439.離反
「暴動」はあっという間に終わった。
庁舎に侵入した住民とそれを排除する兵士が真っ向からぶつかり合ったが、住民たちの戦意は高く逆に兵士らはほとんどやる気が無かった。
どれくらいやる気が無いかというと、一部の兵士はため息をつくだけで素通りさせたり、あるいは進んで味方になったり道案内したりするものもいたほどだ。
『おどろきだ、こんなことになるなんて』
「この兵も街の民ということですわ」
『なるほど。でも、自分達の街が外敵の侵略にさらされてるんなら、なにくそーって感じで一致団結してもいいと思うんだけど』
「わたくしの認識では、民は統治者が誰であろうと構わないと思っていますわ」
『そうなのか』
「ええ。誰であろうと、領主は自分の生活や日常にさほど関係はなく、皆がきにするのは日常と食事――限界まで要約すればその二つ。その二つをちゃんとしてくれる者なら誰であってもいいし、ダメにしたら誰であろうとゆるせないと思いますわ」
『なるほど』
それもちょっと納得した。
確かに上の領主が誰であろうと、腹一杯メシを食わせてくれるだけでいい領主だ――というのは俺にも分かる。
「そういう意味でも、あなたの国は異数ですわね」
『いすう?』
「国民全員が国に強い帰属意識をもっている、この国の民であり強い忠誠を誓っている。民全体がこうなっているのは他ではほとんど見ない現象ですわね」
『それは……みんな【ファミリア】で使い魔だから?』
「でもあなたは命令を下し強制力を行使したことはないのでしょう?」
『まあ、確かに』
それはシーラの言うとおりだ。
魔法【ファミリア】の本来の効果の一つに、契約した主となる人間に絶対に逆らえないというのがある。
それはつまり何でもさせられるということだ。
その気になれば「死ね」と命じる事さえも出来るほどの魔法だ。
当然、俺はそんな事をしたことはない。
そもそも「命令」も記憶に確かないぞ――というレベルでしていない。
そんな状態から皆は自分の意志で国に強い帰属意思をもっている、そしてそれは普通じゃないとシーラはいう。
「やはり異数ですわ」
シーラはふふっ、と笑った。
映像の中では更に事態が進む。
住民の先頭を追いかけていくと、彼らは瞬く間に執政室のようなところになだれ込み、身なりのいい男を襲撃し、あっと言う間に倒して捕縛した。
「これで終いですわね」
『これからどうするんだ?』
「民たちは彼の者の身柄をさしだし、わたくしと交渉を試みるでしょう。差し出されるのはこのままか首かなのは――まあ、リーダーシップを取れる人間次第でしょうか」
『交渉ってことは、それも拒否するのか?』
今までのシーラがやってきた事を思い出して聞いた。
「いいえ。民から、であれば受け入れますわ」
『………………そうすると、他の街も住民が立ち上がれば助かる、ってなるわけか』
「ええ、その通り。さすがですわ」
『なるほど』
さすがにこれは分かった。
シーラがここ最近やっている事はすべて、他のところにも影響が出るようになるものだ。
それを一から考える事は俺には無理だけど、やったことに対して、そうなるって答えを制限された上でならなんとか分かる。
『すごいな……』
俺は本気で感心し、いった。
『魔法のような手際だ』
「……」
シーラは虚を突かれたかのように、一瞬だけ目を見開かせた。
そして、何故かちょっとだけで照れたように、それでいて心底嬉しそうに微笑んだ。
「あなたにそういって頂けるなんて、最高の賛辞ですわ」
「魔法」という言葉を使ったからか。
映像の中では、領主を縛り上げた住民たちがそいつを連れて、庁舎から出て一直線に南にむかった。
途中で他の住民も合流した。
中には縛り上げられた領主をみて一瞬ぎょっとした人間もいたが、それらの者もすぐに状況を理解し、納得し、隊列に加わることになった。
その都度領主は助けろといった言葉をわめき散らすが、全く聞き入れてもらえず、逆に住民に「だまれ」と殴られたり、最後の方は猿ぐつわを噛まされたりした。
住民たちが進む、人数が膨らんでいきながら。
やがてクレーターが見えてくるほどの、南の入り口に近づく。
今は戦闘が行われていないが、数人の【ダーククロニクル】で作り出された子供シーラが入り口に立ち塞がっている。
その周りは多くの敵兵がたおれているが、【ダーククロニクル】の子供シーラはそれを一瞥だにしていない。
明らかに異常な光景だ。
その光景を前に、ここまである意味意気揚々とやってきた住民たちは二の足をふんだ。
領主を連れて来た、シーラにさしだして交渉をする。
そのためにはシーラのところに辿りつく必要があるのだが、その手前で子供シーラが立ち塞がっている。
子供シーラ――【ダーククロニクル】で作られたそれの戦闘力は、周りで倒れている兵士の数が強く物語っている。
そして容赦なく近づいてきたものをただ倒してきたのも、見てきた者はそれを分かっている。
だから全員が二の足をふんだ。
視線を交換し、ほとんどの住民の瞳からは「どうする?」「お前いけよ」的な色が窺える。
やがて、一人の男が勇気をだして、縛り上げた領主をつれ、手をあげ降参のポーズをしながら子供シーラに近づく。
『攻撃は?』
「しませんわ」
『そうか』
頷く俺。
その住民が近づくと、シーラの命令で子供シーラが左右に道をあけた。
その瞬間、住民たちから安堵の声と歓声があがった。
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