429.リアル模擬戦
「さて……これの戦闘力のほどをはかってみたいですわ」
『戦闘力?』
「ええ、実戦に出す前に」
『わざわざやるのか?』
「あなたのおかげですわ」
シーラは婉然と微笑む。
俺は「???」と、人型だったら盛大に首をかしげていたであろうくらいにふしぎがった。
『俺のせい、じゃなくて?』
「いいえ、あなたのおかげ、ですわ」
『どういうことなんだ?』
「あなたのおかげで、敵対者、さらには傍観者のわたくしへの恐怖が日増しにあがってきていますわ」
『ああ』
それはそう、とおもった。話がわかる。
今までそれを狙ってきてて、そのためにいろいろやってきたから、分かる。
言葉としても、こっちの「おかげ」は普通に分かる。
シーラは更に続けた。
「そんな状況で下手なものを出そうものなら安堵につながり、恐怖が薄れてしまいますわ」
『そうなるかな』
「ええ――なーんだ、魔王のしもべとかいってるけどしょぼいときもあるじゃん――などといわれかねませんわ」
『なるほど……シーラ』
「はい?」
『演技、意外とうまいんだな』
「……からかわないでくださいな」
シーラは一瞬虚を突かれた顔をしてから、微かに頬を染めてそっぽ向いてしまった。
そっぽ向いてしまったけど、その反応もどうなんだろう、と気づいたのか、すぐに咳払いをして「気を取り直して」って感じの顔をした。
「ともかく、あなたのおかげでそうなりましたの。ですから、実戦に出す前に戦闘力のほどを計りたいですわ」
『魔法はオーダー通りに作れたから大丈夫だと思うけど』
「使うのはわたくしですわ」
『じゃあますます大丈夫なんじゃないのか?』
「……それはずるいですわ」
『え?』
「なんでもありませんわ」
シーラはまた頬を染めて、そして咳払いで気を取り直して――をワンセットやった。
今の何がずるいで、なんでまたそんな反応をしたのかよく分からなかった。
が、話はわかった。
『試しに戦わせたいってことか』
「ええ、それも極めて実戦に近い形で。何かいい方法はありませんの?」
『そうだな……あっ』
「あら、ありますの?」
『ああ、ちょっと待ってくれ』
☆
一時間後、練兵場の中。
慎重を期すというシーラの望みで、兵士たちが全くいない、シーラと俺だけになった。
『はじめるぞ』
「ええ、どうぞ」
『よし――アメリアエミリアクラウディア、【契約召喚】97連!』
詠唱込みで魔力を高めて、一気に97の【契約召喚】を放った。
俺達の前に、97人の若い男が現れた。
いずれも兵士の格好、簡易的な鎧を纏い長槍を持っている兵士たちだ。
「これはなんですの?」
『兵士たちを【契約召喚】で呼び出した。あらゆる意味で普通の兵士が100人くらいの小隊ってことだ』
「なるほど、これを相手に、ということですのね」
『ああ』
「分かりましたわ――」
シーラは魔剣リアムを地面に突き立て、柄に手を当てる。
目を閉じ、バラの魔法陣を展開し、魔力光を放ちながら魔法を唱える。
すっかり見慣れた姿で、魔法を唱えている。
まだ完全に習得していないから時間のかかる魔法を詠唱する。
「【ダーククロニクル】」
しばらくして、凜とした声とともに自分の指の腹を裂いて、鮮血を媒体に子供シーラを召喚した。
「これで――あれは【契約召喚】でしたわね」
『ああ』
「ではあなた達、方法は問いません、この子に攻撃し、倒しなさい」
「「「はっ!!!」」」
兵士たちは声を揃えて、シーラの命令に応じた。
【契約召喚】は本人の幻影を召喚する魔法、そして今呼び出したのはシーラの兵士たちだ。
だから兵士たちは本人の意思でシーラの命令に従う。
一方で、シーラは【ダーククロニクル】で呼び出した子供シーラに向かって、
「……そうですわね、進みながら敵対するものに反撃を」
魔力光がきらめき、シーラと子供シーラの体がぼわっとひかった。
子供シーラは「一言の命令」に従い、前方に向かって歩き出した。
同時に、100人近い【契約召喚】兵の小隊が喚声をあげて子供シーラに襲いかかった。
戦闘がはじまる。
子供シーラは【契約召喚】兵の攻撃を受け流し、反撃をする。
「動きがシンプル……いえ、単調でぎこちないですわね」
『簡単な命令だからな』
「まるで低級ゴーレムのようなうごきですわね」
『だめなのか』
「……いいえ」
少しみてから、シーラは軽く首を振った。
その間、子供シーラが俺達のいう「ぎこちない動き」で3人の【契約召喚】兵を斬り倒した。
倒された【契約召喚】兵はそのまま煙のようにきえていった。
「動きは確かにぎこちないですが、戦闘力は充分」
『ああ、時間はかかるけど、100人くらいの一般兵じゃ止められないだろう』
「充分に強くて、動きはぎこちなく単調で、これなら『な、何故倒れない!?』と言われるのが――ごほん」
途中で何かを思い出したようなシーラ、素早く咳払いしてその何かをごまかした。
「ともかく、充分ということです。さすがですわ」
『それならよかった』
俺はそういい、シーラとともに、子供シーラが【契約召喚】兵を殲滅していくのを最後までみまもった。