70.禁呪・古代魔法
スカーレットの屋敷の中。
王国の内情をさぐるため何日かくれ、と言ったスカーレット。
その時に言われた日にちが経ったから、俺は彼女に会いに来た。
部屋の中、スカーレットは窓際の椅子に座って、窓の外を眺めている。
なにやら黄昏れている……? アンニュイな雰囲気を出している。
「どうした、何かあったのか?」
「あっ……お待ちしてました」
聞くと、スカーレットは俺に気づいて、パッと立ち上がった。
俺は彼女に近づき、真っ正面から見上げる。
やっぱり、何かを抱えている人間のような表情をしてる。
「何かあったのか?」
と、もう一度聞いてみた。
「はい、ここ数日、色々と探っておりました」
「うん」
「何も分かりませんでした……けど」
「けど?」
「国王陛下から大臣に至るまで、皆が何かを隠しているのは確かなのです。あの土地から手を引きたくない。それだけははっきりしているのですが、その理由がわかりません」
「なるほど……あそこに何か秘密が隠れている、ってことなのかな」
「十中八九」
スカーレットははっきりと頷いた。
「何か心当たりはないか、ラードーン」
『……』
ラードーンは答えなかった。
「どうでしょうか」
「……心当たりがないといってる」
「そうですか……」
「多分、人間側の都合だろう」
「そうですね。神竜様が気にも留めないような、俗っぽい事の可能性が高いです」
「その事はひとまずそれでいい。手を引くつもりはまったくない、って分かっただけでも大きな収穫だ」
「はい」
「それで、まだここにいるか? あっちに戻るか?」
「もうしばらくここで」
「わかった、また様子を見に来る」
俺はそう言って、スカーレットを置いて、テレポートで街の外に戻ってきた。
遠くからでも分かる建設ラッシュと活気。
それを尻目に、一人になったところで、ラードーンに再び聞く。
「あるんだろ? 心当たりが」
『なぜ、そう思う』
「お前が沈黙を守っているからな。今までお前は嘘はついてない。嘘をつかない人間が沈黙するってのはそういうことなんじゃないのか?」
『……なぜ今聞いた』
「そりゃ、スカーレットに話して良いことならさっき答えただろう。俺に話しても意味ないことなら今も沈黙したままだろう」
『意外だな……その洞察力。十二才の少年とは思えん』
「……」
『ふっ、そこで答えぬ、か』
ラードーンは楽しげに笑う。
答えないのは俺自身が分からないからだ。
気がつけば、晩酌だけが楽しみの人間から、貴族の五男の体に乗り移ったのだ。
その理由がなんなのかもわからないし、人に話して良いのかも分からない。
だから、黙った。
『リアムよ、お前は、ガーディアンがどんな意味なのか知っているか?』
「ガーディアン? ガーディアン・ラードーンのガーディアンか?」
『うむ』
「確か……守護者、って意味だっけ」
『何を守護する』
正解とも不正解とも言わずに、ラードーンは更に聞いてきた。
「そりゃ……魔導戦鎧になってお前は……え?」
言いかけて、「それは違う」と自分で否定した。
「お前は守られる存在じゃない。あれは……武器だ」
『……』
「魔導戦鎧としてのガーディアン・ラードーンは武器だ、守護者じゃない。守護者……?」
俺は考えた。
そしてハッとして、テレポートで飛んだ。
ガーディアン・ラードーンがいた、あの地下洞窟に。
「ここで何を守ってたんだ?」
『魔力を空間に満たしてみよ』
「魔力で空間を?」
『この前のレベルアップで、足りる様になっているはずだ』
意味は分からないが、とりあえず言われた通りにした。
魔力で空間を満たす。
魔法を使うのではなく、魔力をとにかく放出して、この地下洞窟を満たしていく。
しばらくして、体が脱力を覚えたのとほぼ同時に、ごごごごご――と地鳴りがしだした。
地面が大きく割れて、下に続く階段が現われる。
俺は躊躇なく下に向かった。
ラードーンに対する信頼がそうさせた。
ラードーンの「魔力で空間を満たせ」という言葉は、それだけではない。
空間を満たした先の行動もやるべきで、やっていいことなのだ。
だから、俺は迷いなく階段を下りていった。
階段を下りきると、そこは上の階の、倍近く広い空間だった。
俺は空間の広さよりも、もっと別のことに気づいた。
「これは……古代の記憶?」
『よく気づいたな。そう、古代の記憶。あれと同じものが、この空間そのものになっている』
「ってことは、ここに魔法がある?」
『カラス、という鳥をしっているか?』
「へ? 知ってるけど」
それがどうした、って思った。
『あの鳥は、光り物を巣に集める習性があるらしいな』
「あ、ああ。そうらしい」
『竜も、似たようなものだ』
「へ?」
『ここは竜の巣、古代魔法――禁呪を集めた空間』
「古代魔法……禁呪……本当か!?」
ラードーンの言葉に、ワクワクする響きを感じた。
憧れの魔法。
古代魔法、禁呪。
もう、わくわくしか感じない。
『魔力の大きさ次第で、封印が徐々にとかれる。この封印を解いた人間は、この数百年でお前が初めてだ』
「この……」
それもまた、ワクワクさせる響きだ。
この封印ということは、他にももっともっとあるって事だ。
『ふふっ、そっちに興味がいくか』
「そっち?」
『ふっ……まずはやってみろ。古代の記憶が目の前にあるのだ』
「ああっ!」
俺はこの空間。
古代の記憶から古代魔法を読み取ろうと試みた。