壊れた異世界人 一方的な会話・2
2020/08/29 誤字修正
ゆっくりとベッドに近づくと、寝ている男の顔が見える。
頬は痩せこけ、顔色も悪い。
首筋は布にまかれ、治療の跡がある。
見えている腕には、いくつもの小さい傷。
動脈に達したと思われる大きな傷あと。
ユミル:
「フリスト。
僕はここで、目が覚めるのを待たせてもらうよ」
フリスト:
「どうぞ、ご自由に」
この日、異世界人は目覚めなかった。
ユミル:
「フリスト、今日はこの辺で帰らせてもらう。
また明日、面会に来るよ」
フリスト:
「あい、あい」
フリストは、こちらを見る事もなく手を振っている。
扉を出て辺りを見渡すと、まだ警備兵が立っていた。
ユミル:
「すみません。
警備、ご苦労さまです」
警備兵:
「いえいえ、こちらも仕事ですから。
ただ面会の時間を、もう少し短くしていただけたら。
ありがたいですが」
帰路へとつき、部屋のベッドへと倒れ込む。
本当に、疲れた。
いつ気を失うのか、わからない。
会いに行くだけで精神がすり減る。
生命活動の保護とは、体の状態のこと事か。
しかし、2年とはどういう意味だ?
2年で、利用価値がなくなるという事なのか?
2年以上とも言っていたしな。
異世界人接触から、すでに一週間以上がたっている。
話ができれば、何か進展があるかもしれないが。
しかし、話してくれるのだろうか?
一週間、たってるじゃないか……
異世界人の側まで行けるようになったのは良かったが。
僕はいったい、何をしていた?
記憶をたどっても、フリストとの雑談ばかりだ。
まずいな。
でも、何か違和感が残る。
異世界人に、はじめて会った時。
フリストはしつこく説得するように言ってきた。
でも、今はない。
なぜだ……?
窓からの朝日で、目が覚める。
いつの間にか眠ってしまったようだ。
ボーとしたまま、顔を洗って身支度を整えた。
フリストに、確認する必要がある。
ユミル:
「よし!行くぞ!」
警備兵に、案内され扉の前へとやってきた。
コンコンコンコン。
扉をたたいて、しばらく待つが返事はない。
返事を待たず、扉を開けた。
中を見渡すと、ベッドで寝ているのが確認できる。
椅子に腰をかけて居眠りしている、馬鹿女がいた。
ユミル:
「オイ!
フリスト、ケーキの差し入れだ」
フリスト:
「んぁ?
ケーキをくれ!」
ユミル:
「冗談だ」
フリスト:
「ユミル!
喧嘩売ってるのか!?」
ユミル:
「寝ているお前が悪い」
フリスト:
「ユミル何しに来たんだ?」
ユミル:
「僕は、勇者様との交渉に来たんだよ」
フリスト:
「でも、勇者様は寝ている。
容体もあまりよくないみたいだから、起こせないぞ。
話はできない、帰れ」
シッシッと手を振る。
ユミル:
「さてと、席を借りるぞ」
フリスト:
「だから帰れって」
言葉を無視して、フリストと向かい合うように椅子に座る
フリスト:
「ユミル!
俺様の許可なく座るなんて、何様のつもりだ!」
ユミル:
「ケーキ様だ!
今度、持ってきてやる」
フリスト:
「仕方がない。
今回の無礼は、特別に許してやろう」
お前は、一体何様だよ。
異世界人との面会は、上層部に許可を受けている。
というか、仕事だ。
フリスト:
「ユミル。
話はできないぞ」
ユミル:
「あぁ、大丈夫だ。
すでに交渉は開始している」
フリスト:
「なにそれ?」
ユミル:
「フリスト、聞いてくれ。
僕の面会は、午前と午後にそれぞれ1度。
時間は9時半と14時半にくる。
面会時間は、1時間から2時間ぐらいだ」
フリスト:
「ふーん
わかった」
ユミル:
「勇者様の容体はどうなんだ?
食事はどうだ?
変化はなかったか?」
フリスト:
「食事?
1日に1回ぐらい?
変化、変化。
そうだな。
ユミルが来てから、
定期的に食事をするようになったかな?」
寝ている異世界人を、確認する。
顔色、腕の肉付き具合。
本当に大丈夫なのか?
ユミル:
「そうか。
勇者様の食事回数をもっと増やせないか?
きっと彼は、家族を探しに行きたいはずだ。
僕は、その手伝いが出来ると思う」
フリスト:
「ユミル。
それって……」
手を挙げて、フリストの言葉を遮る。
家族にこだわりがあるなら、今の話に興味を持つだろう。
ユミル:
「フリスト。
何時からここで世話をしている?
僕の前にも何人か、交渉人が来ていたんじゃないか?
何人いたか、分かるか?」
フリスト:
「俺様が、世話を始めたのは2月前ぐらいかな?
ユミル以外の面会人は、2人だと思うよ」
ユミル:
「何を話していたか、知っているか?」
フリスト:
「いや、知らない。
退室させられるから、内容はさっぱりだ」
ユミル:
「情報なしか。
お前、お菓子は何が欲しい?
午後に持ってくから、希望はあるか?」
フリスト:
「お菓子?
やっぱり、ケーキだよケーキ」
くだらない世間話をしていると、瞬く間に時間は過ぎていく。
ユミル:
「お!
そろそろ、時間だ。
僕は帰るよ。
また午後、面会に来る」
フリスト:
「おう!
ケーキを持って来いよ、フルーツの乗ってるやつ」
ユミル:
「ああ、分かった」
ベッドに向けて、声をかける。
ユミル:
「勇者様。
家族を探すためにも、体力は必要です。
お食事をお取りください。
失礼します。
午後に伺いますので、またよろしくお願いします」
情報部へ戻ると、空いている会議室に引きこもる。
集中するために、一人になりたい。
フリストは僕に、交渉するように言ってこない。
食事を摂取するようになり、状態が安定したんだろう。
僕が面会に行く時間を制限すれば、
その間に十分な食事を、取るようになるはずだ。
やはり、異世界人は起きていたんだ。
はじめて会ったときから、ずっとだ。
異世界人は、目覚めている。
僕が面会にいくと、彼は目を閉じる。
目を閉じてどうする?
僕のことを、観察するのか。
何のために?
少将からの情報では、異世界人へと近づけるのは、僕とフリストだけだ。
それ以外の人物は、昏倒してしまうらしい。
フリストは世話人、これは理解できる。
僕は異世界人に、家族の探索と待遇についてい話すことを伝えた。
これが原因だろうか?
交渉相手として認めてもらえたのか?
違う。
それを確認しているのか?
僕が交渉に値するかを。
生命の維持と関係の修復。
適当に家族を探す話をしていれば、
異世界人の命は、確保できるのではないか?
だが、嘘だと認識されれば、僕との関係性は壊れるだろう。
異世界人を探す手段を、探さなくてはならない。
すぐに資料を請求する。
異世界人の情報がほしい。
コンコンコンコン。
扉をたたいて、しばらく待つが返事はない。
返事なしか。
返事を待たず、扉を開ける。
ユミル:
「フリスト
返事ぐらいしろ」
フリスト:
「ユミル
しーーーーーーー
勇者様が、寝ている」
ユミル:
「ほれ、ケーキだ」
フリスト:
「おおぉぉ、持ってきたか!」
奪い取って、手づかみで食べ始めてしまう。
異世界人が寝てるんじゃないのか?
コイツ、うるさいな。
ユミル:
「皿にとるとか、フォークを使うとかあるだろ!」
フリスト:
「あぁ。
フォークは、危ないから禁止だよ」
ユミル:
「僕は、座らせてもらう。
それと、ミカンのやつは勇者様用だ。
お前、食べるなよ。
渡しておいてくれ」
フリスト:
「わかった」
椅子に座ってから、一息入れる。
ユミル:
「フリスト、聞いてくれ。
僕の面会は、午前と午後。
9時半と14時半。
時間は、1時間から2時間ぐらいだ」
フリスト:
「ユミル。
疲れてるのか?
それとも馬鹿なのか?
それは、前にも聞いたぞ」
ユミル:
「異世界人は、起きているんだろ?」
フリスト:
「寝てるよ!
気絶状態!
爆睡!
いや、死んでるって!」
ユミル:
「死んでたらまずいだろ?
お前、馬鹿だな」
フリスト:
「俺様は、馬鹿じゃない……」
馬鹿は、放っておこう。
ユミル:
「勇者様。
異世界人の情報を、少将に請求しています。
どこまで開示されるかわかりませんが。
ご家族を探す役に立つかもしれません」
フリスト:
「勝手に、話をするな。
従者であるこの俺様を通せ!」
ユミル:
「勇者様。
自分は、ノルナゲスト少将から依頼で、こちらに来ています。
勇者様のお力になるために参りました。
前に来ていた者たちとは、別であることをご承知ください。
自分はご家族を探すお手伝いを……」
フリスト:
「おい、ユミル。
勝手に話すなって、言ってるだろ!」
フリストに、食べ物を与えながら話し続ける。
何度も邪魔されたが、伝えたいことは話せたはずだ。
ユミル:
「それでは、勇者様自分は帰ります。
お食事をお取りください。
話ができる事を、楽しみにしています」
退室すると、ため息が出る。
面会を何度も繰り返した。
話の内容は、毎回、似たようなものだ。
何も反応がないと、正直、不安になる。
感想、レビュー、ブクマ、評価、お待ちしております。
おかしい部分や修正点、加筆部分なんかを知りたいです。
よろしくお願いします。