壊れた異世界人 一方的な会話
2020/08/28 誤字修正
ゴソゴソ、ゴソゴソ。
左腕が、ドクン、ドクンと痛む。
頭も痛い。
だが、不思議なことに体は涼しく、
開放感に溢れていた。
両手を握って、開く。
少しなら動くみたいだ。
視界もぼんやりとだが、見えるようになった。
ゆったりと呼吸していると、
頭がはっきりしてきた……
グイグイと、
とんでもない物を、引っ張られている。
ユミル:
「おっ
おっぉ!
痛!」
最後の下着は、なんとか死守できた。
フリストが、ニヤニヤしながらこちらを見ている。
ユミル:
「お前が、服を脱がせたのか!?」
フリスト:
「無論。
私が、脱がせた。
ユミル。
手当をした相手に向かって……
何だ、その態度は?」
ユミル:
「手当は、助かった。
ありがとう。
しかし……
それと、これは別問題だ」
フリスト:
「俺様は、お前に忠告したはずだ。
無視した結果が、これか?」
ユミル:
「いや。
これと服は、関係ないだろ……」
納得が、いかない。
フリストから説教を受ける。
要約すると異世界では、初対面は全裸で会うのが普通らしい。
僕は大変に失礼なことをした、というのだ。
全裸の大切さを説かれた。
おかしいだろ?
それが事実であれば、少将からもらった資料に説明があるはずだ。
これまでに、軍は多くの異世界人と接触している。
今回が初めてではない。
仮に、仮にだ。
僕自身が寝たきりの状態で、体が動かない時。
全裸で近づいてこようとする。
そんな男がいるのなら、殺せるなら殺しておきたい。
全裸で異世界人に近づいたら……
僕が殺されそうだ。
よくよく話を聞くと……
異世界人から服を着るように、注意を受けているじゃないか。
フリストだけが異世界人の世話を出来る、というのは本当らしい。
彼女だけが会話をしたり、体を触ることができるみたいだ。
現状、僕では会話どころか近づけもしない。
フリストの協力が必要だ。
彼女の説得を試みたが難航する。
初対面は下着で会う、という条件で協力を得た。
僕は、お前に呼ばれたと思うんだが……
ユミル:
「きちんと、話してくれたか?」
フリスト:
「伝えた。
いいってさ」
ユミル:
「本当か?
本当にか?
僕には、会話が成立しているようには見えなかったぞ!」
フリスト:
「間違いない!
俺様を信じろ!」
ユミル:
「本当に、下着姿で失礼にならないか?
次からは、服を着てもいいんだよな?
僕の事を……説明してくれたんだよな!?」
フリスト:
「しつこいなぁ。
俺様を、信用しろよ」
信用できない。
離れて見ていたが、一方的に話しているようにしか見えなかった。
何時、何処で、誰が、返事をもらったんだ?
ユミル:
「フリスト。
そこから動くな!」
フリストが異世界人の脇に立っている。
何かあれば、あいつを盾にしよう。
ゆっくりと近づいていく。
心臓がドクン、ドクンと跳ね、頭が真っ白くなる。
僕が先程、気を失った場所だ。
一歩を踏み出すという一瞬の時間が、何十秒にも感じる。
足が床につく。
一歩、また一歩、異世界人へと近づいた。
フリストが間にいて、顔を見ることができない。
あと少し、少し歩けばいい。
わかっている。
でも、足が出ない。
ユミル:
「始めまして、情報部から参りました。
伍長のユミルと申します。
勇者様のご家族の調査のご協力と。
今後の待遇について。
お話をさせて頂きたく参りました。
勇者様の体調のこともありますので。
今日は、ご挨拶のみとさせていただきます」
ポタポタと汗が落ちる。
顔を上げて良いのか?
大丈夫のなのか?
ゆっくりと元いた場所へと戻る。
殺されるかと思ったぞ……
フリストに向かって手招きする。
フリスト:
「ん?
なに?」
ユミル:
「こっちに来てくれ」
フリスト:
「なに?」
ユミル:
「僕の話は、伝わっているのか?」
フリスト:
「え?
おう。
伝わった、伝わったぞ。
あぁ、もちろんだ」
ユミル:
「果物の入ったカゴがある。
異世界人に渡してくれ。
あの状態では、食べるのは無理だろう。
ジュースにして飲ませてほしい。
お前の分もあるから、全部食べるな。
今日は、帰らせてもらう」
手首から肩まで、裂けているみたいだ。
フリストによって止血はされており、包帯も巻かれている。
左腕が痛い。
砕けた身代わりの腕輪が2つ床に転がっている。
身代わりの腕輪一つで、
攻撃魔術を10回は耐えられるというのに。
特殊装備が一瞬でこれか。
こんな話、聞いていない。
すぐに報告書を送り抗議するが……
任務を継続せよ、との返事だった。
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