424.イメージ
夜、シーラの寝室。
真っ暗な部屋で、広いベッドですやすやと寝息を立てているシーラ。
そのシーラから少し離れた所で、俺は依り代の魔剣に入ったまま考えていた。
シーラの提案、リアムジュニア。
それはかなり面白い提案だ。
それを魔法で実現してみようと思う。
それをどういう形にしようかと色々考えた。
ラードーンとデュポーンの「ジュニア」を見せてもらったことがある。
あれは本人によく似た、ドラゴンの子供の見た目をしている。
が、だからといって全くの子供でも無い。
その証拠がデュポーンだ。
神竜達は、本気で好きな異性ができると、ドラゴンのままではなく、肉体的にその異性の種族に変化していって、「同族」として寄り添おうとするらしい。
ラードーンから聞いた話で、さらっと言われたがよくよく考えたらとんでもない話だ。
好きな相手ができたら肉体もその相手の種族になるように変化するなんて、普通で考えたらあり得ない話だ。
好きな相手のために軽く転生じみたことをするわけだから。
でもデュポーンは実際にそうしている。
そうしながらも、デュポーンジュニアという「ドラゴンの子供」は「作れる」。
ジュニアは、人間でいう「我が子」という訳でもない。
それがちょっとこまった。
ここ最近、俺は魔法を作るとき、自分がわかる形でイメージしてる。
分からない事は実際に体験をして、それでイメージできる様にする。
デュポーンが俺のために人間になりつつもジュニアを作れるのはみているし知識としてはわかるけど、感覚がいまいち分からない。
俺もリアムに転生したとはいえ、人間なのだ。
人間の「我が子」という概念からかけ離れたものはイメージし辛い。
それでも考えた。
まずは見た目だけそれっぽくすること。
ラードーン・デュポーンのジュニアは子供のドラゴンだ。
それでいくとリアムジュニアは短いナイフとか、短刀とかになるんだろうか。
つぎに、俺の本体。
この場合【盟約召喚】としての本体だ。
盟約召喚は本人と同じ姿で召喚する。
それのジュニアってことは、俺のちびってことか。
これはちょっとむずかしかった、なぜなら俺は「子供のリアム」を知らない。
普通、どんな人間でも記憶喪失ではない限り子供の自分の姿をみているものだ。
貴族は鏡で、庶民でも水面に逆さに映っているのをみている。
しかし俺は違う。
あのパーティーで急にリアムになったから、子供のリアムはそもそも一回も見る機会がない。
イメージが難しい。
全くの不可能じゃないけど、かなり難しいのは間違いない。
もうひとつは――シーラの子供。
俺とシーラの子供。
神竜のジュニアでも、魔剣のジュニアでも、本人の子供でも無い。
男女がつがって、子供を産むこと。
その場合も「見たことはない」という事には違いないが、夫婦で子供を産むというのはまわりの人間がやってきたことを山ほど見ている。
というか、普通に常識にある事だ。
だからこっちはイメージができる。
俺の子供でもなく、シーラの子供でもない。
俺とシーラの子供というのなら、それを作るイメージはできる。
人間の男女が子供を作ること、そのイメージ。
「血を分けた」存在という言葉通り、子供っていうのは父親から半分、母親からさらに半分の血を受けて、それで育んで生まれるものだ。
それを俺は魔法でやる。
つまり俺の魔力半分、シーラの魔力半分で、それをまぜ合って作る。
そして人間が普通に子供を作るっていうのは、どっちににるのか、どういう子供になるのかは生まれてくるまでは分からない。
でも、大抵は父親か母親のどっちかににるもんだ。
どっちにもちょっとにる、という場合もある。
いつもは「結果」がはっきりする様に魔法を作るが、今回は逆に「子供は思い通りに行かない」というイメージがある。
どっちかに似る、ちょっとしたくじ引き。
持っているイメージだと、今までとちがって結果が揺れ動く方がイメージしやすいと思った。
俺の魔力とシーラの魔力をまぜ合って作る。
それでイメージができた。
『……いや』
と思ったところで、根本的な所で違うって思った。
ラードーンジュニアと初めて対峙した時のことを思い出した。
そしてシーラが今やろうとしていること、ここ最近ずっとやっていることも思い出した。
二つには共通点がある。
恐怖。
ラードーンジュニアと初めて対峙した時は恐怖を覚えたし、シーラが最近やってる事もジャミールとキスタドールに恐怖を植え付けるもの。
それに対して、男女が番うイメージの「子供」は恐怖ではない。
経験がないおれでも分かる、そこにあるのは「愛情」だ。
だから違う、これではいけない。
やる前からはっきりと、これは違うって分かった。
ジュニア、そして恐怖。
俺は原点に立ち返った。
『……あ』
立ち戻った時、俺の頭の中にかなり「恐ろしい」光景がイメージできた。
恐怖。そのキーワードで、やるべきことがはっきりと見えてきた。