6-2 仕方がないのでお手紙書いた
──翌朝。
クレアがそっと寝室のドアを開けると、エリスはまだ眠っていた。
ドアのすぐ横に空のスープ皿が置かれているのを見つけ、クレアはそれを拾い上げる。やはり身体が怠いのだろう、自分に洗うことを託したようだ。
クレアは皿を洗い、身支度を整えると、昨夜と同じくメモを書く。
そしてそれを、ドアの下から寝室へと差し込み、
「……いってきます」
小さく呟いてから、家を出た。
* * * *
エリスが目覚めたのは、昼近くになってからだった。
「………………」
起き上がり、声を出そうとしてみる。が、やはり出ない。少し痛む喉から、虚しく吐息が漏れるのみだった。
それでも、身体の倦怠感はだいぶ軽くなっていた。熱も引いたようだ。薬が効いたのだろう。
身体から完全に菌がいなくなれば、声も出るようになるらしい。それまで約五日間は、完全隔離生活だ。
そういえば、とエリスが寝室の入り口を見ると、置いておいたスープ皿がなくなっていた。クレアが片付けてくれたのだろう。
代わりにまた、一枚のメモが落ちているのを見付け、エリスはベッドから降りそれを拾った。
『仕事に行ってきます。
食事を作ったので、食べられるようなら
召し上がってください。
キッチンに置いておきますね。
なるべく早く帰ってきます』
昨日の夕方頃にスープを一杯飲んで以来、半日以上が経過している。「ご飯……」と考えただけで、腹が鳴った。
エリスはそろっと寝室から顔を覗かせ、リビングの様子を伺う。当然ながら、クレアはいなかった。
そのままキッチンへ向かうと、彼がメモに残した通り、調理済みの鍋が置かれていた。
蓋を開けてみると、中身は真っ白なクリームシチュー。昨晩食べたスープに牛乳を加えてアレンジしたらしい。テーブルの上にはパンも置かれていた。
エリスはシチューを温め直し皿に盛り付け、口パクで「いただきます」と手を合わせてから、パンと一緒に食べ始めた。
ぱくっ。
と、スプーンで掬ったシチューを口にした瞬間……エリスはうっとりと目を閉じ、身体をぷるぷると震わせ悶絶する。
美味い……美味すぎる。街のレストランで出されたっておかしくないクオリティだ。
元のスープの旨みに加えて、チーズとバターと……このコクのある甘みは、隠し味にハチミツが入っているとみた。
嗚呼、こんなに美味しいものを作ってくれる恋人がいるなんて、幸せにも程がある。
これで声が出せて、クレアが目の前にいてくれたなら、間違いなく「うんまぁああっ♡」と叫んで、持ち得る限りの言葉を尽くし彼を賞賛したことだろう。
しかし今は、それが叶わない。
となると、残された手段は……
エリスは食事を終えると、寝室に戻り。
サイドテーブルに便箋を広げ、ペンを握ると。
熱い思いの丈を、文字に変えてぶつけた。
それから、薬を飲んで。
まだ少しぼうっとする頭で寝たり起きたりを繰り返し。
クレアが帰宅する前に風呂を済ませて。
先ほど書いた手紙を食卓に置いてから。
ベッドに戻り、再び眠った。
* * * *
日暮れ前。
両手に紙袋を抱えて、クレアが帰宅した。
帰りがけに食材を買い込んできたのだろう、手が塞がっているため足だけで靴を脱ぎ家に上がると、リビングのテーブルにドサッと荷物を置いた。
エリスはどうしていただろうか……と、家の様子を見回すと、洗った食器が水切り台に伏せてあり、脱衣所には彼女が着ていた寝間着が脱ぎ捨てられていたため、ちゃんと食事を摂って風呂にも入ったことがわかった。
寝室のドアに耳を近付け中の気配を探るが、エリスが動いている様子はない。彼の帰宅にも気付かず眠っているらしい。
寝ている間に夕食を作ってしまおうと、クレアは食卓に置いた食材を袋から出し、仕分けていく。
と、
「……ん?」
そこでようやく、袋の下に紙が置かれていることに気付いた。
これは……
「エリスからの……手紙?」
だった。
そこには、こんなことが記されていた。
『お仕事お疲れさま!
シチュー、すっっっごくおいしかったよ!!
スープの時点でおいしかったのに、さらにその出汁が生かされてて、バターとチーズの風味が濃厚で、絶妙なとろみと味付けだった!!
あと、ハチミツ入れたでしょ? 砂糖とは違う、コクのある甘みを感じた!!
パンとの相性も最高だったよ!!
こんなおいしいものを家で食べられるだなんて幸せ。
いつもありがとう。
早く治して、大好きなクレアの料理を一緒に食べたいです』
「……ふふ」
勢いのある文字と内容から彼女の興奮が伝わり、クレアは思わず笑みをこぼす。
『幸せ』
『いつもありがとう』
その言葉を噛みしめるように、何度も何度も読み返す。
そして、
「…………」
ふと、一つの疑問が頭をよぎり。
クレアは紙とペンを用意すると、その手紙の返事を書き始めた。
それから、書き終えたそれを寝室のドアの下にそっと差し込んで。
夕食の支度に取り掛かった。
──くんくん、と鼻を鳴らし。
エリスは、目を覚ました。
すっかり暗くなってしまった寝室の中、むくりと起き上がると……ドアの隙間から、リビングの灯りが漏れているのが見えた。
調理する音と、美味しそうな匂い。クレアが帰ってきているのだ。
ベッドから降り、エリスはサイドテーブルのろうそく台に火をともす。
もうすぐ夕飯ができるのかな。と、もう一度ドアの方を見ると、床に紙が落ちていた。
きっと、クレアからの手紙だ。
エリスはそれを拾い上げ、内容を確認する。
『わざわざお手紙ありがとうございます。
シチュー、喜んでいただけたようでなによりです。
体調はいかがですか?
皿洗いも私がやりますので、食べ終わったら
そのままでいいですからね。
それから、一つ疑問なのですが……』
……ギモン?
なんだろう、と思いながら続きを読むと……
『いただいた手紙の最後、
「大好きなクレアの料理」という表現についてですが、
この「大好き」は、「私」にかかるのですか?
それとも「料理」の方ですか?
気になったので質問させていただきました。
私としては前者であることを強く希望します。
回答をお待ちしております』
「…………?!」
エリスの顔が、真っ赤に染まる。
はぁ?! こいつ、どんだけ細かいこと気にしてんのよ!
つーかそこまで深く考えてなかったし!!
エリスが狼狽えていると、寝室のドアが「コンコン」とノックされ、
「エリス。夕食ができたのでお持ちしました。入りますよ」
「……!!」
こ、このタイミングで入ってくる……?!
エリスは慌ててベッドに潜り込み、寝たふりをした。
キィ……とドアが開く音、そして彼の足音。食器がカチャカチャ揺れる音と共に、美味しそうな匂いが部屋に入って来た。
エリスはドキドキしながら、毛布の中でぎゅっと目を閉じる。
……よく考えたら灯り点けてるし、床から手紙拾っちゃったから、一度起きたのは間違いなくバレている……!
だけどこんな状況で顔を合わせるなんて、照れ臭いというか恥ずかしいというか……!!
……あぁ、でも。
一日の中でクレアの顔を見ることができるの、今くらいしかないのに。
ちょっと、もったいないことしちゃったな……
……などと、エリスが寝たふり作戦を少し後悔していると、
「エリス」
サイドテーブルに食事を置いたクレアが、彼女を呼んだ。
その声は、寝ている相手に呼びかけると言うよりは……
間違いなく、起きていることを確信しているトーンで。
「…………」
エリスは、もそもそと毛布から顔を出し、観念したようにクレアの方を見る。
すると彼は、にこりと笑って、
「お返事、お待ちしていますね」
とだけ言って。
そのまま、寝室を出て行った。
ぱたん、とドアが閉まるのを見届け、エリスは……
……あぁぁあやっぱりバレてた!
手紙読んだことも!! 寝たふりしていたことも!!
と、枕に顔を押し付け、恥ずかしさに暫し震えた。
それから、サイドテーブルに置かれた食事に目を向ける。
今日の夕飯は、クリームパスタだった。シチューをさらにアレンジしたのだろう、ほうれん草と鮭が加わり、胡椒をまぶしてあった。
……これは、間違いなく美味い。
エリスは、ぎゅうぅっと鳴るお腹を押さえつつ毛布から這い出て。
……とりあえず、手紙の返事は食べてから考えよう。
そう決めて、手を合わせてから、食べ始めた。
* * * *
食事と後片付けを終え、風呂に入り。
クレアが寝支度を整えたところで。
──カサッ。
寝室のドアの下から、一枚の紙が出てきた。
お、ついに返事が来たか。
だいぶ困っている様子だったが、果たして。
クレアは少しわくわくしながら、その内容を確認する。
『晩ご飯ごちそうさまでした。
クリームパスタ、すっごくおいしかったです。
体調も、声が出ないこと以外はだいぶいいので
皿洗いは明日、自分でやります』
文面は、そこで途絶えていた。
「…………あれ?」
クレアは首を傾げてから、急いで紙にペンを走らせ、それを寝室に差し入れる。
寝室の中、ドアの前にしゃがんでいたエリスは、想像以上に早い彼からの返事に驚きつつも、入り込んできたメモを拾って読んでみる。
『さっきの質問のお返事は?』
……やっぱ、誤魔化せなかったか。
エリスもすぐに返事を書き、ドアの下から差し込んで返す。
『どっちでもいいでしょ、そんなの!』
クレアもすぐさま書いて寝室に返す。
『よくありません。
ちゃんと「大好き♡」って書いてください。
エリスからラブレターもらえる機会なんて
今後ないかもしれないのですから。
そこをなんとか』
『はぁ?!
これは意思疎通の手段であって
ラブレターなんかじゃないから!!』
『そんなぁ。
いやだいやだ。エリスからラブレターほしい』
『誰?! 文面でキャラ変わるな!!
わかったわよ。
大好き。料理が』
『ひどい!!!!!』
『お望み通り「大好き」って書いてあげたじゃない』
『あんまりだ。
そんな意地悪をするのであれば……
アレを実行します』
『アレってなによ』
そこで。
ドアの向こうにいるクレアが、立ち上がって歩いていく音が聞こえ……
しばらくして戻ってきたかと思うと、再び紙が差し込まれた。
『エリスが脱いだ服と下着を
脱衣所から持ってきました。
今から匂いを嗅ぎます』
「……!!!」
それを目にした瞬間、エリスはドアをバンバンバンッ!! と叩きまくる。
くそっ、こんなに近くにいるのに、声を出すことも直接止めることもできないなんて……!!
エリスは紙に『やめろ!!!』と書き殴って勢い良くドアの下から滑り込ませるが、返ってきたのは、
『残念。もう嗅いでしまいました。
なんなら今、パンティを頭から被っています。
あぁ、エリスの匂いに包まれて最高です。
直接触れられない分、こうして匂いを堪能し
エリス成分を摂取しますねハァハァ』
「……?!!」
エリスは、文字通り声にならない悲鳴を上げた。
そのまましばらく、恋人のあまりの変態ぶりにただただ震えていると、
『すみません、冗談です。
いやぁ、なかなか楽しいですね。
手紙でのやりとり』
……という文が返ってきて。
エリスは、一度ため息をついてから、返事を書く。
『本当に鳥肌が立った』
『すみません』
『ていうかあんたは普通に喋れるんだから、声出せばいいのに』
『でも、この返事を待っている時間というのも
なかなか良いものだと思いませんか?
次はどんなことを書いてくれるのかなぁと
ドキドキします』
『じゃあ、これからもずっと手紙で会話する?』
『まさか。
ちゃんと顔を見てお話したいですよ。
早く会いたいです』
その手紙のあと。
エリスからなかなか返事が戻って来ず、クレアは少し後悔する。
軽率だった。『早く会いたい』だなんて、まるで病気になった彼女を責めているみたいじゃないか。
『すみません。貴女を責めているわけでは決してありません。
焦らずゆっくり治して』
と、そこまで書いたところで。
エリスの方から、手紙が返ってきた。
『あたしも、早く会いたい』
そこには、その一言だけが書かれていて。
ぽつりと呟いたようなその言葉に、クレアは……きゅうっと、胸が締め付けられる。
……が、すぐにエリスから次の紙が差し込まれ、
『まぁ、会いたいも何も
同じ家の中にいるんだけどね、現在進行形で。
なんならさっき顔合わせたし』
『そうなんですよね。
こんなことで音を上げているようじゃ、
遠距離恋愛している方に怒られてしまいます』
『そうね。
自由に会話できないのは不便だけど
確かにこんな機会じゃないと手紙なんか書かないし、
楽しむくらいがちょうどいいかも』
『でしょう?
さぁ、私に熱い思いの丈を綴った
ラブレターをください』
『しつこいなぁ。
うーん。ちょっと言葉が浮かばないから
また今度ね』
『ひどい!!!!!』
その文字に、エリスは思わず笑みを浮かべる。
さて、次はなんて返してやろうかとペンを握ると……クレアからもう一枚差し込まれ、
『つい長話になってしまいましたね。
体調が悪いのにすみません。
今日はもう休みましょう』
……なんだ、もうおしまいか。
と、エリスは少しだけ寂しさを覚えるが、それを悟られないように。
『そうね。クレアも明日仕事だしね。
おやすみなさい』
『おやすみなさい』
「…………」
それで、手紙のやり取りはおしまいになった。
エリスはクレアからもらった手紙をかき集めると、もう一度すべて読み直し。
……家の中で文通しているだなんて変なの、と。
少し笑みを浮かべ、それらを自分の簞笥の引き出しにそっとしまった。
一方、ドアの向こう──リビングにいるクレアは。
同じくエリスからの手紙をすべて手に取り、貴重品を入れている引き出しに大切にしまうと。
……エリスのパンティを被ったまま、ソファーへと横になった。
* * * *
それから。
二人は毎日、ドア一枚を隔てた文通を続けた。
クレアが作った料理の感想。
その日、仕事でどんなことがあったか。
新しくできた料理店の噂について。
外に出られるようになったら、最初に何を食べに行きたいか。
そんなことを、文字でやり取りし続け……
エリスの声が出なくなってから、五日が経った。
『エリス。今日こそはラブレターをください』
夜。
寝支度を整えてから、寝室に差し込まれたその手紙を見て。
……こいつ、まだ諦めていなかったのか。
と、エリスは半眼になる。
『だから、また今度ね』
『「今度」と「いつか」は絶対に訪れないものだと
ジェフリーさんが言っていました』
……父さんめ、こいつに余計なこと教えやがって。
『そもそもラブレターって、何を書けばいいのよ』
『私のことをどう想っているのか
自由に綴っていただければ結構です』
「…………」
クレアを、どう想っているか……
エリスはペンを握りしめ、床に置いた便箋とにらめっこする。
確かに、好きな気持ちをあらためて手紙でもらうのは、嬉しいものである。
実際彼女も、クレアからもらった『愛しています』の手紙を何度も見返しては、一人でドキドキしているのだ。
病気になってから毎日ご飯を作ってくれたり、こうして手紙で話し相手になってくれたり、仕事から早く帰って来てくれたりと、クレアには感謝しているから……
そんなに望むのならラブレターの一つも書いてやろうかと、そんな気持ちになっていた。
エリスは、おずおずとペン先を便箋に押し付け。
ゆっくりと、丁寧に、文字を書き始めた。
一方、ドアの向こうにいるクレアは……
エリスからの返事が途絶えてしまい、どうしたものかとソワソワしていた。
『すみません。困らせてしまいましたか?』
と、クレアは寝室に手紙を差し込む。
エリスはそれに気付くが、とりあえず今書いている内容に集中する。と、
『もしかして今、書いていてくれたりします?』
追加で、そう書かれた手紙が入り込んでくる。
が、一旦それも無視。
しかしクレアは、
『え、嘘。まじで?
エリス、ラブレター書いてくれてるの?』
『うわ、どうしよ。
こんなことなら額縁買っておくんだった。
いつでも見返せるように飾っておかなきゃ』
『いや、でも日光で褪せたりしたら嫌だから
やはり厳重にしまっておこう。
金庫が必要だな。明日買ってきます』
『あの、ずいぶん時間がかかっていますが
ひょっとして怒っています?』
『エリス、そこにいますか?
文字を書く音が聞こえないので
不安になってきたのですが』
『ねぇ、なにかリアクションを』
──ぷっつん。
「だぁああもう! うっさい!! いま一生懸命書いてるんだから、ちょっと黙ってて……」
……という声が。
自分の喉から発せられたのに、エリスは驚き、はっとなる。
「エリス、声が……」
クレアもドアの向こうで、驚き混じりに呟く。
声が出た。
ガルニア熱が、完治したのだ。
つまり、ようやく……面と向かって話せる。
「……開けても、いいですか?」
クレアが、どこか緊張した声音で尋ねると、
「……うん」
という、エリスの小さな返事が聞こえてくる。
クレアはドアノブを捻り……
照れ臭そうな表情で立ち尽くす彼女と、対面した。
「……お久しぶりです。エリス」
そう、優しく微笑みながら言われ。
エリスは少し目を逸らして、
「…………ひ、久しぶり」
そう、ぽつりと返した。
クレアは堪らず、彼女を抱きしめる。
突然のことに、エリスは「うわっ」と声を上げるが……五日ぶりに感じる彼の匂いと温もりに、そのままゆっくりと背中に腕を回した。
「……なんか、長年の文通相手とようやく対面できたような感動がありますね」
「……わかる」
そう言って、抱き合ったままくすくすと笑い合って。
「声が戻って安心しました。体調は?」
「大丈夫。もう喉の痛みもないし、怠さもない」
「よかった。それで……書いてくれたのですか? ラブレター」
にやりと笑いながら尋ねると、エリスが「へっ?!」と顔を赤らめるので……
クレアは、彼女の足元に落ちていた紙を素早く引ったくり、背を向けてそれを眺めた。
「ふむ、これですね。なになに……」
「わぁあああっ! やめて! 読まないで!!」
手紙を奪い取ろうとするエリスをひらひらと躱し、クレアは文面を読み上げる。
「『優しくて、かっこよくて、いつもおいしいご飯を作ってくれるクレアが大好きです。これからもよろしくね』……」
読み終えたクレアは、ぴたっと固まる。
ラブレターと呼ぶにはあまりにも稚拙な、幼い子どもが書いたような文章。
魔法学院を首席で入学、飛び級で卒業した才女が書いたものとは到底思えない。
その手紙に目を落としたまま硬直するクレアに、エリスは顔から湯気を噴き出し、
「だっ、だから見せたくなかったのよ! 気の利いた言葉なんて浮かばなかったんだもん!! 思ったことそのまま書いたらこうなっちゃったのっ!!」
などと必死に弁明するが……
クレアは手紙を握りしめたまま、わなわなと震え出し、
「…………げほぁっ!!」
尊さのあまり口から血を吹き出し……床に倒れ込んだ。
彼のその反応を見慣れているエリスは「またか……」と呆れながら見下ろす……が。
「……ん?」
彼の寝間着のポケットから、ピンク色の布のようなものがはみ出していることに気が付き。
「……なにコレ?」
首を傾げながら、引っ張り出してみた。
すると……
それは、先ほどエリスが風呂に入る時に脱いだパンティで……
……まさかコイツ。
本当に、頭に被っていたのか……?!
「…………クレア」
怒りをたっぷり孕んだその声に、彼は殺気を感じて意識を取り戻す。
そして、床に伏せたまま、恐る恐る彼女を見上げると……
エリスは顔に影を落とし、ゴゴゴゴ……と効果音を鳴らしながら、
「……そこに、正座しなさい」
突き刺すように冷たい声音で、そう命じた。
「──もうほんっとにありえない! いくら恋人でもやっていいことと悪いことがある!! だいたいねぇ、ぱんつなんか被って何が楽しいのよ?!」
その後、エリスは五日分の空白を取り戻すように、千言万語を費やしてクレアに説教をした。
それを、クレアは床に正座しながら延々聞かされているわけだが。
嗚呼……久しぶりのエリスの声……怒鳴っていても可愛い……
手紙もいいけど、やっぱりこの声を聞けるのが一番幸せだなぁ……
……などと考えているのが、思いっきり顔に出ており。
エリスは、そのへらへらした表情に肩を震わせ、
「ちょっと! 全然反省してないでしょ!! もう、反省文一〇〇枚書くまで接触禁止だからね!!」
「えぇ〜そんなぁ〜〜」
と、せっかく筆談が不要になったというのに。
反省の弁を綴るため、クレアはまたしばらく、便箋にペンを走らせる羽目になったのだった。
*おしまい*
想像してください。
おぱんつ被っていたら突然エリスが声出したので、死ぬほど驚いて慌ててポケットにしまうクレアの姿を。
ドア一枚隔てた向こうにいる、なにも知らないエリスの下着を顔に被り、初々しい手紙のやり取りをするのは……
さぞ興奮したでしょうね。(最低)
お読みいただき ありがとうございました!