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427.ダーククロニクル

 昼下がり。

 屋敷の庭で、シーラが魔法の練習をしている。


 さっきまでのドレス姿とちがって、戦場に出るときの騎士の姿に着替えている。


 その姿で、地面に突き立てた魔剣リアムの柄に左手を置いて、右手の手の平を前方に突き出している。

 目は閉じていて、口はブツブツ何かつぶやいている。


 少し変わっているが、魔導書をもった魔法の練習と全く同じことをしている。

 盟約リアム(おれ)が憑依している魔剣リアムはハイ・ミスリル銀をつかって、古代の記憶として作られている。


 古代の記憶っていうのは師匠からもらった指輪と同じで、本の形じゃないけど複数の魔法を魔導書として機能するようにした魔法アイテムだ。


 魔剣リアムとして、盟約リアムとしてついてくる時に、新しく作った魔法をシーラに使える様にするためにこうした。


 魔法というのは、よほどの事が無い限り、だれでも魔導書を持てば使えるものだ。

 これは後からしったけど、最初に魔導書をもったまま一時間とか三時間とかかけて使えるっていうのは、それ自体が魔法の才能がある人間の話だ。


 魔法の才能が無い人間であっても、魔導書もしくは古代の記憶を十時間以上もったままうーんうーん唸っていれば【ファイヤボール】位は使えるもんだ。

 当然そんな事に意味はないんだが。


 なぜなら、魔導書を手放して、完全に使えるようにするにはやっぱり魔法の才能が必要だ。


 シーラの魔法の才能がどれくらいなのか分からないタイミングだったから、どんな形でも対応できるように、完全に習得出来なくてもとりあえず使えるようにするために。

 彼女に持たせる魔剣リアムを古代の記憶としてつくった。


 今も、新しくつくった魔法をシーラが練習している。


 しばらくすると、シーラの目がカッと見開いた。

 それとほぼ同時に、彼女の足元から魔法陣が広がる。


 既にもう、そうなったきっかけの魔剣はあまり使っていないが、彼女のトレードマークのようになった薔薇モチーフの魔法陣がひろがった。


「【ダーククロニクル】」


 魔法名を唱えるシーラ。

 直後、魔剣リアムを地面から引き抜き、自分の人差し指の腹を切った。

 赤い血が一雫、ぽたりと滴りおちるが、薔薇の魔法陣の上でとまった。


 魔法の光が血を包み込んでいく。

 どんどんどんどん、包んで膨らんでいく。


 最初は玉状のまま大きくなっていったが、途中から形が変化していき、やがて人っぽいかたちになった。

 大まかに人っぽい形になってから、髪や指先つま先などの細かい造形が出来ていき、最後にワンピースドレスのような服装を纏う姿に変わっていく。


 子供の、肖像画のシーラと全く変わらない子供のシーラの姿になった。


 一滴の血からここまで変化するまで、実に十秒とかからない短い時間だった。


 魔法で作り出された子供シーラは、自らの両足で地面に立って、光の入っていない瞳でぼんやりと前方を――俺とシーラの方を見ている。


「出来ましたわ」

『ああ、完璧だとおもう』

「そうなんですの? あまり……なんと言いますか……」


 シーラはそういい、わずかに身をかがめて、作られた子供シーラの顔をのぞきこむ。


「ただの人形のようですわ」

『完全にマスターしていない状態だからな』

「あら、そういうタイプですの」

『……』


 俺は無言で、しかし頷いた、という感情をシーラに飛ばした。

 本物の俺の中にいるラードーンがよくやっているやつだ。


『魔法の中には、魔導書をもったまま使う場合と、完璧に覚えて魔導書が要らなくなった場合とで性能が違うものがたまにある、俺がよく使う魔法だと【アナザーワールド】と【アイテムボックス】がそういうタイプだったな』

「あえてそうしたんですの?」

『なんとなく思い出したからやってみたんだ。どうやらあれも、魔法を作った人がそういう風にしたらしい。なんでかはわからんが』

「え?」

『え?』


 シーラが驚き、俺はそんなシーラに驚いた。


『なんだ、今のえ? は』

「わかりませんの? 魔法の事ですのに」

『……うーん』


 そう言われて、考えて見た。

 【アイテムボックス】や【アナザーワールド】を覚えた時の事を思い出してみた――が。

 それでも今ひとつ分からなかった。


『ちょっと分からない』

「まあそうでしょうね、あなたならそうですわね」

『どういうことだ?』

「あなた、魔法がいくら難しくても、魔導書を手に入れた後習熟をやめることはありませんわよね」

『ああ、ない』


 はっきりとそう、言い放つように答えた。

 そんな事はあり得ない、といわんばかりの口調だ。


 実際そうだ。


『せっかくの魔法なんだから、覚えるまでやるのあたりまえだろ?』

「途中むずかしくても、進展がまるでなくても、ですわね?」

『ああ』

「そういう、一つ事(、、、)にひたむきな天才には分からないのかもしれませんが、普通の人間はそこそこのタイミングで成果が見られなければつづかないものですわ」

『そうなのか?』

「ええ、そうですわ」


 シーラはふっと笑う。


「習熟度によって性能が変わるのは、学ぶ者が途中で離脱するのを防ぐためでしょうね」

『へえ……』


 そういうこともあるのか、と、ちょっとだけ面白いと思った。


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