~魔獣王国セント褐色戦姫()篇~
初投稿です。
完走できるよう頑張ります。
今日も空が青い。
こうして見上げる空はいつも澄み渡っている。
雲も太陽も鳥も何処へ行ってしまったのだろうか。
「お頭!見つけましたぜぇ!」
「なにィ!?でかしたぁ!!こんな糞溜めにわざわざ来た甲斐あったぜ!」
「全くでさぁ!」
歓喜の色が混じった声が近づいてくる。
一体何がそんなに嬉しいのだろうか。
死体しか無い戦場に好んでやってくるなんて録な連中じゃない事は確かだ。
青い空を大きな影達が覆う。
「おお...おお!!こいつに間違いねぇ!!」
「ホントですかお頭!」
「ああ、コイツは...」
兎に角僕は。
「正真正銘のフリークスよ!!」
雲が見たかった。
目覚めると手錠を掛けられていた。
辺りを見回すと物置きのような所に居ることがわかった。
全て鉄格子の向こう側に見える景色だ。
僕は檻の中に閉じ込められていた。
鼻をくすぐる良い匂いがする。
「お腹、空いたな...」
「ようやくお目覚めかい。」
暗闇の向こうから野太い声がした。
薄明かりの中へ巨体が入ってきた。
「3日3晩眼を開けねえもんだから肝が冷えたぜ。そら、食いねえ!」
剛毛の生えた太い腕が鉄格子の向こうから伸びてきた。
パンや肉入りスープや水を置いてくれる。
とても美味しそうだ。
「ありがとう、ございます...。」
「がははっ!礼儀正しいやつだ。しかしなぁ、礼を言うのはこっちの方だぜ。なんせお前には...」
何やら、遠くの方から賑やかな音がする。
「このオークション会場で死ぬほど稼いでもらうんだからなぁ!!」
一際大きな歓声が響いてきた。
「おうおう。今日はいつにも増して盛り上がってるなぁ。俺も参加者側で楽しみたかったぜ。」
パンをちぎって口に運ぶ。
とても美味しい。
焼き上がってからそう時間が経っていないことがわかる。
スープの方はどうだ。
これは...珍しい...。
間違いなく竜種の肉だ。
断面のグロテスクさに反比例するこの旨さ...。
舌の奥に響く味だ。
「兄ちゃん...。旨いか?」
体付きが並外れてデカイ男が不思議そうな顔をして此方を見ていた。
「はい...。」
「そうか。そんならほれ、もっと食え。もっと食って力つけろ。」
スープが並々と注がれた皿を男が差し出してきた。
太い笑みが男の顔に浮いていた。
「ありがとう、ございます...」
「おうよ!しかしおめえは良く食う癖に声が小せえやつだなぁ!」
何が面白いのかまた大きく笑った。
「あの...ここは一体どこなんでしょうか...?」
「うん?さっきも言わなかったか?オークション会場よ。それも表には出せねえレアなモンを競り合う闇のオークションだ。一年に1度開かれる何でもアリの祭りとも言えるな。」
「はあ...。」
「賭けに喧嘩に女に男。美食珍味、快楽に異形。何でもあるぜえ。俺みたいな馬鹿には最高の場所だぜ。」
「それで...僕は何をさせられるんでしょうか...。」
「そうさなぁ。実は俺にもわからんのだ。」
ガハハと男が笑う。
「お前をオークション前に元気にする事で頭が一杯でな。よくわからん魔術師に大枚はたいて治癒術を掛けさせても眼を覚まさんし、色っぽい姉ちゃんにまさぐらせても、生魚で顔を覆っても寝続けてるから大変だったぜ。」
「なんか、割りと酷い目に合わされてるような...」
「ガハハ!気にするな!良いってことよ!」
なぜかお礼を言ったように取られてしまった。
銅鑼の音が大きく響いた。
「ようし。そろそろ出番だぜ。大金になってくれよ~兄ちゃん!」
大きな男が祈るように手のひらを握り合わせた。
台車に載った僕の檻を男が押し始める。
「あの、あなたが僕を拾ってくれたんですよね。」
「なんだ覚えてたのかい。」
「はい。感謝しています。僕はまだ死ぬわけにはいかないので...」
「あんな所に行っておいて死にたく無いとは変な野郎だな。お前さん。」
「いやぁ...そうなんですけど。成り行きというか...。」
「ああ。わかるぜ。全ては成り行きだ。お前さんが此処にいることも俺がこうしていることも。」
「そう、ですね。」
「お前さんが大金に変わるのも成り行きだ。」
「そうなんでしょうか?」
「ガっハっハっハ!!!」
強い明かりが眼を眩ませた。
大きな歓声が僕を跳ね返すような弾力を持って迎え入れた。
円形の闘技場のような場所だ。
数えきれない数の観客がいた。
闘技場には僕のように檻に入っている人間や獣人が沢山いる。
「こいつぁ、嫌な予感がするぜ...」
大きな男がポツリと呟いた。
「皆々様!!お待たせ致しましたっ!本日のメインディッシュの登場です!」
張りのある明るい声が耳に痛い。
「皆様の中にはこの噂を耳にした方もいらっしゃることでしょう。
セント王国が誇る最強魔獣。その姿を戦場で見た者は誰ひとりとして生きて帰れない...。
獣の王、人造悪魔、暴虐紳士...
その全ての名を背負うバケモノ。ギギサナスの登場です!!!」