90.魔法都市
「準備、出来ました」
「よし、やれ」
俺がいうと、十数メートル離れた先にいる、十人くらいのエルフ達が一斉に頷いた。
彼女達は街の中にいて、俺はギリギリ街の外にいる。
そんな彼女達は手をかざしながら、
「「「ファイヤボール」」」
と、一斉に唱えた。
すると、人数分の火の玉がこっちにとんできた。
「おお」
俺は感心する声を上げながら、アブソリュート・マジック・シールドを十一枚分張って、ファイヤボールを次々に打ち消した。
「こっちでも出来ました」
今度は、人狼の子が言った。
そっちはさっきよりちょっと少ない、十人未満の集団で、一人だけバンパイアが交じっていた。
俺が頷くと、今度は
「「「アイスニードル」」」
と唱えて、氷の針を街の中からうってきた。
まるで外敵に対する抵抗かのようにとんできた氷の針。
これもまた、素数の都合上ちょっと余分にアブソリュート・マジック・シールドを張って、全部防ぐ。
「りあむさまりあむさま」
「いつでもいいぞ」
最後はスライムのスラルン、一体だけで
「さいくろん」
と唱えて、俺のまわりに竜巻が起きた。
中級魔法のサイクロンを、やっぱりアブソリュート・マジック・シールドで防ぐ。
「す、すごい……」
俺が迎撃して防いでいる間、エルフのレイナは俺の後ろで全てを見てて、それで絶句していた。
「みなが魔法を使えてる……」
「道路の下に全部、ハイ・ミスリル銀で作った古代の記憶を敷設した。これで、この街にいる限り、常に魔導書を持っているも同然になる」
「すごいですリアム様。常に魔導書がある状態なら、続ける根性がないものでも、いざという時は防衛の戦力になりますね」
「そうなるな」
膨大な量のハイ・ミスリル銀によって、この街そのものを魔導書化することに成功した。
「まあ、それだけじゃないけどな」
「どういうことですか?」
レイナは小首を傾げて聞き返してきた。
「多分そろそろだな、ついて来て」
「はい」
レイナを連れて、街の中に入った。
エルフや人狼、バンパイアなど、魔法を使えてハイテンションになった街の住民達たちから熱烈歓迎を受けながら少し歩いて、道路のど真ん中で止まった。
「レイナ」
「はい」
「テレフォン、という魔法を使ってみて」
「テレフォン……ですか? あっ」
ハッとするレイナ。
魔導書を手にしたものは、魔法の名前を知っていて、かつ素質があればその使い方が分かる。
「これ、リアム様が使ってたテレパシーと似てます?」
「ああ。確か古い言葉で『テレ』が遠い、『フォン』が音って意味、『パシー』が感情だったかな? だからテレパシーは心の声を遠くへ、テレフォンは普通の声を遠くへ、って効果の魔法」
「なるほど。私にそれの素質があったんですね。あれ? でもなんであるって分かったんですか?」
レイナがそこに気づいた。
俺が彼女を連れて来て、やってみてと確信してる風にいった。
魔法には素質があって、素質がないものは魔導書をもってても使えない。
なのに、俺が最初から確信してる事に引っかかったんだ。
「素質があるように作ったから」
「素質があるように?」
「テレフォンを使うための素質、それは俺と使い魔契約してること」
「あっ……」
ハッとするレイナ。
「ってことは……ここにいるみんな?」
「そういうことだ」
そう、この街に住んでる者達はみんな俺とファミリアで使い魔契約を結んでいるから使える。
そういう風に作った魔法だ。
「使ってみろ」
「はい……」
レイナは目を閉じて、意識を集中させた。
俺は待った。
最初に魔法を使う時に時間がかかるのは、俺が誰よりもよく知っている。
だから、じっと待ち続けた。
待つ事、およそ十分。
俺の使い魔、という事が重要にして、ほぼ唯一の条件のテレフォンは、使い魔であれば簡単に発動する。
最初でも、十分で足りた。
「えっと……聞こえる? ナターシャ」
『ええ? この声はレイナさん? どこにいるんですか?』
「あっ、本当に聞こえた」
何もないところから聞こえてくるもう一人のエルフ、ナターシャの声。
レイナはそのナターシャと会話をした。
会話の内容から、ナターシャが街の反対側にいるってわかった。
それで会話が出来る事にナターシャは驚いてたし、レイナは
「リアム様が発明した魔法なの」
って感じで、自分の事のように自慢していた。
しばらくして、テストの会話が終わって、レイナはテレフォンの魔法を切って、こっちに向き直った。
「すごいですリアム様! この魔法なら、みんなとの連絡がもっと取りやすくなります!」
「ああ」
「それに、他の魔法も――」
レイナはそう言って、今自分が立っている場所。
古代の記憶の道路を見下ろした。
「こんなすごい街を作ってしまうなんて、やっぱりリアム様はすごいです。こんな街なんて他のどこにもない――魔法都市ですよ!」
「魔法都市……それはかっこいいな」
レイナが放ったその言葉、魔法都市。
魔法が頭についているからか、俺はその響きに思いっきりワクワクしたのだった。