42.真・瞬間移動
感動したエルフ達は、レイナを中心に集まって、なにやらひそひそ話をしていた。
幻想的な美しさをもつエルフ達が、一つに固まって円陣を組んで、ひそひそと何かを話している光景はシュールだった。
しばらくして、話がまとまったのか。
エルフ達は円陣を解いて、一斉に俺に向き直ったあと――両手両膝を地面について、更に頭を下げた。
平伏。
エルフ全員が、俺に向かって平伏した。
「な! なにしてるんだお前達は」
「リアム様」
平伏したまま、やはり代表でレイナが口を開く。
「どうか、私達の長になってください」
「長?」
「あっ、人間の世界だと国王、ですか?」
「俺がお前達の王に?」
何か言ってくるのは分かっていたし、ちょっと身構えて心の準備もしていたが、これは予想外だった。
「はい、私達の王になって、私達を導いてください」
「……」
「お願いします」
「「「お願いします!!!」」」
エルフ達は全員平伏したまま、声を揃えていった。
「王になってくれるのなら、私達何でもします」
「むむむ」
何でもします、という言葉には重さがあった。
本当になんでもしそう、そう感じさせる重さだ。
チラリ、とレイナが……エルフ達が。
次々と平伏したまま、ちょっとだけ頭を上げて、上目遣いで俺の様子をうかがう。
「……」
彼女達は本気だった。
襲われ、拉致された後だ、本気にもなる。
そうやって本気で頼られると……断れないな。
「分かった。王になるのはさすがに問題があるが、お前達の長になる」
貴族の五男に乗り移っただけの、中身がほとんど平民の俺でもそれはヤバイって分かる。
貴族が、勝手に王を名乗ったらヤバイって事はわかる。
「本当ですか!?」
「ああ」
「ありがとうございます!」
「「「ありがとうございます!」」」
全員が嬉しそうにお礼を言ってきた。
ずっと平伏させたままってのも悪いから、彼女達を立たせた。
そして、考える。
「そうなると、土地がいるな。みんなを住まわせる土地が」
とりあえずこの林につれては来たけど、ここは父上の――ハミルトン家の土地だ。
一時的に連れ込むことは出来ても、この林の中に村を作らせる事は出来ない。
どこか土地がいるな。
それをどうするか、と頭を悩ませたが。
解決策は、意外なところからやってきた。
☆
林の中で、俺は魔法の練習をしていた。
既に四日間、ぶっ続けで練習している魔法。
初めての魔法だ。
ラードーンから授けられた、上級神聖魔法。
それを練習して、初めて発動するまでに、四日もかかって――未だに発動していない。
俺が林の中でそれをやり続けているのを、エルフ達は見守り続けている。
ちなみに、俺がそれをやって、彼女達が待っている間は。
アイテムボックスの中に貯蔵した物資、大量に作り置きした即席麺で食事をまかなっていた。
そんな味気ない生活を始めて、あっという間に四日が過ぎた。
俺はずっと、体内に魔力の流れを感じながら、ラードーンが示した魔法を発動させようと頑張った。
『相も変わらずの根気だな』
「え?」
『よく続けられるな、と言ったのだ』
「なんで?」
『むっ?』
「続ければ魔法が覚えられるんだ、続けない理由がどこにある」
『……ふ、ふふふ。やはり面白い人間だ』
ラードーンは俺の頭の中で笑いをこだまさせた。
ものすごくたのしげな笑いだ。
何がそんなに楽しいのか分からなかったが、楽しいって思ってる分には問題はないから、気にしないでいることにした。
そして、魔法発動の練習を続ける。
それから更に半日くらいたったところで。
「あっ、来た」
魔法の発動を感じた。
『後は行き先を思い出すだけだ。幻影は?』
「もうついてる」
エルフ達の食事のこともあって、出しっぱなしのアイテムボックスから、幻影を別行動させたときの定番、遂行完了の手紙が入っているのを確認した。
「よし……レイナ」
「はい!」
この四日間、ずっと俺のそばにいたレイナを呼んだ。
「みんなを集めて」
「分かりました。みんなー」
長は俺だが、エルフ達をまとめる役割はレイナに引き続きやってもらった。
そのレイナの呼びかけに、林の中に散っていたエルフ達が戻ってきた。
数を数える、全員いた。
エルフ達を全員整列させて、俺の前に立たせる。
「それじゃ行くぞ――上級神聖魔法・テレポート」
俺は頭の中に行き先を指定して、魔法の最終段階を発動させた。
瞬間、目の前の景色が大きく変わった。
屋敷の林にいたのが、見た事もないような平原にやってきた。
「ここが……」
俺はまわりを見る。
『あの土地から100キロ離れた、封印の地と呼ばれている場所だ』
「びっくりだ……本当に一瞬で来たぞ」
そう話すのは、俺の幻影。
数メートル離れた先でこっちを見る、四日分の旅の疲れが見える、俺の幻影。
上級神聖魔法・テレポート。
一度行ったことのある場所へ、強い魔力で一瞬で飛ぶ事ができる魔法。
俺の幻影が四日かけてやってきた土地に、俺がテレポートを発動して、エルフ達を連れて来ることに成功した。
アナザーワールドの応用による疑似瞬間移動じゃない、正真正銘の、行きたいところに一瞬でいける瞬間移動。
「この魔法……何が何でもマスターしたい」
新たな土地にやってきた嬉しさもあったが、俺は、一瞬で100キロ以上を瞬間移動できるこの魔法により心が躍った。