421.あきれ顔の理由
「……」
人型になった魔導戦鎧をしばらくの間じっと見つめてみた。
『ちょっと……心許ないか?』
「そうですの?」
『四人でくるってことは少数精鋭。少数精鋭の相手だと少し弱い感じがする』
「いわれてみればそうかも知れませんわね」
『もうちょっとパワーアップさせるか』
「すぐにできることですの?」
『ああ、パワーアップだけならそんなに難しい事じゃない。すぐにできる方法なら――依り代をくっつけるのが手っ取り早いかな』
「今のあなたみたいですの?」
今の俺――つまり魔剣リアムに入っている俺。
それが目の前に見えているシーラからすれば当然の連想だった。
『ちょっと違うけど、そこから発想がきてる』
「なるほど」
『依り代は……何を使うか。ちょっと急ぐから生き物をつかうか』
「生き物ですの?」
『ああ――あった』
魔剣リアムのボディから魔力の腕を伸ばす。
腕はまっすぐ上にのびていって、天井をすりぬけた。
すぐに天井裏から目当てのものを捕まえた感触がしたから、それを捕まえたまま腕を戻した。
「それは……蜘蛛、ですわよね」
『ああ』
シーラがのぞき込んだ魔力の腕の中に一匹の蜘蛛がいた。
シーラの屋敷はメイド達が維持していてホコリ一つついていない清潔な状態だったが、さすがに天井裏まではそうは行かなかった。
天井裏から捕まえてきた蜘蛛は、魔力の腕の中でじたばたしていた。
それをみて、シーラはちょこんと小首を傾げた。
「なぜ蜘蛛を?」
『罠を張って獲物を捕まえる、すぐに捕まえられる生き物の中で「守る」のイメージが一番強いからだ』
「たしかに、お手頃な中では一番ですわね」
『だろ』
俺は蜘蛛を捕まえたまま、魔力の腕をのばした。
蜘蛛ごと腕を魔導戦鎧の中、中央部分に差込む。
そして――魔法を唱える。
まずは蜘蛛に魔力を流し込んだ。
魔力を流し込んで、蜘蛛の性質を損なわないように丁寧にやって、蜘蛛の体を改造していく。
じたばたする蜘蛛だったが、魔力がはいっていくのに連れて徐々に大人しくなっていった。
更にしばらくすると、蜘蛛の改造が進み、魔導戦鎧の「コア」として定着した。
『……よし』
魔力の腕を引っ込めて、【マリオネット】をといた。
【マリオネット】をといても、魔導戦鎧は人の姿を維持し続けた。
「あらあら……」
『これで行けるはずだが、どうだろうな。ちゃんと撃退できるかな』
「え?」
『え?』
シーラの反応が予想外で、思わずぱっ、って勢いで彼女の方を向いた。
すると、キョトン顔から徐々にあきれ顔になっていくシーラの姿がみえた。
『どうしたんだ?』
「……いいえ、なんでもありませんわ」
『そうなのか?』
「ええ。ちゃんと撃退できるかどうかということですけれど……大丈夫ですわ」
『そうか、ならよかった。じゃあこいつを屋敷の中に配置しよう』
「ええ……」
☆
夜、シーラの寝室。
寝室の隅にある、ソファーセット。
月明かりしかない寝室の中で、シーラは寝間着姿になっていて、俺はその向かいでソファーに立てかけられている。
そして俺達の間には、半透明の映像が映し出されていた。
映像の中は四人、全員が男で、全員が量産品ではない一点物もしくはカスタムものの装備で身を固めている。
『やっぱり結構な力を持ったものたちみたいだな』
「ええ。見た所前衛が二人、バックアップが二人。四人で役割分担してどんな状況にも対応できる、そんな組み合わせですわね」
『なるほど――あっ、敷地内に入ってきたぞ』
「そのようですわね。しかもこれは……このままこっそり侵入するルートですわね」
『ってことは、シーラの読み通り配置した場所に突っ込んで来てくれるな』
「ですわね」
シーラと一緒に観察を続けた。
半透明の映像の四人は慎重に移動した。
映像では手足は動いてて、しかし姿はその場所のまま、代わりに背景が後ろに流れていくという普通では見られないような映像だった。
そんな四人が裏口から屋敷に侵入した、さらに進んだその時。
夜で真っ暗だった屋敷がぱっ! と一気に照明がついた。
四人は驚いたが、同時にすぐに動いてフォーメーションを組んだ。
『おお、さすがだな』
思わず声がでた。
びっくりしててもちゃんと対処の為に体が動く、ちゃんとした相手ということだ。
その四人の前に、ゆらり、という感じで魔導戦鎧が現われた。
蜘蛛のコアが入っているとはいえ、【マリオネット】で操っている時と同じ、鎧が人型をしてて、関節とかになる部分が何もない隙間になっていた。
四人はアイコンタクトをかわしてから、魔導戦鎧に襲いかかった。
シーラの見立て通り、前衛が二人、バックアップが二人のバランスの取れた組み合わせだった。
息が合ってる上に、個々の力もそれなりのもの。
そんな四人、俺は探知できていてよかったとおもった。
もしもできてなかったら屋敷内でそれなりの犠牲がでて、一気にシーラの所に迫られたのは間違いないと思った。
だけど、探知できた。
そして準備もできた。
蜘蛛をコアにした魔導戦鎧は強者たる四人を一蹴した。
ものの数分で、前衛の二人、そしてバックアップの一人が戦闘不能になって。
最後の一人も魔導戦鎧に迫られていた。
「ほらね」
『え? あ……』
シーラをみると、寝間着姿の彼女は、昼間の時と同じような、あきれ顔をしていた。
「大丈夫でしたでしょう?」
『ああまあ……さっきもそんな表情してたけど……なんでだ』
「だって、あなたが作ったそれ」
シーラはますますあきれ顔になった。
「わたくしよりもつよいんですもの」
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