07.魔法アイテムを作る
ここ最近、魔法練習を兼ねた「ある事」をするのがマイブームだ。
俺は屋敷の裏、すっかり元の家よりも馴染んできた林の中をあるいて回った。
歩き回って、地面を注意深く見つめ、ある物を探す。
今日も割りと早く見つかった。
木の下で、朝露を受けて育った、レククロ草という草。
その草が生えているまわりの土は、他とは明らかに違う色合いをしている。
「ノーム!」
土の下級精霊、ノームを召喚する。
まるでモグラのような見た目をした精霊が、俺の前に現われ浮かんでいる。
ちなみにノームというのは個体名じゃなく、種族名だ。
今の俺は魔法を五つ同時に行使できる。召喚魔法も同じで、ノームを五体同時に召喚出来る。
だから、このノームも前に召喚したノームとは「別人」の可能性が非常に高い。
俺は「いつもの」って感じじゃなくて、分かるように詳しく説明した。
「レククロ草のまわりの、他とは違う色をした土を掘り起こして、俺の前で球状にまとめてくれ。草本体はよけてくれ」
ノームは頷いた。
直後、何かをするでも無く、レククロ草が生えてるまわりの土が浮かび上がって、ノームの横で球状の塊になった。
土の精霊であるノーム、土を操作することは、俺達人間が息をするのと同じで造作も無い事のようだ。
続いて、三発のファイヤーボールを放った。
炎が土の塊を包み込み、炎上させる。
「シルフ!」
最後に、同時五連の魔法の締めに、風の下級精霊・シルフを召喚。
すると、全身が裸で大人っぽい、ただし肌は緑色だしサイズは人間の三分の一の精霊が召喚された。
ちなみに人間基準で見た場合、それは女に見える。
「空気を操作してくれ、燃えてるあれが更に炎上するように」
シルフは頷いた。
ノームと違って振り向いて、口元にVサインのような形をした人差し指と中指を当てて、その「V」の間から息を吹き出す。
風が、炎を更に燃え盛らせた。
一直線に炎が空に上がっていくその様は、透明の長い煙突があるかのように見えた。
まさしく煙突と同じ効果で、土を燃やしている炎が強くなる。
五つの魔法を同時に使って、土を燃やした。
しばらくして、土がドロドロと溶け出した。
普通の土は燃やしてもそうそう溶ける物じゃない。
むしろ固まっていく物だ。
それを利用したのがねんどで、陶器なのだ。
が、目の前の土は溶け出した。
レククロ草が生えているまわりの土は、土のように見えて土ではなくなっている。
それ故に溶けて――やがて、結晶が現われた。
レククロの結晶。
炎を消して、風を止めて、それを手にする。
六角柱状の結晶体になったそれを人差し指と親指で摘まんで、片目をつむってのぞき込む。
中は透き通っていて透明で、不純物が一切無かった。
このレククロの結晶は、結構いい値段で売れる。
効果はシンプル、魔法を使って消費した魔力を瞬時に回復するものだ。
単純にして明快、その効果と相まって結構いい稼ぎ――になるんだけど、五男とはいえ貴族、本来なら稼ぐ必要はない。
だけどこの十二歳の肉体に乗り移ってから二ヶ月しかたっていなくて、まだ前の肉体、元の人生の感覚が強く残っている。
働かないというのがどうにも落ち着かないものだ。
だから俺はこのレククロの結晶を作っている。
複数の工程があり、それを全てこの二ヶ月の間に覚えた初級魔法でまかなうことで、魔法の練習をしながら作っている。
レククロの結晶が徐々にたまっていく、魔法の練度も上がっていく。
一石二鳥の行動が、俺の魔力を日に日に高めていく。
☆
「リアムよ」
「あ、父上」
屋敷に戻ってくると、父上に呼び止められた。
まっすぐこっちを見つめてくる父上の元に駆け寄る。
俺が魔法を使えるって分かって以来、屋敷のなかで出会うとこうして呼び止められるようになった。
最初の一ヶ月で、同じ屋敷の中にいながら話した言葉の数が十を下回る事を考えればものすごい変わり様だ。
「また、林に行っていたのか」
「はい。レククロの結晶を作ってました」
「ふむ、見せてみよ」
「はい」
俺は作ったばかりの結晶を取り出して、父上に渡した。
受け取った父上は、同じように人差し指と親指で摘まんで、目の前に持ってきてマジマジと観察する。
「相当の純度だな、99.999%はある」
「そうなのですか?」
「純度が高ければ魔力の回復速度も上がる」
「はい」
不純物が魔力の吸収を妨げる。
レククロの結晶を初めて知ったときの本にもそう書かれていた。
「この純度なら、近衛魔導師隊の、隊長クラスがいざという時のために持っておくものだ」
「そうなのですか?」
「どうやって作った」
「えっと……」
俺はやったことを説明した。
レククロ草に作り替えられた土を、土の精霊ノームを使役して抜き出してかためて、ファイヤボール三つ分の火力を、更に風の精霊シルフを使って火力を高めて溶かして作った。
その工程を、包み隠さず話した。
その説明を聞いた父上は、文字通り息子の成長を褒める目で俺を見つめた。
「五つも同時に、通常の魔導師五人分の働きというわけだ」
「はい」
師匠からこの技を学んだ後に知ったことだが、この技はものすごく使える人間が少ない。
国に仕えている魔導師や、ギルドに登録している冒険者。
いわゆる「身元がはっきりしている」魔導師だと、世界で五人もいないという話だ。
それくらい珍しい特殊技能だったらしい。
「よくやった、これからも励むといい」
「はい」
親子になって二ヶ月ちょっとの相手でも、こうして目を見つめられ、褒められると嬉しいものだ。