79.二人目の師匠
夜、一人っきりのアナザーワールドの中。
俺は壁に向かって、単発のパワーミサイルを撃ち続けていた。
この前の限界突破で、また広くなったアナザーワールド。
今はもう面積が軽く500平米をこえていて、最初に買ってここに運び入れた家が「小屋」くらいに感じるほど広くなった。
その中で、ペチペチ、ペチペチって感じでパワーミサイルを撃ち続けている。
『さっきから何をしている』
俺の行動を意味不明ととったのか、ラードーンが聞いてきた。
「この先、多分まだまだ戦う事もあるだろう」
『あるだろうな。我が知っている人間なら、今のお前と、この魔物だらけの国を放ってはおくまい』
「やっぱりそうなるのか」
『あの娘、スカーレットは聡い。提案した事も間違ってはおらん』
スカーレットの提案。
貨幣による技術力アピールの話か。
『が、それは同じく聡い人間にしか通用せん』
「そうなのか?」
『ふふ……どこぞの国のトップが、お前の長兄のような男だったら?』
「……あぁ」
一瞬で納得した。
ものすごく納得させられてしまった。
ラードーンの言うとおりだ。
アルブレビトみたいなのがトップにいたら、スカーレットの貨幣で技術をアピールして、遠回しに――っていうのが多分通じない。
まったく気づかないでちょっかいを出し続けてくるのがものすごくはっきりと想像出来てしまう。
『愚かな人間には、愚かな人間でも分かるような出来事がいる。最低でも後何戦かはいる』
ラードーンはきっぱりと言い切った。
それは俺が今考えていた事。
ラードーンに言われて、ますます考えて、対策を練らなくちゃいけなくなったこと。
「そうなると、俺も戦わなきゃいけない。だけど今のスタイルじゃ足りないと思う」
『足りない?』
「俺はたくさん魔法を使える。それはきっと、この先知られていく。敵の中心人物だから、俺なら真っ先に対策を練る」
『ほう……』
ラードーンは感心した様子で相づちをうった。
その相づちのニュアンスに気づかないまま、俺は更に続ける。
「屋敷にいるときからいろんな本を読んだ。魔法使いの欠点を知ってる。魔法を使う間は無防備になる」
『お前は同時魔法があるではないか』
「その分、ガス欠が早くなるって欠点もある。レククロの結晶を大量に用意しておくつもりだけど、根本的な対策にならない」
『ふふっ……そこに自力でたどりついたか。さすがだ』
「え?」
『よほど、日夜魔法の事を考えていなければ、その境地に自らたどりつくことはない。さすがと褒めておこう』
「はあ……」
そりゃ憧れの魔法だから、考えるのは当然だけど。
『答えから教えると、お前には二つの道がある』
「どんな?」
『一つは、まわりを使い魔で固める。無防備の時を使い魔に守ってもらう』
「それはさっきのと同じ、根本的な解決にならない」
『ならもうひとつ。魔力で肉体を強化してしまう』
「シェルみたいな魔法のことか?」
『いいや』
ラードーンは即答で否定する。
『お前が見てきた中でもっとも近いのは……ドラキュラとバンパイア達だな』
「ドラキュラとバンパイア」
『お前の魔力で、お前自身を常に強化しておく』
「そういう魔法を編み出せって事か?」
『魔法にはもうひとつ欠点がある』
肯定でも否定でもなく、ラードーンは更に言う。
『魔法を封じられる可能性がある。魔力があっても、放出出来ないか、魔法を発動出来ない空間や結界が存在する』
「……体の中で魔法を使う?」
『魔法という形にしない。魔力を純粋に力にする』
「……うーん」
ピンとこなかった。
俺は腕組みして、首をひねった。
『他人の魔力の流れはわかるか?』
「え? ああ、多少は」
『なら』
次の瞬間、俺の体が光った。
まぶしさに手をかざして目の前を覆う。
ピカッと光った後、収まった
手を下ろして視界が元に戻ると――。
「え?」
へんな声がでた。
目の前に、見た事の無い少女がいた。
十歳前後の、幼い女の子。
「だ、誰だ?」
「我だ」
「ラードーン!?」
「うむ」
「お前、女だったのか!?」
驚くと、ラードーンは呆れた目をして。
「何を今更、我の仔をさんざんこき使っておいて」
「あっ……」
ラードーンジュニアのことか。
そういえば……そうだったな。
「さて、そのような事はどうでもよい。我が範を見せる。ちゃんと観察しろ」
「え、ああうん」
よく分からないが、ラードーンをじっと見つめることにした。
直後、ラードーンの体の表面に魔力の光があわく光り出した。
その光はまるで川の流れの様に、全身を覆っていたのが、足に集中していく。
魔法とはちがう魔力の使い方。
足に魔力を集めた少女ラードーンは、アナザーワールドの中で飛び出した。
まるでゴムボールの様に、上下左右、狭い空間で壁を蹴って飛び回る。
「なるほど――こうか!」
ラードーンがやったのと同じように、俺も魔力を足に集めた。
最初は上手く行かなかった。
それをイメージで補った。
足を強化するイメージ。
そこから「発動」という過程をのぞく。
魔法にはしない、身体強化。
それを強くイメージして、魔力をあつめると――。
「出来た!」
俺も、ラードーンと同じようにものすごい勢いで、普段の自分じゃ絶対に出来ない様な飛び方で飛び回った。
が、上手くは行かなかった。
縦横無尽に飛び回るラードーンとはちがって、二回くらい跳ね返ったあと、魔力は風船から空気が抜けたように漏れ出て、俺は地面に墜落した。
「いててて……上手く行かないな。なあラードーン、何かコツはあるのか?」
「……」
「ラードーン? なんかまずかったのか俺? そんな白い目で見て」
「呆れているのだ」
「やっぱりなんかまずかったか」
失敗したしな。
「違う」
「え?」
「この一瞬で出来てしまったことに呆れているのだ。なんなんだ、その吸収力の高さは」
「えっと……」
それってつまり……褒められてる、のか?
「まあいい、教え甲斐がある、ということにしておこう」
ラードーンはそう言って、今度は楽しげな表情をしだした。




