426.共同作業
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シーラの屋敷のリビングで、くつろぐシーラと待つ事小一時間。
コンコン、と、ノックの音がした。
「入りなさい」
シーラが応じると、ドアが静かにあいて、数人のメイドが布をかけたでっかい板のようなものをもってはいってきた。
シーラがくつろいでいるソファーの正面には、何も置いていないだだっ広い空間がある。
厳密には壁には絵画やら武器やら剥製やらが飾られているが、床はかなり広い面積なにもないまま空けている。農具小屋一つくらいなら丸々入ってしまうくらいの空間だ。
貴族の五男リアムに転生してしばらく経つし、その間こういう造りのの空間をかなりの数見てきたけど、未だに何故なのかいまいち理解できていない。
そんな空いたスペースに、メイド達全員が慎重な手つきで板のようなものを運んでくる。
その丁寧さたるや、まるでシーラ本人を扱うほどのものだ。
さすがの俺でもこの流れの中わかった。
『あれが肖像画か』
「そうですわ――そこにおきなさい」
「かしこまりました」
メイドの一人が代表するように応じて、全員が板もとい肖像画をその場においた。
といっても床にそのまま置くわけではなく、すぐ後ろについてきてた別のメイド達がその場で即席に台座のようなものをつくって、肖像画はその上に置かれた。
布は取らなかった。
シーラが立ち上がって近づき、自ら布をとった。
現れたのは、やはりシーラの肖像画だった。
それだけで一財産になりそうな高価な額縁にしっかりいれられている肖像画は、幼いシーラを描いたものだった。
愛くるしく、今のシーラとは雰囲気が違うが、確かに面影があった。
『かわいいな』
「お上手ですわ」
『こんなに可愛かったら親戚中に可愛がられたんじゃないのか』
「あら、まるで庶民のような事を仰いますのね」
『あー……』
なるほど、とおもった。
改めて肖像画――幼いシーラをみた。
今よりも遙かに天真爛漫な、幼くてかわいい娘のすがた。
年齢は5~6歳ってところだろうか。よちよち歩きを卒業してトタトタと走り出す、それくらいの年齢に見える。
俺の感覚だと、この年齢でこれくらい可愛い女の子なら両親はもちろんのこと、親戚の集まりとかでめちゃくちゃちやほやされるはずだ。
が、シーラはそれを「庶民のような事」だといった。
貴族はそうじゃないんだろうか……そうじゃないんだろうな、と思った。
「さて、どうですの? これでイメージがつきまして?」
『うん、見た目は。性格というか、口調とかは今と同じ感じか?』
「そうですわね……」
シーラは腕組みしながら器用に片手を頬にあてて、思案顔をした。
昔の自分はどうだったのか、を考えている顔だ。
「自分では今と大して変わらない、というイメージなのですけれど」
『そうなのか?』
「ええ。とは言っても、自分のことですから、当てにならないかもしれませんわね」
なるほどそうかもしれない、と思った。
俺も親戚から若い頃の自分の話を聞いて、「そんなにクソガキだったっけ?」って思った記憶がある。
『じゃあ……子供の頃から相手を知るには拳を交えるべきだ、とか思ってたのか?』
俺はシーラとの出会いを思い出した。
キスタドールの王女だった彼女は、ドラグーン、という騎兵部隊を率いてやってきた。
出遭うなり、「わかり合うためには拳を交えるのが一番手っ取り早い」といってきたかなり強烈な女だった。
その事を思いだしながら、彼女に聞いた。
「そうですわね……そちらはもう分かっていましたわ」
『そちら?』
「男女であれば即情交が手っ取り早いと知ったのはこの肖像画から十年近くたってからのころでしたわね」
『ああ、そんな事もいってたな』
よく分からないけど。
情交という言葉は、それまで一回も聞いた事がなくてラードーンに意味を教えてもらった。
要は子作りのことだという。
なんで子作りがわかり合えるのに一番役に立つのか分からないが――が。
魔法以外の事では俺の分からない事がおおい。
むしろ分からない事だらけだ。
そしてシーラとの付き合いで、よく分かった。
魔法以外の事では、シーラは俺より遙かに賢い。
そのシーラが「そう」だっていうんならそれはそうなんだろう。
まあ、それはともかく。
『あまり変わらない、ってことか』
「ええ。おそらくは。積極性に関しては今以上かもしれませんわね」
『そうなのか?』
「子供の無鉄砲さということですわ」
『ああ』
それは俺でもわかる。
『そういうことなら……』
俺はすこし考えて、魔法の詳細を考案した。
契約召喚、盟約召喚、そのた諸々の召喚魔法と、召喚ではない魔法も。
いろんな魔法から似ているところ使えそうなところはないかとかんがえた。
十分ほど考え込んだ。
その間、シーラはもちろんの事、メイド達も何もいわずに見守った。
『…………うん』
「目処がつきまして?」
『ああ、大体は。たぶん召喚そのものは問題ない』
「さすが魔王様」
シーラはクスっと微笑みながらそういった。
メイド達が一瞬だけビクッとした。
『シーラは』
「はい?」
『なにか注文はあるか?』
「注文……ですの?」
『魔法の効果じゃなくて、なんていうんだろ……ああ、演出、かな。演出面はシーラの方がどうすればいいのかよく分かるだろ』
「なるほど……」
シーラは考えた――一瞬で口を開く。
「わたくしが魔剣にはたらきかけて、という形が望ましいですわね」
『なるほど』
すごいなと思った。
俺はかなり考えたのに、シーラは一瞬で答えを出した。
やっぱり魔法以外の事は俺よりも断然すごいと思った。
その事を魔法に組み込んで、最終構築の仕上げにかかった。