54.魔法の鎧
村の中で、ハイスピードで村が出来ていくのを眺めていた。
ゴラクの幻影の知識と技術力、人狼達のずば抜けた体力、実は手先がかなり器用だったエルフ達。
それらが合わさって、村の建設は順調に進んでいる。
この分だと、明日くらいで、ひとまずの建物はそろって、建設が一段落するだろう。
その先はどうしようか……って思っていたその時。
俺の目の前に、幻影がテレポートしてきた。
「お待たせ」
「いいのか?」
「ああ、飛ぶぞ」
俺は深く頷いた。
自分の幻影と話すのは今でもちょっと不思議な気分だ。
俺の幻影は、俺を連れて再びテレポートした。
飛んだ先は立派な貴族の屋敷だった。
ハミルトンの屋敷よりも、はっきりと豪華な屋敷の一室。
使われている調度品、敷かれているじゅうたん、そもそもの建物自体。
何から何まで、ハミルトンの屋敷より立派だった。
「じゃあ、俺はここで」
「ああ」
頷き、俺の幻影の召喚をとく。
「主……」
そして、声に振り向く。
そこにスカーレットがいた。
「ここがお前の屋敷か。王都の」
「はい……えっと、本物の主……で、間違いありませんか?」
「ああ」
俺と俺の幻影のやりとりを目の当たりにして、戸惑いを見せるスカーレット。
「というか、俺を待っていたのか? この部屋にいるって事は」
「はい。えっと、今のは……」
「実際に見せた方が早い」
俺はスカーレットを連れて、テレポートをした。
一瞬で約束の地にある村に飛んだ。
「あっ……」
「でもって」
もう一回飛ぶ、今度は屋敷の元の場所に戻ってきた。
「すごい……」
「お前に幻影を案内してもらって、ついた後に幻影が俺をここに連れてきただけの話だ」
いわば幻影を使った、王都へのテレポート先のブックマーク。
移動は幻影任せという、ちょっと楽をしてみた。
「そのようなやり方、考えもしませんでした」
「それより、お前はここにいていいのか?」
「はい、今日は、もう。陛下に謁見できるのは、軍事で急を要すること以外は、午前中だけと決まってますから」
「そんな決まりがあるのか」
なんか不思議な決まり事だな。
「ですので、今日は、もう」
「そうか」
俺はどうしようかって考えた。
スカーレットの屋敷の中、という彼女の空間の中はまだいい。
今の俺は、あまりおおっぴらに王都に姿を現わして良いものじゃない。
ハミルトン家の五男、新しく任命された騎士にして男爵。
そこまでならよかったんだが、今は約束の地で国を作ろうとしている身だ。
いわば、別の国の君主。
それが王都に姿を現わすのは、普通に考えても分かる位よくない。
一旦戻って、また必要な時に様子を見に来るか。
「……ん?」
「どうかなさいましたか?」
「この気配……ラードーン?」
「え? 神竜様?」
「お前の気配だよな」
『そうだな、微弱ながら、我の力の残滓だ』
「力の残滓……なんかラードーンに由来するものが残ってたりするのか?」
「あ、はい。ございます。こちらへ」
スカーレットはそう言い部屋を出た。
そのまま、俺を案内するような形で先導する。
途中で彼女の屋敷のメイドと何人もすれ違う。
メイド達はみんな、
「姫様がみずから客を案内している!?」
っていう、驚きの顔をしていた。
スカーレット、当の本人はそんな風に見られているなど気にも留めずに、俺を案内した。
やがて、更に一段と立派な部屋に連れてこられた。
「こちらです」
部屋の中に入ると――ちょっと驚いた。
そこに、竜の銅像があった。
ラードーンとは見た目が違うが。
「神竜様の像です。母――王妃の実家に代々伝わるものです」
「ああ、竜の血を引く一族って話だっけ」
「はい」
なるほど、と思った。
俺は像をみた、見た目は違うが、明らかにラードーンの力を感じる。
『ふむ』
「どうしたんだ、心当たりがあるのか?」
『これが残っていたとはな。戦争で全て失われたと思っていた』
「戦争で全て失われた?」
『魔法を使うといい。そうだな……オールクリアが最適だろう』
「あの像にか?」
『うむ』
頷くニュアンスを伝えてくるラードーン。
俺はスカーレットに向き直って。
「ラードーンはこれに魔法をかけろと言ってる。やっていいか?」
「もちろんです! 主の、何よりも神竜様のお告げなら!」
スカーレットは興奮気味に頷いた。
なるほど神竜様のお告げか。
そういうことなら遠慮することはないな、と、俺は言われた通りに像に近づいて、オールクリアをかけた。
初級神聖魔法、ラードーンの力であらゆる状態異常を治す治癒魔法。
神聖魔法の光が像を包み込み――変化を起こした。
像は光とともに分解し、いくつもの部品になって飛び散って、スカーレットに飛びついた。
「ひゃう!」
小さな悲鳴を上げるスカーレット、しかし状況は止らない。
わずか、三秒。
スカーレットが鎧を纏った。
あっちこっちに元々の形が残っている、竜の像が分解してできたと思われる鎧を。
「これは……」
驚くスカーレット
そのままおそるおそるって感じで手をつきだし。
「ホーリーランス」
と唱えた。
光の槍が壁を貫く。
「できた……あっ」
驚く暇もなく、スカーレットはそのばにへたり込んだ。
そして鎧はひとりでに外れて、もともとの竜の像に戻った。
「はあ……はあ……」
スカーレットは、一瞬で一時間走りきったかのような、疲れている感じだった。
☆
五分くらい休んだ後、ようやく落ち着いたスカーレット。
落ち着きはしたが、座ったまま、しばらくは立ち上がれないほど消耗していた。
「すみません主。やっぱり主はすごいです」
「どういうことだ?」
「今の魔法一回で、全身の力が吸い取られたような感じです」
「力が全部? どういう事だラードーン」
『あれは我の力で作られた、人間が魔導戦鎧と呼んでいるものだ』
「魔導戦鎧……」
『人間の魔力で我の力を行使する事ができるものだ』
「なるほど……戦争で全て失われたってのはそういうことか」
鎧だが、武器でもある。
こんなものが残っていたなんて。
「うん? どうした」
スカーレットが熱い視線で俺を見つめている事に気づいた。
「今のホーリーランス……主も使っていらっしゃった……?」
「ああ、何度かな」
「私は一度でこうなのに……主はそれを平然と……すごいです……」
ラードーンの力を実際に体験したスカーレットは、ますます俺に心酔するようになったようだ。