46.約束の地の主
テレポートで封印の地に戻ってきた。
早速ゴラクを契約召喚する。
ゴラクの幻影が、エルフ達と街作りを始めた。
見た目はドワーフ、下手すればむさいおっさんだが、エルフ達の目の前で召喚したから、彼女達は素直にゴラクの指揮に従った。
それを遠巻きに眺めると、最初のエルフ達だけでやっていたときと違って、統率された、ちゃんとした動きになっている。
地面に杭を打ち込んだり、資材を伐採しにいったりと。
素人目からもちゃんとしているのが分かって、俺は安心した。
あっちはもう完全に任せることにして、一緒にテレポートで連れてきたスカーレット王女に振り向いた。
王女は落ち着かない様子でまわりを見回している。
屋敷にいた時はいつものように尊大に振る舞っていたのだが、ここに来ると様子がおかしくなる。
「大丈夫ですか殿下」
「……」
スカーレット王女は俺をじっと見つめた。
何だろう、と思っていると、彼女はまるで告白する小娘のように、緊張しきった様子で口を開いた。
「竜……ラードーン様にお聞きしたい」
「え? あ、ああ」
あまりの意気込みに一瞬たじろいだが、それは俺にではなく、ラードーンに向けられたものだと分かって、落ち着いた。
「ここは、本当に約束の地なのだろうか」
『我は人間とは、なんの約束もしていない』
ラードーンの声はスカーレット王女には聞こえないから、俺が代わりに伝えてやった。
それをきいたスカーレット王女は見るからに落胆した。
「そう……なのですか」
「気落ちする必要はないと思いますよ」
「なに?」
「ラードーンとしばらく付き合ってみて、その言いまわしが大分分かってきたんだ。ラードーンは約束してないって言っただけで、ここがそうじゃない、とは言ってない」
「え? ……あっ」
スカーレット王女はハッとした。
「そう、人間が一方的に約束の地にしたのがここかもしれない。今までも、ラードーンがらみで、呼び名とか言い回しとか、ことごとく違ってたから」
「なるほど……」
落胆から一変、目に光が戻るスカーレット王女。
『ふっ……』
一方で、この一連の流れを――俺がスカーレット王女に指摘するところまで含めて、ラードーンがそれを楽しげに眺めている感じが伝わってきた。
それはとりあえずスルーして、スカーレット王女に聞く。
「ここが本当に約束の地だったらどうするんですか?」
「……言い伝えでは」
少し迷ってから、意を決して語り出すスカーレット王女。
「終わりの日に、人類を滅亡から救い、新たな楽園へいざなう――それが約束の地だ」
「終わりの日? 滅亡から? 物騒な話だ……」
「具体的な話は伝えられていない。この程度の内容だ、毒にも薬にもならない伝承程度だと思われている」
「そりゃ……そうですね」
こんな話信じようがない。
「だが……竜は実在した、この土地もこのような形で現われた。伝承は……本当かもしれない」
「そうなのかラードーン」
『ふっ……』
ラードーンは答えない。
否定も、しない。
「殿下、その伝承にまつわる何かが他にありませんか」
「……ある」
一呼吸の間をおいて、深く頷くスカーレット王女。
そして彼女は、懐から一つの指輪を取り出した。
「これは?」
「宿命の鍵……と、呼ばれている」
「明らかに関係のあるネーミングだ」
今までの流れから、間違いなくそうだと確信する俺。
「どう関係しているのか……分からない」
「見せてもらって良いですか?」
「ああ」
俺は指輪を受け取った。
じっと見つめる、感触を確かめる。
直後、俺の手が光った!
「な、なんだ!?」
「これは……紋章が反応、いや共鳴している?」
手の甲にある、ドラゴンの紋章が輝く。
同時に、指輪もまばゆい光を放ち出す。
ごごごごごご……
地鳴りがして、大地が揺れた。
「地震か?」
「いや、あれを見ろ!」
俺は遠くを指さした。
広がっていく草原は、途中を境目にして、境目の向こう側が沈んでいく。
俺は慌ててそこに走った。スカーレット王女もついてきた。
境目から向こうをのぞき込むと――
「土地が……浮かび上がっている?」
「あれは……ガラールの谷」
「え?」
「谷にはまっていた土地が浮かび上がった?」
「……」
何を馬鹿な事を――って言いかけたけど、目の前の状況はスカーレット王女が表現した通りの状況になっている。
谷があって、そこにこの「封印の地」がすっぽりはまっていたが、それが空に浮かび上がった。
後ろをみる、周りをみる。
巨大な島が浮かび上がった。
真上に二十メートルほど浮かび上がった後、今度はゆっくりと、真下に落ちていく。
そして、地鳴りの轟音とともに、元々の穴にまたすっぽりと収まった。
「やっぱり、約束の地なんだ」
「……そう、みたいだな」
この土地は、かなりすごい土地のようだ。
俺は指輪をみた。
これは……魔導書のようなものだった。
いや、マジックペディアの方が近いか。
俺は魔力を込めて、再び土地を飛ばそうとしたが。
「あ」
「どうした」
「魔力が足りない。俺なら飛ばせるが、今のままだと、俺の魔力で飛ぶには一年はかかる」
魔力の流れが分かるようになった俺は、それをはっきりと感じた。
この島を飛ばすのも魔法で、今飛んだのはラードーンが残していった力で、俺の力だと一年かかる。
しかもこれ……ラードーンの力がないと飛ばない。
俺の中にラードーンがいるから、一年はかかるが飛べる。
普通の人間の魔力だといくらやっても無理だと、今の一瞬ではっきりと分かった。
そんな、俺がまとめた言葉を聞いたスカーレット王女は――。
「なっ!」
なんと、俺に向かって跪いて、頭を下げた。
「ど、どうしたんですか殿下」
「約束の地の主よ」
「え? あ……」
そういうことに……なるのか?
スカーレット王女はここを約束の地だと思っている。
そしてここの封印を解いたのも、飛ばしたのも俺。
封印の地の主――そう呼ばれてもおかしくない状況だ。
「ここに、新たな国をお作り下さい」
「え?」
「楽園となる国を……どうか」
跪いたまま、顔を上げるスカーレット王女。
俺を見つめる目は本気だった。
「あ、うん」
頼まれると断れない性格が災いして、俺は思わず頷いてしまった。
「約束の地の主に……忠誠をちかいます」
スカーレット王女は再び頭を下げて、敬語を話すようになった。
遠くでパニクってるエルフ達を見る。
予定より話が大きくなったが、俺はここで、国作りを始めることになったのだった。