74.陰謀を粉砕する
「エクスがやったのか?」
『というより、それを命じた人間だろうな』
「ど、どういう事だ?」
『さてな。黒幕は推測できるが、人間の事はよくわからん。特に貴族という人種は奇っ怪極まるのでな』
「貴族……」
ラードーンが分からないのなら、わかる人に聞けばいい。
「ガイ」
「はっ」
それまではなれたところにいたガイが駆け寄ってきた。
「お呼びでござるか」
「すこし離れる、ここを守っててくれ。フローラはなんとしても守れ、兵士は出来たら守れ」
「承知でござる」
ガイは頭を下げた後、ギガースに号令を飛ばした。
ガイの指示で、ギガース達はテキパキと動いて、この場を守る陣形を構えた。
それを確認した俺は、テレポートでスカーレットの屋敷に飛んだ。
「あっ」
いつもの部屋に飛ぶと、メイドと出くわした。
顔見知りの、俺の事を知っているメイドだ。
「スカーレットはいるか?」
「ひ、姫様は沐浴中です」
「そうか、話があるから、終わったら来てほしいと伝えてくれ」
「分かりました!」
どうやら掃除をしていたらしきメイドは、手元の掃除道具を置いて、慌てて部屋から飛び出した。
待つ事数分、メイド以上の慌ただしさの足音がドタドタと響いてきた。
風呂上がりの、スカーレットがあらわれた。
「すみません、お待たせしてしまって」
「いやいい。こっちも急に来たんだからしょうがない。それよりも聞きたいことがある」
「はい、何でしょうか」
「現場を見てもらった方がいいかもしれない。一緒に来てくれ」
「分かりました」
承諾したスカーレットを連れて、テレポートでポイント17――事件の現場に飛んだ。
この短い間で、ギガースたちは気を失っている兵士達をひとまとめにして、フローラを別にして、それぞれ監視・護衛した。
「これは……」
その光景と、爆発して出来たクレーターを見て、表情が強ばるスカーレット。
「あの娘、パルタ公国の公女、フローラというらしい」
「フローラ? そんな名前の公女聞いた事がありません」
「なに?」
真顔で話すスカーレット、嘘を言っているようには見えない。
「どういう事だ?」
「どういう事なのですか?」
「ああ……実はさっき、エクス・ブラストって名乗る男が来てな、公国がフローラって公女を俺の妻にしたいって言ってきた……ジャミールに対抗して」
「エクス・ブラスト……その名前は聞いたことがあります」
「本当か?」
「パルタ大公の懐刀、ただし暗部の仕事をひきうけている男です」
「暗部……。で、俺がとりあえず受け入れた後、彼女のそばにえっと……スサイドエレメントというモンスターが現われて、爆発した」
ラードーンから聞いた名前をスカーレットに話す。
すると。
「……そう来ましたか」
「何がだ?」
「口実作りでございます」
「口実作り?」
「魔物の国に公女を輿入れ、しかしその公女は魔物によって無惨に殺された」
「……攻め込む口実か」
「はい」
『人間は面白いことを考える』
ラードーンがつぶやく。
言葉とは裏腹に、苛立ちが感じられた。
スカーレットも同じような、怒りが見える、強ばった表情で気を失っているフローラに近づいていき、顔をのぞき込む。
「……あっ」
「なに、どうしたの?」
「この子、知ってます」
「そうなのか?」
「ええ……大公陛下の庶子だったはずです。認知してない、隠し子の様な存在の子です」
「本当か?」
「はい……ちょっと確認します」
スカーレットはそう言い、フローラのドレスの上をぺろりとめくった。
俺は慌てて顔を背けた。
「な、何をしてる」
「ああ、本人です。乳房の横にほくろがあります」
「なんでそんな事をしってるんだ?」
「大公陛下が認知していないからです。認知されていない庶子は、いつか必要になったときの為に、体の特徴だけ伝えられていることがよくあることなのです」
「そ、そうなのか」
しゅるり、と衣擦れの音がした。
横目でスカーレットがドレスを元に戻したのを確認してから、ほっとしてフローラを改めて見る。
スカーレットがドレスをめくったからか、フローラは「う、ん……」と呻いて、ゆっくりと気づいた。
「ここ、は……」
茫洋とする瞳、まわりを見回して、様子を把握しようとする。
「大丈夫か?」
「はい……ここは……天国、ですか?」
「勝手に死ぬな。助けた甲斐がなくなる」
「助けた……?」
「分からないのか、というか知らされてないのか、モンスターが爆発したの」
「あっ――」
直後、フローラはかっ、と目を見開いた。
ぱっと立ち上がり、俺達から距離をとる。
「は、離れて下さい!」
「どうした」
「私から離れてください! 危険です」
「まだあるのか、爆発するのが? それなら大丈夫、魔法の爆発ならいくら来ても防ぐから」
「そうじゃないです! これ!」
フローラは袖をめくって俺に見せた。
彼女の手首の裏――静脈がインクで引いたかのように、真っ黒になっていた。
「の、呪いがかけられているんです。万が一爆発で死ななくても、呪いの伝染で!」
「二段構え……ひどいやり方……」
スカーレットが不機嫌そうに吐き捨てる。
「助けてくれてありがとうございます! 助けてくれた人を巻き込めません! 私から離れて下さい」
「……」
「な、何をしてるんですか。早く!」
「呪い?」
「呪いです!」
「……オールクリア」
俺は手を突き出し、あらゆる状態異常を消し去る神聖魔法を彼女にかけた。
魔法の光が彼女を包み込んで、静脈の黒い筋が綺麗に浄化されていく。
「え?」
「これで大丈夫だ。他にまだあるか?」
「だ、大丈夫って……呪いを解いたんですか?」
「ああ」
「うそ……絶対に解けない呪いって言ってたのに……」
絶句するフローラ、それに対して。
「主は神聖魔法の使い手、呪いなんてないような物よ」
スカーレットは、不機嫌を残しながらも、ちょっとだけスカッとした顔で威張っていた。