表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

97/439

97.続・剛柔一体

 街の迎賓館、向き合う俺とブルーノ。


「ダストボックス」


 俺は魔法を使って、ダストボックスを呼び出した。


「いよいよですな」

「ああ」


 俺はちょっとだけ緊張していた。

 煮物の鍋、そのふたを開けるときと同質の緊張感、そしてわくわく感を同時に感じながら、ボックスの中から魔晶石を取りだした。


「おおおっ!!」


 俺が取り出した石を見た瞬間、ブルーノは大げさとも取れる位の、オーバーなリアクションで感動した。


「縮んだなあ……」


 俺は、取り出した魔晶石を見て、感慨げにつぶやいた。


 500時間前、ダストボックスに入れたのはリンゴくらいのサイズのものだった。

 それが500時間――ダストボックスの中で500年経つと、指の第一関節くらいの大きさまで縮んだ。

 縮んだ分、美しくなった。


 元々は何重もの層にはなっていたものの、層の境目がぼやけてたり、色々粗かったりしていたのだが、縮んだあとは逆にはっきりして、それによって鮮明に見えてきた。


「500年経つとこうなるんだな」

「はい……というより、さすがでございます陛下。本当にこのわずかな間で500年という時間を経過させてしまうなんて」

「そういう魔法だからな。さて」

「はい」


 ブルーノは頷き、宝石箱を差し出した。

 俺がブルーノに発注した、魔晶石=ブラッドソウルをもっとも引き立てることが出来る宝石箱だ。


「なるほど……たしかに、これに入れると魔晶石がより美しく見える。どういう魔法なんだ?」

「魔法ではございません。箱の形と、色、そして魔晶石が美しく見える角度にするための箱の内部の傾斜。それらを詰め込んだ箱です」

「へえ」

「商人の領分、小技でございます。お目汚しを致しました」

「いや、頼んでよかった。ありがとう」

「恐悦至極に存じます」


 一礼するブルーノ。

 俺は魔晶石を入れた宝石箱を丁寧にふたをして、「アイテムボックス」を呼び出して、中に入れた。


「これで向こうに無事渡る」

「陛下の分身に――でございましたか?」

「ああ。俺の幻影を変装(ハイ・ファミリア)させて、使節団に紛れ込ませた。向こうはここに入れた物を取り出せるからな」

「お見それいたしました。ものすごい魔法でございます」


 俺はふっ、と微笑んだ。

 シーラとの話がまとまった後、こっちからもキスタドールに友好を示す使節団を送ることにした。

 ただ使節団を送るだけというのもなんだから、いくらかの贈り物を同時に持って行かせることにした。


 そこで白羽の矢がたったのが、魔晶石=ブラッドソウル。

 この国の名産になり、近いうちに「国宝石」に指定する予定のそれを贈ることにした。

 更にただの魔晶石じゃなくて、ダストボックスで「熟成」させたものを贈ることにした。


 そこで俺の幻影にハイ・ファミリアをかけてエルフの姿にして行かせて、ぎりぎりまでダストボックスに魔晶石を置いて、それから向こうに送った。


「上手く行くといいんだがな、今回こそ」

「今回こそ? それはどういう意味でございますか陛下」


 ブルーノは首をかしげて聞いてきた。


「ブルーノには水の事を頼んであったよな」

「はい」

「その前に、スカーレットのアドバイスで、銀貨をつくって、技術力をアピールするという話になった。しかし銀貨だけじゃ攻撃的すぎるから、干ばつに水の支援って事にしたんだ」


 剛柔一体。


 スカーレットから始めた話と、ラードーンの教えをミックスさせた話だ。


「今回は使節団の贈り物に宝石を持たせた。友好を示す方法としては無難なものだ」

「おっしゃるとおりでございます」

「その宝石が、この国の名産――俺の手によって作れるものだった」

「それとなく力のアピール、という事でございますな」

「ああ」

「なるほど、さすが陛下でございます。その二つを自然にやってのけるとは。感服いたしました」


 俺はフッと笑った。

 これで、上手く行けばいいんだが。


     ☆


 次の日、幻影のテレポートで、使節団が戻ってきた。


 使節団に送ったエルフ達、そのリーダーであるレイナ。

 彼女達は、数台の荷馬車とともに、街中に現われ、戻ってきた。


「お疲れ、どうだった?」


 戻ってきた彼女達を出迎えて、俺はレイナに聞いた。

 幻影は戻ってきて早々解除した。


 レイナに聞いたのは、使節団の団長が彼女で、そうしたのは彼女に経験を積ませるためだからだ。


「キスタドールの王妃様は、魔晶石をすごく気に入っておいででした」

「そうか」

「シーラ様、そして国王は大いに驚いていました。魔晶石の真贋を最後まで見てました」

「真贋……?」

「本物だと信じられなかったようです。あれほどの魔晶石、それだけで大農園一つは買えるとかで」

「ああ、なるほど」


 俺は頷いた。

 そして、その値段にびっくりした。


「そんなに高価になるのか、あれは」

「最上級の宝石はそういうことみたいです。私もびっくりしました」


 ある意味俺以上に世間知らずなレイナ。

 彼女達は長生きだが、ピクシーからエルフに進化したばかりで、人間の価値観はそんなに詳しくはない。


「それで、これらの贈り物をいただきました」


 そういって、荷車をちらっと見るレイナ。


「贈り物をお返しにくれたって事は、友好は結べたと思っていいんだな」

「はい。後日そのままシーラ様が派遣され、パルタ、ジャミールとの関係などをアドバイスしてくれるということです」

「それは助かる。人間の国と争わなくて良いのなら、それに越したことはない」

「リアム様がいる間は友好を保ちたい、ということでした。さすがリアム様です」


 それを聞いて、俺はちょっとほっとした。

 いきなり現われた封印の地、それを虎視眈々と狙っていた人間の三つの国。

 これで、一息つけそうだ。


『もしもし! 主でござるか』

「ガイか、どうした」


 いきなりテレフォンで伝わってくる、ガイの少し緊迫した声。


『人間が! ギルドのハンターが襲ってきたでござる』

「なに!?」


 驚く俺。

 ここは魔物の国、そして向こうはハンターギルド。


 今まで現われなかったが、よく考えたらいつ敵になってもおかしくない組織がやってきた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年1月6日アニメ放送開始しました!

3ws9j9191gydcg9j2wjy2kopa181_np9_jb_rg_81p7.jpg
― 新着の感想 ―
[気になる点] 魔晶石をダストボックスに入れて時間が経ったら層が狭くなってたって書いてあるけど本来は地中で出来る物何ですよね?それって地中で圧力が掛かったまま年月を経たからですよね?圧力を掛かってない…
[良い点] よくある異世界モノ。 テンプレだらけで読まなくても流れが解るので時間潰しには良いかも。 [気になる点] 登場人物がフッと笑い過ぎ。 思わずフッと笑った。
[良い点] >「はい。後日そのままシーラ様が派遣され、パルタ、ジャミールとの関係などをアドバイスしてくれるということです」 やったね!司馬懿が仲間に入るよ! [気になる点] 【97話】 >煮物の鍋…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ