49.魔法開発
人狼に進化したクリス達が加わって、村作りは一気に加速した。
エルフ達は手先は器用だが、根本的なところで非力な種族だ。
契約召喚で呼び出したゴラクの幻影がいても、力仕事が必要なシーンはどうしても効率が落ちる。
それに対して、人狼達はパワフルだ。
力持ちだし、身軽さもエルフを遙かに上回る。
村作り――家造りでエルフ達に足りなかったものを一気に補って、村作りは良い感じに進んでいった。
俺の出番がなくて、村中をぶらぶらしながら、形だけの見回りをしていた。
「あっ、ご主人様!」
見回りの途中で、クリスと出くわした。
人狼達でもとりわけ人間寄りの姿をしている、ケモミミの美少女が手元の仕事を放りだして、こっちに駆け寄ってきた。
ダッシュしてからの――飛びつき。
クリスは俺に飛びつき、抱きついてきた。
「ご主人様ー♪」
俺に抱きついたまま、頬をスリスリしてくる。
いやらしさは感じない、動物的な本能が強く出た愛情表現だ。
まるで、図体だけが大きい子犬にじゃれつかれているような、そんな気分になる。
「ちゃんと仕事してたか」
「うん! 今あれを直してた」
「あれ? ああ、壊しちゃったヤツか」
クリスが直してるっていったのは、彼女達が襲ってきた時に壊した家の基礎だ。
木造の基礎をバッキバキにやって、一部燃やしちゃったもんだから、まずは完全撤去しないと新しく建て直せない。
俺が納得するとともに、クリスは俺から離れて、シュンとなった。
ケモミミが垂れ下がり、しっぽもわかりやすくしぼんでいる。
「ごめんなさい……頑張って直しますから、許して」
「いいさ、あれはあれでしょうがない。ちゃんと直して、新しい家を建てる手伝いをすればそれでいい」
「うん! がんばって直す!」
一瞬で元気を取り戻したクリス。
そういう引きずらない性格。本気で反省しつつも引きずらない性格を実際にみて、俺は「いい子だ」っていう感想を持った。
同時に、撤去中の瓦礫を眺める。
「どうしたのご主人様?」
「ん? ああいや、あれも魔法で直せればいいな、って何となくおもってさ」
「直す?」
「治癒魔法みたいにさ」
正直、もったいないと思ったりもした。
特に撤去されてるのは、非力なエルフ達が頑張って造ったものだというのもある。
非力な彼女達が頑張って造ったものの方が、なんとなく価値が高いな、と思ってしまう。まあ実際はそんな事はないんだけど。
そういう魔法を覚えてないからなあ、しょうがない。
『ないのなら、作ればいい』
「作る? どういう事だラードーン」
聞き返す俺。
俺が体の中にいるラードーンと話しているって知って、クリスはしっぽを立て、目を輝かせる。
『言葉通りの意味だ。魔法を覚えていないのなら、作ればいい』
「魔法って作れるのか?」
『今ある魔法は何故あると思う?』
ラードーンはほんのちょっとだけ、呆れたような口調で逆に聞いてきた。
ああ……なるほど。
今ある魔法も、元を正せば誰かが作り出したもの、っていうことなのか。
でも、そうなると……。
「俺に、作れるのか?」
『我は床屋で武具の注文はせぬ』
ものすごくラードーンらしいまわりくどい言い回しだったが、言いたい事は分かった。
俺にも出来るかもしれない、ということか。
「どうすればいい」
『イメージをするのだ。普通に魔法を使うよりも強く。何をしたいのか、どうしたいのか。過程から結果まで、全てを強く鮮明にイメージするのだ』
ラードーンにしては饒舌で、詳細な説明になった。
俺はそれを心に留めて、咀嚼し――理解を試みる。
イメージする。
何をしたいのか、どうしたいのか。
過程から結果まで、全てを鮮明に頭の中でイメージする。
そして、魔力を高める。
頭の中で作った設計図通りに、魔力をまるで粘土だとイメージするように、形を作っていく。
「――っ!」
ハッとひらめいた。
その工程を、17個同時進行させる。
契約召喚したゴラクを一旦消して、全魔力・集中力をこれに注ぐ。
オリジナルの魔法を、17のラインで次々と使っていくように試す。
失敗が続いた。
思った通りに出来なくて、魔力だけが無駄に消耗される。
それでも続ける。
17回試して、全部失敗した後に、イメージと魔力の形と流れを微調整して、また17回試す。
それを繰り返す。
魔力が消費され続ける。レククロの結晶で回復しながら、17ラインでの開発を続ける。
やがて――
「シープメモリー」
頭の中に、そんな言葉が浮かび上がってきた。
これだ! という確信とともに、魔法が形になって発動した。
魔法の光が撤去途中の瓦礫を包み込み、それに吸い込まれていき、やがて落ちついた。
「ご主人様? 魔法が出来たのですか?」
ワクワクする顔で聞いてくるクリス。
俺ははっきりと頷いた。
「ああ、その瓦礫の――柱を適当に一本折ってみろ」
「はい! ――えいっ!」
クリスは瓦礫のところにいって、軽々と一番太い柱をへし折った。
折られた柱は光り出して、みるみるうちに元の――魔法をかけた時の形に復元した。
「こ、これは!?」
「シープメモリー。命のないものを、その時の形で記憶する魔法だ。形を無理矢理変えられたら元の形に戻る――そういう魔法だ」
「おおぉ――ご主人様が作ったんですよね、いま」
「ああ」
「すごいですご主人様。さすがご主人様!」
クリスは大興奮して、また俺に抱きつき、今度は顔をペロペロしてきた。
『ふふ……まさか一日で開発してしまうとは。つくづく面白い人間だ』
ラードーンも、愉快そうに笑っていた。