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62.発酵の神

 街にテレポートで戻ってきて、ハンターギルドの前にやってきた。


「あっ! リアムだ!」

「リアムくん」


 パーティーを組んでる仲間のアスナとジョディ。


 二人は俺を見つけて、小走りでやってきた。


「どこに行ってたのさ、連絡も無しに。すっごい探したんだよ」

「なにか事件に巻き込まれてたの?」


 アスナはプンプンと拗ねて、ジョディは俺の事を心配した。


「ごめん、ちょっといろいろと――」

「まあいいや、それは後で聞かせてよ。それよりもリアムくん、お金を頂戴」

「お金?」


 ジョディは手の平を上向きにして差し出してきた。


「ほら、あたしたちがリアムくんに預けてるあれ」

「ああ」


 大分前に、スカーレットが俺を口止めしようとして渡してきた三千枚のジャミール金貨。

 三等分して、二人にそれぞれ1000枚ずつわたした。

 二人はそれを保管する方法がないからと、俺に預けていたのだ。


「一千枚出して。あっ、あたしとジョディさんが半分ずつで」

「アスナちゃん。ここで出すよりも、店にいってからだしてもらった方が良くないかしら」

「そうだった。ってことで、リアム、ちょっとついて来てくれる?」


 アスナが聞いてきた、ジョディも俺を見つめてきた。


 話はまったく見えないが、二人とも真剣そのものだったので。


「分かった。どこに行けばいい」

「こっちだよ」


 アスナが先導して駆け出した。

 俺とジョディはついて行った。


 ポニーテールをなびかせ、風のように街中を駆け抜けていくアスナの姿は思わず見とれるくらい綺麗だ。

 躍動感があって、彼女にとてもよく似合っている。


 一方のジョディ、お淑やかな感じで、上半身をまったく動かさない走り方をしていた。

 優雅に見えていても、アスナにぴったりとついて行けるほどの俊足。

 二人とも、ファミリアの魔法で身体能力が上がっている。


 しばらくついて行くと、アスナはある店の前に止った。

 そのまま入る。


「おじさん! あれ取っといてあるよね!」


 中にはいったアスナの声は外にまで響く。

 それで微苦笑していると、ジョディが俺に目配せして、一緒に中に入る。


 店は骨董品を扱っている店だった。


 様々な骨董品が店の棚に並べられるなか、アスナは既に最奥の、カウンターの前に詰めている。


 カウンターの向こうには、見事にはげ上がった、五十代くらいのメガネを掛けた男が座っていた。


 男は俺をちらっと見てから、アスナにいう。


「お代は?」

「リアムくん!」

「ああ、わかった」


 ここで何か買い物をするんだなっていうことだけは分かった。


 俺はカウンターに近づき、アイテムボックスを出して、ジャミール金貨一千枚をだして、カウンターの上に並べた。


 それをじっと見た店主の男は。


「……お前さんのためか」

「え?」

「ちょっと待ってな」


 男は店の奥に入った。

 一分くらいして、一冊の本を持って戻ってきた。


「ほら」

「ありがとう――はいリアム」

「え?」

「この街で持ち主がないたった一冊の魔導書だよ。リアムくん、魔導書必要なんでしょ」

「俺のため、だったのか」

「おそらくは被っていないし、本物だと思うのだけれど……どう?」

「えっと……うん、初めての魔法だ」


 魔導書を開き、中身を読む。

 魔法の名前と、使い方と、その効果。


 ざっくり目を通して、初めての魔法だと断定する。


 同時に魔導書を媒体に練習を始める。

 魔力の流れから、本物の魔導書だと確信する。


「そっか……ありがとう、二人とも」


     ☆


 昼間から開いてる酒場にはいって、二人にこれまでの事を話す。


 スカーレットに約束の地に付いて行ってもらって、そこに新しい村――国を作っていることを話した。


「それでしばらく連絡取れてなかった。ごめん」

「ほええ……国かあ」

「そういうことなら仕方ないわね」

「というわけで、二人はどうする? こっち来るか? それともこの街に残ってハンター続ける?」

「何いってるのさ」


 アスナはあきれ顔をした。

 まあ、そりゃそう簡単に今までの生活は捨てられないよな――。


「行くに決まってんじゃん」

「え?」

「私達、リアムくんの使い魔だから。どこまでもついていくわ」

「ジョディ……」


 アスナとジョディ、どっちも迷いなんてまったくなかった。


「わかった。後で一緒に行こう。改めてよろしくな」


 俺は手を出して、二人と握手した。


「なんで後でなの?」


 アスナは当たり前の質問をしてきた。


「ああ、今魔法の練習をしてるんだ。全ライン(、、、、)で。もうすぐ完全にマスターするから、その後にテレポートで連れて行くよ」

「ええっ!?」

「もうすぐマスターって、そんなに早く?」


 一斉に驚くアスナとジョディ。

 そっか、二人は知らないのか。


「魔法って、練習した回数でマスターするかどうかが決まるんだ。だから俺は、同時に魔法を練習することで」

「一気に回数を増やすのね」

「そういうことだ……よし」


 さっきから練習を続けていた魔法の、発動を感じた。


「ダストボックス」


 新しい魔法を使った。

 すると、俺達の間のテーブルの上で、箱が次々と現われては消える。


 回数はきっちり、俺の最大発動数19回。


「これで十九回分。今ので、発動時間が1時間弱から3分に縮まった」

「本当に?」

「ああ、みてて」


 俺はもう一度詠唱を挟んで、十九回の魔法を魔導書で使う。


 即席麺ができあがる程度の三分待つと。


「ダストボックス」


 もう一セット、十九回の魔法を使った。


「これでマスター。ダストボックス」


 最後にもう一度、仕上げに魔導書から手を離して、魔法を使う。


「す、すっごーい。一瞬だったね」

「こんな一瞬で魔法をマスターできるのね……」


 アスナとジョディは、俺がやってのけたことに驚き、興奮した。


「ねえ、それはどういう魔法なの?」

「アイテムボックスと似てる。物はいくらでも入る――術者の魔力次第だけど」

「何が違うの?」

「入ってる物は腐る。アイテムボックスは中に入ってる限り腐らないけど、こっちはすぐに腐って、物によっては朽ち果てる。しかも魔力次第で早く腐る」


 俺は注文した魚料理をダストボックスに入れた。

 一分待って、取り出すと――


「くっさ!」

「ごめんごめん」


 アスナが鼻を摘まんだので、すぐにダストボックスに戻した。


「とまあ、こんな感じで、物を早く腐らせてしまう箱だ」

「ゴミ箱、なのね」

「そういうことだ」

「ねえねえ、使える魔法なの?」


 アスナはきらきらした目で俺を見つめた。


 頑張った、褒めてほしい。

 って、言っている仔犬のような目だ。


 圧倒的に何かに役立つわけではないが、そこそこ便利だと、俺は彼女を褒めようとした――その時。


 パリーン。


 隣のテーブルで、別の客がグラスを落とした。


 地面に落っこちて割れたグラス、飛び散るワイン。


「――っ!」


 俺は立ち上がって、ぱっと駆け出した。


「リアム!?」

「リアムくん?」


 驚く二人をよそに店から飛び出す。


 街中を回って、果物を商っている店を見つける。


 そこで葡萄をありったけ購入して、ノームを呼び出して、土で器をつくりながら移動する。

 別の店で瓶を購入して、最初の器に葡萄を入れて、絞る。


 絞ったぶどうジュースを瓶に入れた。


 ここで、二人が俺に追いつく。


「どうしたのリアム、いきなり」

「これ、今作った葡萄ジュース」

「え? ああ、うん」


 頷くアスナ、「それで?」って顔のジョディ。


 俺はぶどうジュースに封をして、ビンごと、ダストボックスにいれる。


 そして待つこと、五分。


 ボックスから取り出して、封を開ける。


「わああ……」

「ワインの匂いだわ」


 驚く二人。

 そう、ダストボックスを使って、ジュースを一瞬でワインに発酵(、、)させた。


「すごい! 一瞬でワインを作ってしまうなんて」

「こんな使い方もあるのね……もしかして、いま思いついたの?」

「ああ」

「リアムすごい!」


 大興奮するアスナ。


 最初はあまり使い道がないと思っていたが、これなら話は別だ。


 よく使われている醤油とか、野菜の漬物とか、東の国の特産品であるミソとか。

 もちろん――ありとあらゆるお酒とか。


 発酵するものは、ダストボックスで短期間で大量生産が出来る。


 かなり、使える魔法だ。

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2025年1月6日アニメ放送開始しました!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「俺は注文した魚料理をダストボックスに入れた。」 嘘でしょ!? ドン引きです。 人としてどうかしてます。 説明の為なら生ゴミを入れるだけで良かったはずでは?
[気になる点] ワイン酵母……
2021/10/13 15:52 退会済み
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