425.シーラジュニア
「どうかしまして?」
『実は――』
俺は思いついた事をシーラに話した。
ラードーンと初めて会ったとき、ラードーンジュニアをみたとき。
ラードーンだけじゃなくて、ラードーンジュニアにも恐怖を感じていたことを。
それを詳しく話した。
「その事は少しだけ耳にしていましたのですけれど。実際はそのような事になっていたんですのね」
シーラは興味津々、って感じで俺の話をきいた。
一通り話し終えると、シーラはふむって感じで頷いてから。
「それがどうかしたんですの?」
『それをやるかって話』
「それって、今の話のどれですの?」
『恐怖を、ラードーンジュニアに』
「ジュニアに」
『最近シーラが「恐怖を」って感じでやってるから、それをもっとやるにはどうしたらっていつも考えてた』
「あら、わたくしのためにそこまで考えててくれてたんですの?」
『魔法で出来る事はもっとないかっておもってな』
「あなたらしいですわね」
『はは』
ちょっとだけ呆れられたかな、とかおもった。
あなたらしい――俺らしい。
魔法の事ばかり考えているのは楽しいけど、世間的に俺みたいなのは○○バカ、魔法バカだって呆れられても仕方ないのは分かる。
リアムになる前でも、三軒隣にすんでる男がいつも丸い石を集めてるいわば石バカだった。
仕事が終わって暇な時間があれば川縁にいって丸石を探してあつめて拾ってくる。
そして酒が入るとこの石のこの形はこうこうこうだから綺麗――とか力説したりする。
そんな「石バカ」をまわりの人達は俺も含めてみんな生温かくみまもっていた。
そんなの○○バカに、俺も気づいたらなっていたから、多少呆れられててもしょうがないなと思った。
『恐怖はいろんな形があるんだけど、その一つに『部下でもあんなにつよいのに』ってのがあると思う』
「王道ですわね。下位存在に覚えた恐怖や絶望は、上位存在を知った瞬間にそのまま大きくなりますわ――そうですわね、ラードーンジュニアがまさにそうですわね」
『ああ』
さすがシーラ、話が早いと思った。
「ですからやっぱり、リアムジュニアを作るべきですわね」
『いや、違うと思う』
「ちがうとは?」
シーラはちょこん、と小首を傾げた。
もとから気品をもち、最近は威厳さえも出てきたシーラだが、それと同時に美しい女でもある。
こんなちょっとした仕草がかなり魅力的だった
『そもそもシーラがというか、「シーラ」に恐怖を覚えさせたいんだろ?』
俺は「シーラ」という所を強調して、いった。
「そうですわね」
『だからリアムジュニアじゃなくて、シーラジュニアがいいと思う』
「シーラジュニア……なるほど、言われてみればそうですわね。わたくしとしたことがうかつでしたわね」
シーラはそういい、ふふっ、と楽しげに笑った。
「さすがですわね。ええ、その方がいいと思いますわ」
『とりあえずそれでやってみる――』
俺はそういい、目の前のシーラを見つめる。
最近は魔法を作るときは体験することを重要視しているが、それはそもそも「イメージを持ちやすくするため」だ。
だから俺はイメージした。
目の前にいるシーラを見つめて、シーラの子供の頃を想像して、イメージした。
イメージが脳裏にできあがると、魔力を練り上げて、イメージしている者を具現化する。
【契約召喚】や【盟約召喚】をベースに、ちょっとだけ違う形の召喚をした。
俺とシーラの間に一人の子供が現われた。
シーラの子供時代だと俺がイメージした格好だ。
『うーん、なんか違う気がする』
そうつぶやき、作り出した子供シーラとオリジナルシーラを見つめる。
子供シーラはオリジナルシーラによく似ている、オリジナルをそのまま小さくした感じだ。
たぶんこれをみた99%の人間がシーラを似せて作ったんだと分かる位そっくりだが、なんだか違和感があると感じてしまう。
「子供では無いからではなくて?」
『こどもじゃないから?』
「ええ、この子はみた感じ今の私をそのまま小さくしただけ。大人を小さくするのと、そのものの子供の頃の姿って違いますわ」
『ああ……なるほど』
シーラの言葉にとても納得した。
確かにそうだ。
もう一度「子供シーラ」をよく見る。
最初は子供だと思っていたのが、よく見たら「小さい大人」って感じの見た目だ。
『たしかに。何がちがうんだろうな、大人と子供って』
「言葉にするのは難しいですわね。わたくしもそれの専門ではありませんし」
『ふうむ……』
どうしようかな、とちょっと唸った。
このままでもいい、といえばいい。
シーラにそっくりなのは間違いないのだ。
この「小さいシーラ」でも、シーラに更なる恐怖を集めるというのはできる。
が。
ラードーンジュニアは完全にラードーンの仔って感じだ。
というかドラゴンくらいならわかりやすい。
大人と子供の違いがフォルムでめちゃくちゃわかりやすい。
そういうのが人間だとわかりにくい気がする。
いや、わかりやすいはずだ。
少なくともみて違和感があるように、実際にみたら分かりやすい。
ただ、それを逆算してイメージするのが難しいだけだ。
『どうしたもんかな』
「……いいものがありますわ」
『いいものって?』
「私の幼い頃に描いて貰った肖像画がありますわ」
『おお』
俺は嬉しくなった。
それがあればより「シーラジュニア」のイメージができると興奮した。