壊れた異世界人 準備
2020/08/25 誤字修正
昨晩は、あまり眠れなかった。
後から疑問が、湧いてきたからだ。
特別任務と言われたが、どういう分類にあたるのだろう?
情報の機密度は、どれくらいなんだろうか?
秘密任務ではない。
と思いたい
秘匿レベルを聞いておくのは当然じゃないか。
異世界人の重要度はどれくらいなんだ?
軍部の中では、一般的なのか?
確認を取るにしても、命令者が誰かもわからない。
通常業務は、どうすれば良いんだ?
資料が届くと言っていたが……
どうやって届くのだろう?
自分の直属の上司である、
少尉に相談しても良いものだろうか?
場合によっては任務開始前から、大きなミスを犯してしまう。
僕は一体、何をやっているんだ……
職場に向かう足が重い。
情報部は陸軍第2庁舎、1階の端にある。
僕の席は、扉から入って一番奥から2番目。
明り取りと通風孔はあるが、大きな窓はない。
窓がないのは、外からの侵入を許さないためだ。
机には同僚から押し付けられた、仕事の書類が乗っている。
多くの書類は、定型業務だからすぐに片付く。
問題ない。
朝礼が終わると、少尉に呼び出された。
防音性の高い、小さな会議室だ。
少尉:
「ユミルくん。
少将から、指示書が届いている」
ユミル:
「少将が、自分にですか?
何かの間違いで……は?」
少尉:
「何を言っている。
特別任務の件だ。
少将、自ら打診あったと聞いているが……
違うのか?」
あれは、少将だったのか。
ユミル:
「身分を伺っていなかったので。
何か失礼なことは、ありませんでしたか?」
少尉:
「いや。
得には、聞いていない。
それよりも、少将、直々の任務だ。
私も、鼻が高い。
君にとっても、大きなチャンスだ。
期待にこたえるように」
ユミル:
「はい。
自分の任務ことを……
少尉は、どこまでご存じですか?」
少尉:
「私は、聞かされていない。
特別任務、とだけだ。
君の通常業務は、こちらでもバックアップする。
それでは、ユミル伍長。
陸軍第1病棟に行ってくれ。
そこで受付に、所属と名前を伝えるといい」
病棟1階の受付で、所属を伝えると病室へと案内された。
ここに、異世界人が居るのだろうか?
少将から聞いた話と違う。
まだ、2日あるはずだが。
扉を開けると、小さな個室だった。
中は清潔で花の花瓶が置いてある。
ベッドには、女性が横たわって寝ているようだ。
辺りを見渡す。
妹の居る病室とは、大きく違っていた。
臭いが全く違う。
何日も体を洗っていない時の、すえた臭い、
化膿した傷から漂う、その臭いがないのだ。
エイルもこんな所に入れたら……
異世界人に、近づいてもよいのだろうか?
こちらの都合で、起こすのはまずいだろう。
しばらく立ち尽くしていると、
軍服を着た女性が、部屋に入ってくる。
衛生兵?:
「こんにちは。
エイルさん、具合はどうですか?
よく寝てますね。
お兄さんですか?」
僕は異世界人の件でここに来たはずだ。
こいつは、一体何を言っている?
フラフラと、ベッドに近づく。
そこには妹が、静かに寝息をたてていた。
顔は左半分と口元もただれており、真っ赤に腫れいてる。
白いベッドだ。
どれほど。
どれほど憧れたことか。
妹は劣悪な環境の中で、苦しみもだえ……
死んでいくと思っていた。
僕は、その場に膝から崩れ落ちる。
温かいものが、溢れ出し床にポタポタとシミを作った。
両手で口を抑え、
声を出さないようにするのが精一杯だ。
しばらくすると、声を掛けられる。
衛生兵?:
「お兄さん、大丈夫ですか?」
平静を装うが、赤くなった目は隠せない。
ユミル:
「はい。
大丈夫です」
衛生兵?:
「医師の方から書類を渡すようにと、預かっています。
大切なものなので。
すぐに読んでほしい、とのことでした」
ユミル:
「すみません。
ありがとうございます」
封書を受け取ると、女性は部屋を後にする。
なんだろう?
と開けてみると中には、少将からの資料が入っていた。
ユミル:
「ノルナゲスト少将……」
中身は命令された、特別任務の内容だ。
前日の説明内容以外に。
交渉の基本方針。
目指すべき交渉内容。
異世界人の収容場所。
情報の機密度。
異世界人の基本説明。
交渉相手に、伝えて良い内容と悪い内容。
報告手段と最低限の報告すべき内容。
そして、注意点。
これらの詳細が記録されていた。
封書の中には、チケットも入っている。
交渉に必要な、経費チケットと動員チケットだ。
経費チケットは、交渉に必要な費用を、用意するためもので。
1枚で100万まで引き出せる。
普段使用しているものとは、桁が違う。
交渉時に、人手が足りない可能性がある。
動員チケットは、その時に使うもので。
下士官はもちろん、士官。
そして軍施設も使うことが出来る便利アイテムだ。
大佐まで利用できる、と記載があるのが恐ろしい。
ノルナゲスト少将の名前で、仕事を頼めるようだ。
直属上司の5階級上の存在だぞ。
書類最後の1枚に、背筋が凍った。
僕と妹・エイルについての待遇だ。
妹の現状は。
僕が任務に専任できるように、するための処置。
また、報酬の先払いだそうだ。
異世界人との交渉が決裂した場合……
僕と妹が、命を失う可能性があることが明記されていた。
失敗自体が、許されていないのか。
クソッ。
僕は、どうすればいい?
妹を失うわけには、今の環境も失いたくない。
いくら考えても、答えは出ない……
やってやる。
やってやるよ!
どんな手段も、使ってやるさ。
僕は、寝ている妹をもう一度、見る。
ユミル:
「必ず助ける」
僕はすぐに、部屋を後にした。
通常業務と同僚の仕事を手早く片付ける。
少尉には、任務に専念するよう言われたが、頭の切り替えにちょうど良かった。
異世界接触は、明日だ。
猶予は、まだある。
会議室を1部屋専有し、資料を何度も読み返していた。
資料室と会議室を何度も往復する。
少将の理想とする、異世界人の従軍は難しい。
しかし、妹の待遇を維持するためには、成果を出す必要がある。
僕の結論は、最低限の目標として。
生命の維持と関係改善に、焦点を定めるべきだ、と思う。
何度も資料を読み返して思ったが。
軍人としての交渉では、関係改善は不可能ではないのか?
過去に行われた異世界人との2回の交渉。
軍との関係性は崩壊している。
異世界人の立場で話ができなければ、関係性の修復は難しい。
異世界人のために、行動すべきだ。
軍の力を使って異世界人を助ける。
そうでなければ、信頼は勝ち取れないだろう。
軍の理想には、遠いかもしれないが。
だが、少将の条件は確保できる。
関係が修復できれば、軍への協力は可能かもしれない。
方針は、これでいいはずだ。
コンコンコンコン。
会議室の扉が叩かれる。
後輩:
「ユミル伍長。
荷物が届いています」
ユミル:
「ありがとうございます」
なんだろう?
箱を開けるといくつかの備品、それと手紙が入っていた。
フリストからの資料のようだ。
『早く、説得に来い。
偉大なる勇者様と共に、世界を破壊へと導くのだ!
勇者様は、ちょっぴり頭を打ってしまったのか?
記憶の大半を失い、瀕死の淵にある。
勇者様は、俺様的不思議空間を展開しており。
かなり不味い状態だ。
うかつに侵入すると、腰痛、痔の悪化、口臭が臭くなり。
水虫が激しく痒く、死ぬことすらあるらしい。
交渉の際は、失礼のないようにする事。
服装は、全裸を指定する。
きちんと体を洗ってこい、隅々まで。
交渉は丁寧に行うこと。
あと、俺様に果物を持ってこい』
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