57.トロール戦
力を持って行かれすぎたから、レククロの結晶を使って魔力を回復した。
それで人心地がついて、気を取り直して、スカーレットに話しかける。
「悪い、ガーディアン・ラードーンをしばらくもらってって良いかな」
「もちろんです!」
スカーレットは即答した。
「むしろ主が持っておくべきです!」
「そうか」
俺は頷き、アイテムボックスを出した。
その中にガーディアン・ラードーンを入れる。
生命あるものはアイテムボックスに入らないのだが、ガーディアン・ラードーンは普通にはいった。
「限りなく生命体に近い存在、か」
『そうだ、限りなく近いが、生命ではない』
「なるほど」
魔導戦鎧、ガーディアン・ラードーン。
使いこなせる様になりたいから、もっと魔力をあげなきゃな。
☆
スカーレットが王都に戻ったのは、レオナルドが持ってきた話をいろんなルートから政治的に探るためだ。
そのため、スカーレットをもう一度テレポートで王都の彼女の屋敷に送り返してから、俺は再び村に戻ってきた。
「リアム様」
すぐさま、俺を見つけたエルフのレイナが名前を呼びながらやってきた。
「どうしたレイナ」
「クリスに聞いた話なんですけど、リアム様の耳に入れた方がいいかなって思って」
「なんだ?」
「この近くに、トロールの群れが生息してるらしいんです」
「トロールっていうと……あのでっかい化け物か」
「はい、そのでっかい化け物みたいな種族です」
結構有名な存在だから、俺でも名前を知っている、トロール。
基本的には体がでっかくて、普通に二メートルとか三メートルとかあって、ごつくて筋肉ムキムキの種族だ。
性格もまあ有名だ。
その外見通りに、乱暴で暴れ者なのと。
その外見に似つかわしくない、心優しい巨人と。
極端にわかれているのが特徴だ。
「えっと、そのトロールの群れの性格は?」
「すごく乱暴者なんだって」
「そうか」
「それでね、クリスは分かってないみたいだけど、今ってあまり人間たちともめない方がいいんですよね?」
「ああ」
「でも、多分人間達はまだまだ来る」
「……そうか、放っておくとまずいな。勝手にもめ事を起こされるとやっかいだ」
レイナが深く頷いた。
「うん。こっち側に引き込んで、リアム様の言うことを聞くようにした方がいいよね」
「そうだな。教えてくれてありがとう。場所はどこなのか分かるか?」
「えっとね……」
俺はレイナからトロールの群れの場所を聞いて、そこに向かうことにした。
☆
俺はレイナ――クリスから聞き出したレイナの話を聞いて、東に向かって進んでいった。
草原が徐々に途切れて、あたりはゴツゴツとした荒地に変わっていく。
直前まで豊かな土地だったのが――いや違うか。
俺は屈んで、落ちている石ころを拾い上げた。
軽く割ってみる――やっぱりだ。
表面を見るだけでも分かったのが、割るとより分かる。
かなり含有量の高い鉄鉱石だ。
まわりを見回す、鉱石らしき石ころがあっちこっちに落ちている。
緑ではないだけで、ここも資源がたっぷり眠っている土地みたいだ。
その荒地を再び歩き出す――がすぐに足を止める事となる。
「……でたか」
つぶやき、まわりを見る。
気づかない内に囲まれていた。
遠くから俺を取り囲んでいるのは、数十メートルという距離からも分かる位、巨大な人サイズの者達だ。
トロール。
聞いていた話通りの見た目の連中だ。
まあ、わかりやすい外見だしな。
二メートルから三メートルのでかさの、筋肉ゴツゴツの巨人。
ねじ曲げようがないわかりやすい見た目だ。
それが全部で約三十体。
俺を取り囲みながら、近づいてくる。
「オマエ、ナニモノダ」
声が届く程度の距離に近づくと、一体のトロールが問いかけてきた。
他のトロールとちょっとだけ違っていた。
サイズはほとんど一緒だが、腰布一枚で裸の上半身からは、鉱石と見まがうトゲトゲが生えている。
正直――力強さが増して、ちょっとかっこいいとすら感じてしまう。
真っ先に話しかけてきた事と言い、トロール達のボスのようだ。
トロールが全員持っているこん棒も、こいつのだけ一段とぶっとくて強そうだ。
「俺の名前はリアム。ここに国を作ることになったから、引き入れにきた」
「ニンゲン、ウソツキ」
トロールボスは片言チックでそんな事を言い放った。
「信用デキナイ」
「信用してくれ、悪いようにはしない。今ももう、エルフ――じゃなくて、ピクシーとウェアウルフたちが仲間になってる」
言いかけたのをやめて、ファミリアで進化する前の種族名を告げた。
「立チ去レ、サモナクバコロス」
「……それを聞いて、ますます引き入れなきゃって思ったよ」
この調子でジャミールら三国の、多分しばらくはやってくるであろう斥候やらなにやらとやらせると問題になる。
「分カッタ、モウ死ネ」
トロールボスはこん棒を構えて、殴り掛かってきた。
踏み込んできて、真上から振り下ろされる巨大なこん棒。
とっさに後ろに跳んで躱す。
すると、空を切ったこん棒がそのまま地面に叩きつけられ、ボコッ、と巨大なクレーターを作り出した。
更にたたみかけてくる、こん棒を滅多打ちで振り下ろしてくる。
全力でよける、こん棒は次々と空を切って地面に叩きつけられて、クレーターを作り出し、弾けた地面や岩があっちこっちに飛び散る。
中にはクレーターに収まらない、地面に人を飲み込むほどの亀裂を生み出す一撃もあった。
見た目通りのものすごいパワー、一発ももらうわけにはいかない。
俺はよけながら、手加減前提の反撃の方法を考えていると――足を取られた。
地面の亀裂に足を取られて動きが止った。
「ニィィ」
トロールボスは全力でこん棒を振り下ろした。
大気がうなりを上げる。
今までのものとは比較にならないほどの一撃。
ざっと見積もっても、威力は十倍以上はある。
完全にやられた。
誘い込まれたのだ。
見た目で油断して、筋肉馬鹿だと思い込んでいた。
それが――巧みに誘い込まれてからの、必殺の一撃。
「――っ!」
まわりをざっと見回した俺は、その一撃を受けた。
こん棒が真上から振り下ろされ、喰らった俺は地中にたたき込まれる。
体がものすごい勢いで真下に埋まっていく。
十メートルくらい埋まってから、ようやくその勢いが止る。
「……ふう」
とっさにやったのが間にあった。
俺は自分がうまった穴の底を蹴って、地上に飛び出す。
「バカナ、無傷ダト!?」
トロールボスは驚愕した。
「とっさに間にあったからな――解除」
俺は纏っている鎧を解除して、ガーディアン・ラードーンに戻して、アイテムボックスにしまった。
直前に、アイテムボックスから呼び出して、鎧化して身につけた。
ラードーン本人も使った、ガーディアン・ラードーンの魔導戦鎧。
喰らったところが若干ヒリヒリする程度で、無傷でやり過ごす事ができた。
それに――うん、あっちも大丈夫みたいだ。
「オノレ、コウナッタラ」
「ぼす」
更にしかけてこようとするトロールボスを、別のトロールが呼び止めた。
「ナンダ――ムゥ!」
呼ばれて仲間達を振り向いたトロールボスが驚愕した。
びっくりしてまわりを見回す、それで更に驚く。
まわりにいる約三十体のトロール達のまわりに、岩が「よけて」落ちていた。
全部が綺麗によけている。中にはトロールの体よりも大きな岩もある。
トロールボスが地面を殴って、飛ばした岩だ。
それが一つ残らず、「岩が」よけている。
「ドウイウコトダ……」
「血が上って、仲間を傷付けるところだったぞ」
「オマエガ、ヤッタノカ」
「ああ」
俺は深く頷いた。
よけなかったのは、そして魔導戦鎧を纏ったのはトロール達を助けるためだ。
トロールは30体近くいる、通常状態だと魔法の数がたりない。
それで魔導戦鎧を呼び出して、最大数をブーストして、全員守ったのだ。
「……」
「ぼす……」
「ワカッタ、話ヲキコウ。ツヨキ……ヤサシキモノヨ」
トロールボスは敵意を収めた。
この言葉の内容から、俺は彼らが「実は心優しい方」だとなんとなく分かったのだった。