51.一人防衛軍
「――パワーミサイル!」
突き出した右の拳から、純粋な魔力弾を撃ち出した。
それが17本。
一度ふわりと拡散してから、アナザーワールドの空間の壁に集中・着弾する。
異空間故揺れなかったが、その威力は一目でわかるほど抜群なものだ。
「マジックミサイルのざっと2倍はあるな、よしよし」
俺は、三つ目のオリジナル魔法の成果に満足した。
ラードーンから「因果」というヒントをもらって、ウンディーネとセルシウスを同時に召喚して比較用に並べた結果。
最近一番よく使う、純粋な魔力弾のマジックミサイルの上位版・パワーミサイルを編み出した。
マジックミサイルとほとんど同じ魔法だ。
差異は、純粋に威力だけ。
故に、下級精霊と中級精霊を並べた結果、すぐに開発することが出来た。
これからは、マジックミサイルに代わって、パワーミサイルを使っていくだろう、という確信を持った。
『ふふ……その応用力、面白いものを見させてもらった』
「楽しんでくれたみたいだな」
『その調子で、もっと魔法を開発していくといい』
「そのつもりだ」
『ならば、もっと世界を知れ。まずは国だ、国ができれば、いやでも色々と知ることになる』
それはラードーンの真剣なアドバイスだった。
彼の言う通り、それが一番「経験」を積める生き方だろう。
それは間違いない。
だが。
「それもいいけど、もっと先があると思うんだ」
『もっと先?』
「ああ」
俺ははっきりと頷いた。
オリジナル魔法の開発で、色々とイメージして、頭をフル回転した結果、一つの考えに行き着いた。
それは偶然の産物に近い、ひらめきのようなものだが、一度思いつくと、それは正しいものだと時を経て行くにつれて確信する。
「そもそも、最初の魔法を創った人は何をどうしたんだ?」
『――っ!』
「始まりが無から有になったんだから、全くの無から魔法を編み出すのは理論上可能なはずだ」
改めて言葉にすると、ますますその事を確信する。
間違いない。
目の前に「因果」がなくても、魔法でそれができるという発想がなくても。
一から、魔法を創れるはずだ。
『ふ、ふふふ、ふははははは』
いきなり、頭の中でラードーンの高笑いがこだました。
「な、なに。どうしたんだ?」
『ふははははは。愉快、愉快だ。やはりお前をみているのは楽しいぞ』
ラードーンは、俺の中に入ってから、一番楽しそうに大笑いしたのだった。
☆
魔法開発が一段落して、俺はアナザーワールドから外に出た。
ものすごい勢いで建築されていくエルフと人狼達の村の中心で、エルフの長、レイナが俺を待ち構えていた。
俺がアナザーワールドから出てくると、彼女は駆け寄ってきた。
「リアム様!」
「どうした、何かあったのか?」
「はい。この土地のピクシー達が、保護を求めてやってきました」
「この土地のピクシー達が?」
聞き返すと、レイナは後ろを振り向いた。
彼女が振りむいた先に視線を追っかけていくと、そこに100体くらいの、ふわふわ浮かんでいる妖精の姿が見えた。
レイナ達の前の姿とほとんど同じの、小さな妖精達だ。
「なるほど。でも保護を求めてって、なんで?」
「人間が襲ってきたっていうんです」
「人間が?」
「どこかの国の兵士らしいのですが、それ以上はわかりません。集落をいきなり襲われて、それで逃げてきたといってます」
「なるほど」
「どうしますか?」
「……罠って事はないよな」
俺は少し考えて、それだけ確認した。
「私達――あっ、ピクシーはうそをつけません」
「なるほど」
つきませんじゃなくて、つけませんか。
そういう種族なんだろうな。
「わかった、そういうことなら受け入れよう。ついでに、希望者には契約と名前をあげるから、それを聞いてきて」
「それならもう聞きました。全員です」
「全員か」
「はい、みんな、私達を見て、リアム様ならって」
「そんな風に信用するものなのか?」
「私達も嘘はつけませんから、今までの事を話したら、あの子たちも分かってくれました」
「なるほど」
ピクシーと元ピクシーたち、お互い通じるものがあるんだろうな。
俺は、庇護を求めてきたピクシー約百体の全員に、ファミリアで契約しつつ名前をつけてあげて、ピクシーからエルフに進化させた。
村の住民が、さらに百人一気に増えた。
☆
新しいエルフ達から話を聞いて、俺は逃げてきた――襲った連中がいる方角に向かっていった。
ガーディアン・ラードーンを探しに行く途中で、通ったことのある開けた平野で、それらと出くわした。
馬にまたがって、武装した集団だ。
身につけている武器は綺麗に揃っていて、野盗とかじゃなくて、どこかの国の正規兵だと一目で分かる格好だ。
数はおよそ百ってところか。
向こうも俺に気づいて、先頭の男が手を振り上げると、全員が一斉に手綱を引いて、綺麗に馬を止めた。
練度もかなりのものだ、やっぱりどこかの正規兵なんだろう。
「そこの子供、お前はここの住民か?」
先頭の男が聞いてきた。
「ああ、ここは俺の――国だ」
一瞬なんと答えるべきかを悩んだが、スカーレットが俺に言ったことを思い出して、「国」って答えた。
「国だと? ……その国の名前は」
「それは……」
まだ全然決まってないから、答えようがなかった。
俺が言いよどんだ瞬間、真剣な顔のリーダーの男がぷっ、と笑いだした。
「ふん、子供の戯れ言か」
俺は少しむっとした。
「とにかく、ここは俺の土地だ。お前らが何者なのかは知らないけど、さっさと出て行ってもらいたい」
「隊長、行きましょう」
「そうです、俺達はいきなり現われたこの土地を偵察するために来たんです」
「こんな子供に関わって、ジャミールやキスタドールの連中に後れをとったら大変です」
男に近い部下が次々にそう言った。
男は頷き、手綱を振るって、馬を進ませ出した。
「パワーミサイル・17連」
腕を突き出し、無詠唱の上限である17連のパワーミサイルを放った。
パワーミサイルは先頭の16人を馬の上から吹っ飛ばした。
リーダーの男だけ、とっさに馬を屈ませてパワーミサイルを避けた。
吹っ飛ばされた男達は、鎧がひしゃげて、地面に転がって悶絶している。
「お、お前!?」
「これは警告だ」
俺は拳をさらに突き出した。
「ここは俺の国、俺の土地だ。無理矢理に侵入するなら、武力をもって排除する」
「ぐっ」
「「「うおおおお!!」」」
リーダーの男は明らかにためらったが、その部下たちは違った。
恐怖と、怒り。
それが半々な感じで、怒号をあげて馬を俺に向かって突進してきた。
「分からん奴らめ」
イメージをした。
魔法を開発する途中で、身につけた「イメージ」の能力。
より、圧倒して戦意を刈り取るイメージ。
俺はテレポートを使った。
突進してくる騎兵の背後――馬のケツに乗っかるように飛んで、背後からゼロ距離のパワーミサイル。
「ぐはっ!」
騎兵にとって、もっとも無防備の背中から飛んでくる一撃を喰らって、そのまま吹っ飛ぶ。
更に別の騎兵の背中に飛んで、同じようにパワーミサイル。
次々と飛んで、パワーミサイルで吹っ飛ばす。
突撃してきたのは14騎、あっという間に十四人全部吹っ飛ばした。
ここまでやったんなら――と、残った騎兵達もなぎ倒した。
途中から目の前で俺が消えると、騎兵達は後ろにむかって先読みの反撃をしようとするが、それをやってくる事も俺のイメージで予想していたから、真ん前に飛んだり、真上に飛んだりと、いろいろフェイントを織り交ぜてみた。
そして最後に――
「くっ!」
「もう二度と来るな、いいな」
リーダーの男も吹っ飛ばして、百人はいる騎兵を、あっという間に無力化したのだった。