違和感を感じた。

例年通りなら此処で一際大きい拍手や歓声が鳴り響くはずだ。

しかし、それが無い。

代わりにあるのは観客通しの話声や、ある方向を指差す行為だけだった。

一体何だ?

司会の男は観客達が指を差す方へ視線を走らせた。

「ようやく終わりか...長かったなぁ...」

血まみれの少年が死体の下から這い出して来ていた。

一体、一体何が起きている?

セント王国の魔獣が獲物を見逃すはずが無い、無いはずなのだが...

「あのぅ...終わったのなら僕此処から出たいんですけど...」

「き、君は一体...」

「貴様ぁッ!!何者だ!!」

司会者の男の声は遮られた。

代わりに響き渡るのはセント王国の姫ヴァリシアの声だった。

怒りを隠そうとしない武者のような声音が闘技場の観客達を震わせた。

「僕は人の子ライル。そんな事より...僕を此処に連れてきた人知りませんか?やけに体が大きくて毛がモジャモジャしてるんですけど...」

ヴァリシアが苦虫を噛み潰したような顔をした。

唇の端から血が垂れる。

「殺せ。」

「え?」

灰色の巨拳がライルの前に突然現れた。

ギギサナスの豪腕が風を嬲る音。

ライルの脳裏にはヴァリシアの怒りに満ちた赤い目が焼き付いていた。


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