56.最強の入り口
スカーレットはハイ・ミスリル銀の魔導戦鎧を解除した。
鎧がはずされ、みるみるうちに元のラードーンジュニアの像に戻っていく。
俺はそれを見つめた。
「……」
「どうしたのですか主」
「ああいや、形状記憶の魔法をあみだしたけど、昔の人もそれを開発してたんじゃないかな。これをみて」
「これを……あっ」
「そう、これも形状記憶の魔法と同じ――いやそれ以上だろう。二重に形を記憶してるんだからな」
「それなら、上位の形状記憶魔法がある、ということになりますね」
「そうだな。いずれそれも見つけよう」
「これほどのすごいもの、複数の魔法の効果が込められているのなら納得です」
「そうだな」
「身につけていた時、鎧自体が生き物のように感じました。それも何かの魔法の効果なのでしょうか」
「え?」
俺は驚き、じっとスカーレットを見つめた。
「ど、どうしたのですか主」
「生きてる、って感じたのか?」
「え? あ、はい。何となくですけど」
「生きてる……」
『限りなく生命体に近い存在だ。上級の魔道具は多かれ少なかれそういう存在として作られる。その方が能力が高くなる。人間がしばしば魔剣や妖刀などと呼ぶものがそれだ』
「……なら」
俺は頭の中に浮かんだ可能性をはっきりと形にまとめた。
そして、作ったばかりのハイ・ミスリル銀の魔導戦鎧に向き直り、手をかざして魔法を発動。
「ファミリア」
「ファミリア? 主? それは……?」
驚くスカーレット、説明は後回しだ。
「お前の名前は――戦を司るという意味の、アレス」
魔法の光が魔導戦鎧を包み込む。
光が全て魔導戦鎧に吸い込まれる。
見た目は何も変わっていないが。
『驚いた……このような発想があったとは……』
普通に感心しているラードーンの反応。
その反応から、俺は成功したと確信した。
「スカーレット、もう一度身につけてみろ」
「え? あ、はい!」
スカーレットはまだ状況を理解できていないが、それでも俺に言われたとおりにやった。
ラードーンジュニアの形をした魔導戦鎧が分解し、スカーレットの装着する鎧になった。
「こ、これは……」
「どうだ?」
「さっきよりずっと軽い、それに、力が湧いてくる!」
「どれくらいだ?」
「ほ、ホーリーランスが撃てそうです」
スカーレットはそう言って、実際にホーリーランスを撃ってみた。
中級神聖魔法。
最初の黄金の魔導戦鎧では撃ったら力を使い果たしていたのに、今度はそうはならなかった。
『ふふ……面白いものをみた。やはりお前の中に入って正解だったわ』
「面白いのか?」
『魔導戦鎧全盛の時でさえ、この発想をする人間はいなかった。面白いぞ』
ラードーンは本気で楽しく思っているみたいで、俺の事を褒めた。
『例外で、我が一つにだけ名前をつけたが、それもただ人間が区別するためのものだった。使い魔として契約するなど、発想すらなかった』
「……それって、ガーディアン・ラードーンの事か」
『うむ、よく気づいたな』
「あれも魔導戦鎧なのか?」
『我専用の、な』
「……三頭の竜で戦うための?」
「――っ!?」
ラードーンの声は聞こえていないが、俺の言葉だけきいても、スカーレットははっと息を飲むほどだった。
三竜戦争。
天変地異を起こすほどの力をもった三頭の竜が戦い、最終的に勝利をした一頭が人間と交わり、国を作った。
その伝承を、スカーレットは重要視している。
第一王女の地位を捨てて、ラードーンが中にいる俺を立てて新しい国を作ろうとしたほどだ。
反応するのは当たり前だ。
「俺に使えるのか?」
『……ふふ、やってみろ』
出来るとも出来ないともラードーンは言わない、ただ、楽しそうに笑った。
その反応をするのなら、やる価値はある。
「スカーレット、ついてこい」
「は、はい!」
鎧を装着したスカーレットを連れて、テレポートで村に戻った。
村のすぐ外に寝そべっているガーディアン・ラードーンに近づく。
よく考えたらすごいぞ、これ。
自分の意識を持っていて、自由に動く、巨大な像。
それだけで、人間達が使う魔導戦鎧とは明らかに別格のものだ。
俺は近づき、指の腹を割いて、血をガーディアン・ラードーンにつけた。
契約して、装着と念じる。
ガーディアン・ラードーンが光った、みるみるうちに小さくなって、その後弾けるようにばらけて、俺の体にあつまってきた。
巨大だったガーディアン・ラードーンが、12歳の俺の体にぴったりなサイズの鎧になった!
力が湧き上がる。
「パワーミサイル……37連!?」
自分でも驚くほどの力がでた。
空に向かって放った魔力の弾が、一気に五段階も上の、純粋な数で言えば倍以上のものが撃ち出された。
「………………すごい」
それをみたスカーレットは、絶句した後、その一言だけを絞り出した。
が。
「くっ」
俺は膝をついた。
鎧が体から離れ、元の姿、ガーディアン・ラードーンに戻った。
「主!?」
「大丈夫だ……今ので全魔力を持ってかれただけだ」
「そんなに!? い、いや……でも、そう、かな……」
実際に全部の力を持って行かれた経験のあるスカーレットは納得した。
『ふふふ、面白い。予想以上だ』
ラードーンは楽しそうに笑った。
『これを身につけて生き残ったのはお前で三人目。実際に魔法を行使するまでに至ったのは初めてだ』
「そんなにヤバイものだったのか」
『ふふふ……ここまで来れば使いこなしてみろ。そこから先は神の領域、世界がとれるぞ』
ラードーンはやっぱり楽しそうに、それでいて感心したように言ったのだった。