09.太陽の炭
鉄の薔薇もいいが、金になるかどうかはわからない。
何せ実用品じゃない、どう見たって嗜好品の類だ。
それで食って行くには不確定要素が多すぎる。
もっと何か他にないか、と思って頭をひねっていると、砂鉄の層が目に入った。
黒い砂鉄の層、黒い。
「……むしろ白、だな」
こっちは、本来の俺でも知っている知識だ。
屋敷にもどって、書庫で何かを調べてくるまでもなく、最初から持っている知識。
ただ、それをやる力がなかっただけ。
「よし」
まずは試しにやってみることにした。
フレイムカッターを使って、腕くらいにふとい幹を斬り落とした。
「ノーム」
土の精霊を召喚する、モグラが現われる。
「この幹を土で包み込め、空気を通さないほど密閉、てっぺんに小さな穴を一つ」
ノームは頷き、俺が持っていた幹を土で包んだ。
普通は泥でやるもんだが、泥は濡れているときはいいが、乾けば結局空気が入る。
その点ノームなら完全に土を操作して空気を通さないように出来るから、泥にする必要が無い。
「念のために……シルフ」
今度は風の精霊を召喚。
「空気のより分けは出来るか? 燃える空気と燃えない空気」
空気の中には、火がともせるものとそうじゃないものが存在する。
何かが違うのは分かるが、何が違うのかは具体的にわからない。
分かるのは、物を燃やすことが出来る空気と、そうじゃない空気があるということだけ。
それを聞くと、シルフははっきりと頷いた。
「なら、いまからこれを燃やす、これの中に燃える空気を入れないようにしろ」
シルフは深く頷いた。
普通に考えればかなり無茶な事なんだが、そこは風を司る精霊。
空気のより分けはお手のものというところか。
これで良し――
「ファイヤーボール!」
同時魔法発動の残り三枠をファイヤーボールに使った。
火力を、とにかく火力を上げるために、サラマンダー召喚じゃなくてファイヤーボール三連にした。
純粋な火力、とにかく上げるだけなら、サラマンダー召喚よりもこっちの方が上だ。
そのファイヤーボールで土にくるんだ幹を焼いた。
みるみるうちに、穴から煙が吹き出した。
「穴をふさげノーム」
ノームは忠実に命令に従った、穴を塞いで煙が出ないようにした。
その土の塊を、ファイヤーボールで焼き続けた。
普通ではかなり難しい、完全密閉で、「燃える空気」を通さない状態での、超高温加熱。
それを焼き続けること、十数分。
「そろそろかな。ノーム、炎が消えたら土を引っぺがせ」
命令したとおり、炎が消えたのとほぼ同時に、幹を包んでいる土が剥がれた。
そうして現われたのは、一回り細くなったしろいもの。
元は腕くらい太い幹だったのが、白くて骨くらいの太さになった。
それを拾い上げる、中指の第二関節でノックするように叩いてみる。
カンカン。
澄んだ、金属音に近い音が出た。
俺が作ったのは木炭、しかも白炭と呼ばれる種類だ。
普通の木炭は黒い色をしている。
それは材木をある程度密閉して、ある程度の火で焼けば出来るものだ。
簡単に、大量に生産できるから、庶民でも普通に買える。
そういう「黒炭」に対して、ものすごく密閉して、ものすごく高温で焼いた場合、白色になる「白炭」ができあがる。
白炭は黒炭に比べて使った場合高温になる、そして何より、煙がほとんど出なくて、長持ちする。
特徴は叩いたときに金属だかガラスだかのような音になることと、黒炭にくらべてかなり硬いことだ。
作るのが難しい事もあって、黒炭よりも高く取引されるが――高温を出せることと煙を出さないことから、結構いい値段で取引される。
その白炭を作れたのだが。
「太陽炭よりも白くてかたいんじゃないのか?」
太陽炭というのは、白炭の中で一番有名な――ブランドの炭のことだ。
由来はもちろん、燃やしたときに出る超高温と、その色が太陽に見える事から来ている。
試しに燃やしてみた。
すると、前に一度だけ見た事のある、太陽炭よりも熱くて、まぶしい色で燃えはじめた。
「これは……もしかして……」
☆
「こ、これは……」
街の木炭ギルドに、あの後作った白炭をざっと1カゴ持ち込んだ。
ハミルトンの屋敷があるこのセラノイアには様々な職人がいて、様々なギルドがある。
庶民の生活に密接している木炭を取り扱う木炭ギルドもいくつかある。
その内の一つに持ち込んだ。
それを見たギルドのマスターがすぐに目の色を変えた。
「これは……どこかから買い付けてきたものなのか?」
「いや」
俺は首を振った。
「作り方は秘密だけど、魔法とだけ」
そう言って、サラマンダーを召喚して、肩の上にのせた。
作り方はメシの種そのものだ、ほとんどの職人は内緒にしてるから、むしろ秘密にする方があたりまえの事だ。
「それは火の精霊! な、なるほど……」
精霊がからんでいるのならば、と納得するギルドマスター。
ギルドマスターは白炭を両手に一本ずつ持って、カンカン、と叩いた。
「いい音だ……これは……あの太陽炭にも劣らないぞ……」
「どうかな」
「こ、これをうちだけに卸してくれないか。他にもっていかないって約束してくれるのなら、値段は頑張らせてもらうから」
独占を希望するギルドマスター。
その反応から、この作り方で作った白炭がかなりいい値段になると、俺は確信した。