99.SSS級の脅威
「ぼこっちゃったな。強いハンターなんだよな」
「あ、ああ……三人ともA級のハンターだし、チームで行動したときはA級以上の難依頼も楽々こなすっていう評判の強者たちなんだが……」
よっぽどびっくりしたのか、ブルーノの口調が崩れていた。
本人は気づいていないみたいだが、見てて面白いしあえて指摘する必要もないから放っておいた。
「話は出来そうな相手なのか?」
「え? あ、ああ、狂犬だが利益不利益をちゃんと判断できるらしい――と、聞いております」
ブルーノはハッとして、後半慌てて敬語に戻った。
別にそのままでも良いのに、と思ったが言わなかった。
これを言うのもなんか押しつけだから。
ブルーノが今でも「わたくしめの事はどうか呼び捨てで」って言ってこないように、俺もそういうのを強要しないように決めている。
それはともかく、話が通じるのなら……よし。
俺は三人をボコったクリスに近づいていきながら。
「よくやったクリス」
「ありがとうご主人様! こいつらどうする? どっかに逆さ吊りにして見せしめにしとく?」
「いや、そこまでする必要はないよ」
クリスの物騒な発想に微苦笑しつつ、三人のそばにしゃがんで、同時にヒールをかけた。
「えっ? 助けてあげるの?」
「ああ」
「いいの? そんな事して。元気になったらまた襲ってくるんじゃない?」
「クリスがボコれたし大丈夫だろ。それに、そうなっても俺がいる」
そう言いながらヒールをかけ続ける。
クリスとガイの言い争いをいつも聞いているから、彼女の性格上食い下がってくる――と思ったらそんな事はなかった。
逆にものすごく静かになって、どうしたんだろうと思ってそっちを見ると。
クリスも、ガイも。
人狼やギガースら全員が尊敬のきらきらしてる眼差しで俺を見つめていた。
「どうした」
「ご主人様、かっこいいです」
「うむ、さすがでござる。それでこそ我らが主。命を賭して仕え甲斐があるというもの」
「お、おう」
俺の言葉のどれかに一同感動しているみたいだ。
害はないからしばらく放っておいて、三人のハンターの治療に専念した。
クリスに思いっきりボコられた三人の怪我は思いのほか深くて、治すのにちょっと手間取った。
しばらくして、三人が次々と気がついた。
「これは……怪我を治してくれたの?」
「どういうつもりだてめえ」
「何を企んでいるの?」
「えっと、話をしたいんだ。いいかな」
聞くと、三人は瞳に警戒の色を露わにしながらも、沈黙して俺を見つめた。
話を聞くつもりはあるみたいだ。
「なんで襲ってきたんだ? ハンターとしての仕事か?」
そう聞くと、三人は一度視線を交わしてから、大男――ホークが代表してこたえた。
「ああ、ハンターギルドでA級の依頼を受けてきた。進化した魔物達が群れてるから、討伐しろってな」
「群れてる?」
俺は首をかしげた。
「情報が遅いのかな、俺達はここで国を作ってるんだけど」
「遅くないよ」
今度は少年――セタが答えた。
「そういう話はあったよ。でも、魔物が国作りなんて、そんな馬鹿らしい話誰も信じてないから」
「ああ、なるほど」
俺は深く頷いた。
それは……当たり前だな。
俺も当事者じゃなかったら、「魔物が国作りしている」なんて噂を聞いたら鼻で笑い飛ばしてたと思う。
「ってなると、そっちの方向で説得しても無駄骨になるか……」
俺はあごを摘まんで考えつつ、聞いた。
「こっちはただ群れてるだけじゃなくて、国をつくって、生活しようとしてる。だから討伐されると困る。討伐を止める方法はないのか?」
聞くと、三人は再び視線を交換してから、今度は女――ティセが言った。
「一つあるわよ」
「どんなんだ?」
聞きながら、俺は密かに身構えていた。
ジャミールら三カ国の事で、いろいろ複雑な事をやってきただけあって、またそういうことになったら面倒だな……と、思っていたのだが。
「ここのモンスターと、ボスのあなた。それが強すぎて手に負えないってなればいいのよ。討伐不能で野放しになってる存在はそこそこいるしね」
「ああ、それか」
ラードーンを思い出した。
討伐不能で野放しなんて、まさに彼女のことだ。
「つまり討伐難易度をあげればいいんだ」
「そういうこったな」
「どうすればあげられる? あんた達がそうやって報告してくれるのなら、報酬は出すけど」
「くれるのか、報酬」
「ああ、そういう依頼ってことで」
魔晶石で財源確保してるから、個人に支払うレベルの報酬はどうとでもなるはずだ。
三人は一回集まって、ひそひそ話をした。
相談しているようだが、すぐにまとまった。
「あんた、どこの国の出身だ」
「国? ジャミールだけど?」
「じゃあジャミール金貨で10枚」
なるほど出身を聞いたのは貨幣のためか。
「わかった、払う」
「交渉成立だね、じゃあこれを攻撃して」
そう言って、セタはぬいぐるみのような人形を取り出した。
「これは?」
「モンスターの危険度を測るアイテム。これに攻撃したモンスターの大体の討伐難易度が出る様になってるんだ」
「なるほど。これに俺が攻撃して、あんた達が持ち帰ればいいんだな」
「そういうこと。Sくらい出してくれたら良い感じに言い訳が――」
俺はアイテムボックスを呼び出して、ガーディアン・ラードーンを出した。
それを装着して、魔力効率化とラードーンの魔導戦鎧、そして詠唱の三重重ねで魔力を上げる。
「パワーミサイル――67連!」
純粋なパワーの方がいいと思って、フルパワーを人形に叩きつけた。
無数にも見えるパワーミサイルにボコボコにされて、轟音を立てる人形。
パワーミサイルが収まった後、人形は真っ黒になった。
「これでいいのか――うん? どうした」
振り向くと、ホークら三人がぽかーんとしている。
「く、黒ってお前……」
「間違いないよね」
「ええ、知識でしか知らないけど、間違いないわ」
「一体何なんだ? なんかまずかったのか」
「……いや、別にまずかねえ」
ホークは頭をボリボリかきながら、複雑な表情で。
「討伐難易度がSSSになるから、ザコはもう二度と来ねえはずだ」
「え?」
「SSSて……」
『ふふっ。やり過ぎてしまったようだな』
唖然とする俺をよそに、ラードーンは楽しそうに笑った。