94.100%の効率
ラードーンが引っ込んだ後も、まだちょっと動揺が残るシーラと軽めの打ち合わせをした。
キスタドールと……リ、リアム=ラードーンの同盟の話を軽く詰める。
細かい話や正式な調印は、シーラが一度持ち帰って後日、という事にまとまった。
軍事的に相互不可侵という大前提は崩れないだろう、というのは何となく分かる。
シーラは話している最中も、先程ラードーンが顕現した、今はなにもない空間を気にしたり、俺をチラチラ見たりと、明らかにラードーンの事が頭から離れないでいる様子。
リアム=ラードーンという国名は恥ずかしいけど、シーラの反応から、この名前は戦争に対する抑止力になるだろうと思った。
話が終わった辺りで、窓の外が大分暗くなってきた。
夕日がほとんど落ちてて、夜が来ようとしている。
「今日はここまでにしよう」
「そうですわね」
「宿を用意させた、案内する」
俺は立ち上がって、ドアに向かって歩き出した。
ついて来たシーラを連れて、廊下を歩いて、迎賓館の外に出た。
最後の西日もすっかりと消えて、建物の外は完全に夜になっていた。
「あれ?」
「どうしたんだ?」
「明るい……」
シーラは驚いた様子で、迎賓館の正門から、街並みを見回した。
スカーレットのアドバイスで、敷地に入って階段状に高い場所に作った迎賓館の入り口。
そんな高台から、街並みを見下ろして、一望出来る。
一万人が住み、今もまだ建設ラッシュ中で進化を続けている街を彼女は驚きの顔でじっと見つめていた。
「明るい?」
「そうよ。建物のほとんど、窓からすごい明かりが漏れている」
「ああ、あれはライトの魔法だ」
「魔法!?」
パッと俺を向くシーラ。
その顔はますます驚いている。
「ああ。古代の記憶――っていうか、道路をベースに、魔導書の代わりになる物を枝状にして、全部の建物に伸ばした。その建物の中にいると、時間はかかるけど魔法が使える仕組みだ」
「……え?」
一瞬、理解が遅れた顔をしてから、おそるおそると聞いてくる。
「魔導書を……建物に伸ばした?」
「そうだ」
「…………全部?」
「全部」
俺は頷き、歩き出した。
迎賓館から一番近い家のそばに、窓の前に立つ。
ついて来たシーラにむかって、窓の中を指さす。
「何もないのに光ってますわ……ええっ!? 今水を出しましたわ?」
「それも魔法。照明と、水と、火。この三つはどこの家に居ても使えるように枝を伸ばした」
「………………」
愕然、といっていい表情だった。
彼女が愕然としている間にも、ますます夜になっていく。
それに伴って、あっちこっちの家から、加速度的に「ライト」の光が拡散していく。
その結果、夜なのにもかかわらず、空の星がほとんど見えなくなるくらい、街が明るくなってきた。
「……まるで不夜城ですわね」
「その言い方ちょっとかっこいいかも」
「これをどうやって?」
「ああ、ハイ・ミスリル銀の鉱脈があったから、それを使って張り巡らせたんだ」
「ハイ・ミスリル銀まで!?」
更に驚くシーラ。
そりゃそうだろうな。
ハイ・ミスリル銀の貴重さは俺も身を以て思い知らされてきたから、その驚きは理解できる。
「……そうなると、戦力の方も……」
「え?」
「……いえ、何でも無いですわ」
シーラはふっと笑って、ごまかした。
何か意味深なことをつぶやいたのは確かだが、上手く聞き取れなかった。
「それよりも、これは全て、魔法の光という事ですわね」
「ああ」
「水や火も、とおっしゃいましたが、水道などの代わりに魔法を使うということで?」
「そういう事だ。便利だってみんなから大好評だ」
俺はちょっと自慢げにいった。
これをやれた――魔法を使ったというかたちでやれたのはちょっとした自慢だ。
「そう、これほどの規模に亘って、皆が魔法を使っていらっしゃるのであれば、魔晶石もさぞかしすごいことになっているのでしょうね」
「ましょうせき? なんだ、それは」
「知りませんの?」
「ああ」
俺は深く頷いた。
初めて聞く名前だ。
「なんなんだ、それは?」
「……良いですわ、特別に教えてさしあげてよ」
今までの驚きが嘘だったかのように、シーラは調子を取り戻して、手で口をおおって「オホホ」笑いをした。
「魔晶石は、様々なたとえがありますが、わたくしが一番気に入っているのが『うんこ』ですわ」
「う、うんこ? って、あの?」
「ええ、排泄物の事ですわ」
「は、はあ……」
シーラの様な王女の口からそんな言葉が飛び出すなんて……。
「ここでいううんこは、肥料になる、という意味ですわ」
「……肥料」
その言葉をきいて、俺は自分の表情が変わったのを悟った。
「何か魔法を使って見なさい」
「ああ」
俺は頷き、この場でライトをつかった。
俺が発明して、俺も当たり前の様に使える魔法。
俺の手を中心に、まるでランタンの光のようにぼわっと光った。
「……え?」
「へ?」
またしても、驚くシーラ。
「どうしたんだ?」
「それ、魔法なのですわよね」
「ああ、魔法だけど?」
「あなたの魔力で?」
「そうだけど……」
念押しに聞かれて、なにか間違ったことをしたんじゃないか、って不安になる。
「どういうことですの……?」
深刻な表情で考え込むシーラ。
「えっと、それはこっちの台詞なんだけど。なにがどうしたんだ?」
「……魔晶石というのは、人間が魔法を使ったときに漏れ出した魔力が堆積して出来た物ですわ」
「はあ……」
「ロウソクをもやしても、最後に少しロウが残りますわよね。それに近い物よ」
「ああ、なるほど」
「人間は、100%の効率で魔法を使うことはできませんわ。魔法をつかうと、魔法に関与できなかった魔力が空気に飛び散って、やがて地面に落ちて、それが積み重なって魔晶石になるのだけど」
「だけど?」
「あなた、本当に魔法を使ったの? 無駄な魔力が無かったのだけど」
「……ああ」
俺はなるほど、と頷いた。
「魔力の効率化をやらされたんだ、ラードーンに。そういうことだよな」
『うむ、100%の効率で出来るようにしこんだ』
「100%の効率でできる、だって」
「……え? ひゃく……ぱーせんと……?」
ラードーンの言葉をそのまま伝えると、シーラはとても信じられないって顔をしてしまうのだった。
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