59.成功しなかっただけ
進化して、住民の一員になったガイ率いるギガース三十名。
彼らはみんな、巨大な籠を担いでいた。
籠の中には山ほどの石――鉱石が入っている。
その籠と鉱石の大きさは、実に担いでる彼らの三倍――いや五倍はある。
自分の五倍はある体積の鉱石を担ぐその姿は、力強さと頼もしさを感じさせる。
「ふぬー、ぐぎぎぎ……」
一方で、それに張り合うクリス。
彼女は自分の体積よりもちょっと少ない位の鉱石しか担げなかった。
いや、見た目はケモミミがついてるか弱い美少女なのだ、人狼のクリスは。
自分と同じ体積の鉱石を担げるだけでもすごい事だろう。
「無理はいけないでござる」
「無理じゃ、ないもん!」
「力仕事はそれがしたちに任せるでござる――ああっ! いわんこっちゃないでござる」
クリスは担いでる鉱石につぶされた。
それで心配してくるガイを、涙目で睨みつけた。
「こ、こ……」
「こ?」
「これで勝ったと思うなよー!!」
クリスは更に涙目になって、火事場の馬鹿力で、って感じで走り出した。
ガイと張り合うクリス、その光景は見慣れているのか、ガイ以外のギガースはみんな、ニヨニヨしながら二人のやりとりを見守っていた。
☆
ギガース達が次々と、最初に出会った荒地から鉱石を担いで村に戻ってきた。
その鉱石を、俺は次々と精錬して、金属を抽出する。
ノームとサラマンダーを駆使して、温度とか、「炉」の内部構造とかを変えたりして、金属をより分けて抽出した。
鉄、銅、黄金や白銀。
主に鉄が一番多いが、いろいろな金属をゲットできた。
しかし、狙っているハイ・ミスリル銀はほとんどでなかった。
丸一日やっても、ゲットできたのは豆粒大のが五つ。
到底足りない分量だった。
一方で鉄は1トンを超え、黄金でさえも一キロはあるという、結構な収穫になった。
俺は手の平に載っているハイ・ミスリル銀をじっと見つめて。
「こんなに出来ないとは思わなかった」
とつぶやいた。
『人間界では珍しい金属だ。そうそう大量に出るものではない』
「そうみたいだな。王都で第一王女が集めさせてもあのくらいしか出てこなかったのが納得だよ」
ギガース――トロール達とあったあそこで大量の鉱石があると気づいてから、ハイ・ミスリル銀をゲットして魔導戦鎧を量産したいなと思っていた。
それでガイ達に鉱石を大量に、次々と運んできてもらったが、この感じじゃここでハイ・ミスリル銀を揃えるのは現実的じゃないな。
「魔導戦鎧、この先の事を考えるともっと欲しいんだけどな」
『他のものを大量に生産して、交易で手に入れるのが無難ではないか?』
「そうだな……ハイ・ミスリル銀じゃないとダメなのか?」
『最低限、ハイ・ミスリル銀がいる』
俺の質問に、ラードーンは更に無慈悲な答えを返してきた。
こんなに手に入れにくいハイ・ミスリル銀でさえ「最低限」だなんてな……。
『他の金属では力不足だ』
「そうか……ん?」
『どうした』
「今、力不足って言ったか?」
『うむ。それがどうした?』
訝しむ声で聞き返してくるラードーン。
俺は少し考えた。
「やってみるか」
『何をやるのだ? 言っておくが、ハイ・ミスリル銀が最低限なのは既に証明されている。いたずらに失敗をするだけだ』
「別にいいんだよ、失敗でも」
『なに?』
「失敗なんて、成功しなかっただけで、大した事じゃないから」
『…………』
ラードーンが数秒間、絶句をした後。
『ふ、ふは。ふはははははは!』
ものすごい勢いで笑い出した。
「な、なんだよ」
『ふふふ……そうか、失敗は失敗ではなく、成功しなかっただけか』
「普通にそうだろ?」
魔法なんてその最たるものだ。
マスターするまで、いや実際に発動するまで。
失敗ではなく、成功しなかっただけ。
成功しなかっただけだから、するまで続ければいいだけだ。
『面白い、その考え方……ますます気に入ったぞ』
「はあ……」
何をそんなに気に入られたのか分からないけど……まいっか。
俺は、考えてる事をやろうとした。
ラードーンはもう止めなかった、むしろ楽しそうな感情を垂れ流して、わくわくして俺が何をするのかを見守ってる感じだ。
俺は大量に作った鉄をサラマンダーでとかした。
それをノームで作った型に流し込む。
次に魔力を流し込む。
ここまでは、最初のハイ・ミスリル銀で魔導戦鎧を作った手順と同じだ。
「ファミリア!」
使い魔契約の魔法を使った。
俺が考えたのはこうだ。
スカーレットのためにつくった魔導戦鎧は、ファミリアの魔法でなまえをつけたら性能が上がった。
あれを1だとして、2くらいまでには上がっていた。
鉄で作った魔導戦鎧っぽいものは?
もし、全くのゼロではないのなら。
鉄でも、ファミリアの魔法で名付けをすれば魔導戦鎧になるんじゃ?
それを思って、やってみた。
「お前は……アポロン! 太陽を意味するアポロンだ」
名前をつけた後、魔力が型の中に吸い込まれていく。
型が外れると――現われたのは。
『これは――太陽、か?』
「ああ、どうせなら、名前にふさわしい姿にした方が、力も上がるんじゃないかって思ってな」
これは、ガイたちに名付けた時に気づいたことだ。
ぱっと思いついた名前でも、彼らにふさわしい響きや意味になってて、それをつけられた彼らはある意味、名前の通りに進化した。
ならば、魔導戦鎧も?
そう思ってやったら――
『面白い』
「え?」
『成功しおったぞ。鉄での魔導戦鎧』
「本当か?」
俺は目の前にある、太陽の形をしたそれを見る。
『素晴らしい発想だ。ふふ……どこまでも楽しませてくれる人間だな、お前は』
ラードーンは、ものすごく楽しそうだった。