64.新しい記憶
村の中央広場に、俺と、レイナ・クリス・ガイの種族ごとのリーダー、そしてアスナとジョディ。
六人が顔をつきあわせていた。
そこに、一人の人狼が慌てて駆け込んできた。
パワーもそこそこあるが、人狼はギガースとは正反対のスピード特化型。
その人狼――確かレオンと名付けた男の人狼が風の如く駆け込んできた。
「い、いました……大変な事になってます」
「どんな感じなのよ」
人狼リーダーのクリスがレオンに聞く。
「バンパイアが北に十キロのあたりで集まってました。数は少なく見積もっても一万を超えてます」
瞬間、みんながざわついた。
「一万……」
「ここのざっと百倍近いじゃないの」
「なあ、これって」
「さようでござる。バンパイアは血を吸った相手を吸血鬼にして下僕にするでござる」
ガイがはっきりと頷いた。
俺に隠し事しない上に、口調が口調だから深刻度が増している。
「その上相手が瀕死であっても、絶命する前に血を吸えば、傷と関係なく下僕化してしまうでござる」
「つまり、戦えば戦うほど、相手の戦力を吸収して数を増やしていく訳か。ってことは、一万人の吸血鬼も?」
斥候に行ってくれたレオンを見る。
「はい、様々な種族のものがいました。全員、吸血鬼にされた証に、我々のような鋭い牙を生やしてます」
「むぅ……」
「まるでイナゴね」
アスナがうげえ、って嫌そうな顔をした。
「それが全員、今の――」
俺は空を見上げた。
青い空、白い雲、容赦なく照り続けるまぶしい太陽。
「――真っ昼間にも出歩けるって事は、例のドラキュラってヤツがいるからなんだよな」
「間違いないでござる」
ガイがまたまた肯定した。
「だとしたら納得よ。バンパイアも、普通にこの土地に住んでて、みんなとは仲良くなかったけど、悪くもなかったから」
「そうなのかクリス」
「うん、ドラキュラが現れたせいで、支配下に入って暴れ回ってんのね」
「今のうちに止めないと、ますます勢力が膨れ上がって、手がつけられなくなるわね」
ジョディはほぅ……とため息をつきながら言った。
「かといって大勢で押しかけても、やられたら吸血鬼になって、向こうの戦力になるじゃん?」
「ええ。少数精鋭で行くしかないわね」
アスナとジョディがそう言って、残ったみんなを見回した。
言いたい事は分かる。
レイナ、クリス、ガイのリーダー組。
そして自分達のようなユニークスキル持ちの人間使い魔組。
そして、俺。
この六人くらいの少数精鋭で戦った方がいい、と言う話だ。
「となると、ザコの相手は最小限にして、どうにかドラキュラを倒すしかないわね。ドラキュラさえ倒せば?」
レイナはそう言って、ガイを見つめて答えを求める。
「最低でも昼間活動できなくなるでござる。おそらくは以前のように敵対はやめてくれるでござる」
「やるしか無いわね」
「その前にだ」
俺は戦いの前にするべき事がある事を思い出した。
「ガイ、この『約束の地』にはまだ、他にも住んでいた者たちがいるんだろ?」
「その通りでござる」
「クリス。人狼達の方が足が速い。その人たちのところにみんなを走らせて、避難するように伝えるんだ」
「分かった。レオン、お願い」
「分かりました!」
クリスからレオンに命令伝達して、レオンは走り出した。
人狼達の家が固まっている辺りに走って行った後、間もなくバタバタと人狼達が動き出した。
全員、ハヤテの如き速さで村から飛びだした。
「さて、本腰いれて戦わなきゃね」
「ヘマやって噛まれないでよ脳筋」
「イノシシ女こそ。敵となったら容赦なく滅するでござる」
「リアムくん、何を考えているの?」
ジョディが俺に聞いてきた。
「ああ、ちょっとな。成功するかどうか分からないが、試してみたいことがある」
「それはなあに?」
「見てて」
ジョディに返事したが、俺が何かをする――って分かった途端、レイナらもおしゃべりをやめて、俺に注目してきた。
俺はアイテムボックスの中からハイ・ミスリル銀を取り出した。
ガイ達が集めてくれた鉱石の中から取りだした、豆粒大で十粒くらいのハイ・ミスリル銀。
とても貴重なものだ。
俺は、まずサラマンダーを呼び出してそれをとかした。
そしてイメージ。
魔導戦鎧作りで培った技術に加えて、作りたいもののイメージ。
「あっ……」
「どうしたの?」
「失敗した……まあいい、これはいつか使えるだろう」
失敗したとは言っても、既存のものとしては成功だ。
いつか使うこともあろうと、それをアイテムボックスの中に入れる。
そして、のこったハイ・ミスリル銀と向き合う。
残量は少ない、もう失敗は許されない。
さっきの失敗のちょっとまえ、俺が欲しい物の分かれ道を意識して、慎重にイメージして魔法を使う。
すると――。
「よし、出来たか?」
「何が出来たの?」
「みてな――」
俺は作りあげた、豆粒大で薬みたいな感じのするそれを、親指と人差し指で挟んで――つぶした。
瞬間、神聖魔法の光が放たれる。
はなった後、ハイ・ミスリル銀を使ったそれが跡形もなく消えた。
「消えたわ……」
「こ、これは何でござるか?」
「オールクリアだ」
「それって、バンパイア化を阻止するあの魔法?」
「ああ」
俺は頷き、更にのこったハイ・ミスリル銀をつかって、同じものをつくった。
残ったハイ・ミスリル銀の分量で、丁度5つができた。
「古代の記憶っていうのがあって、俺のこの指輪と同じだ」
今でもつけている、マジックペディアをみんなに見せる。
「それって、魔導書だよね」
アスナがいって、俺は頷いた。
「そう、魔導書のようなものだ。本当は古代の記憶って呼ぶらしい。これってようは、魔法をマスターしていない人でも魔法が使えるようになるものだ。ただし本人の魔力と素質がいる」
「……なるほど、リアムくんは、誰でも魔法を使えるようにしたのね。ただし一回限り」
ハンターとしての経験が長いジョディがすぐに察しがついた。
「そういうことだ」
「そんなの作ったの!? すごい」
「さすがでござる」
「というか、これってもしかしてあたし達に……」
俺は頷き、五人に作ったオールクリア発動のハイ・ミスリル銀を渡した。
「5つしか作れないけど、みんなに渡るのはよかった。万が一噛まれたら躊躇なく使えよ」
「――っ!! ありがとうリアム!」
アスナを筆頭に、全員が感激した目で俺を見つめたのだった。