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398.産まれる瞬間

 次の日、俺はシーラと一緒に、パルタ公国領内にある、とある滝壺に来ていた。


 人々が住む街から遠く離れた郊外、険しい地形の中にある天然の滝壺。


 そこにシーラと一緒にやってきた。


「ここでよろしいんですの?」

『ああ、ウンディーネから聞いたから間違いないはずだ』


 根拠が他人だけど、俺は自信をもってシーラに返事をする。

 今の所精霊達が俺にうそをついたことはなく、また、大きく外れたり的外れな事をいわれたりした事もない。


 精霊ウンディーネから教えてもらった情報がこの滝壺なのだから、ここで合っているだろうと確信している。


「ここに何がありますの?」

『今はまだない、これからできる――いや、生まれるところだ』

「生まれる……何がですの?」

『精霊さ』


 俺が答えると、シーラは「あら」と興味津々な表情になった。


「精霊が生まれる所なんて初めてですわ。知識では精霊も生き物と同じく生まれたり寿命を迎えたりするとは知っていましたけれど」

『そうらしいな。もっとも、精霊はほとんどの生き物と違って、父と母が交わってそれで生まれる訳じゃないらしい』

「あらあら、そうでしたのね」

『ああ、今回の為に聞いてみたから間違いないはずだ』


 生まれるけど父と母からじゃない、という、常識で考えたらちょっと困惑する様な話だったが、シーラは別段困った様子でもなく、むしろより一層興味が深まったような、そんな感じの返事が返ってきた。


『精霊によって生まれ方も場所も頻度もちがうが、ウンディーネはこういう、特に綺麗な水が流れ続ける、動物さえもほとんど近寄らない所で生まれるらしい』

「清冽な場所でなければ生まれないということですのね」

『うん? うん、そうかな』


 せいれつ(、、、、)という言葉の意味がよく分からないが、シーラの事だ、この話の流れだときっと目の前の空気のことを、この場所のことを言い表している言葉なんだろうなと言うのは何となく分かる。


『でもって、今日ここで、そろそろ新しいウンディーネが生まれるらしい』

「ではしばし待機ですのね。自然の清冽さが必要なのであれば例えあなたでも手出しをしない方が無難ですわね」

『その通りだな』


 シーラのいう事に全面的に同意した。

 やはりせいれつって言葉の意味はわからないままだが、それを保つ為には強大な魔力をもつ俺だろうが手出しをしない方がいい、というシーラのいい方で彼女が完全に理解していることを確信する。


『念の為だけど』

「なにか?」

『もうしばらくかかるけど、シーラは時間大丈夫なのか?』

「あら、気遣ってくださるのね。でも大丈夫ですわ」

『そうなのか?』

「ええ、主たる魔王に付き合う以上の用件などありはしませんわ」


 シーラはいたずらっぽくいった。

 冗談めかしていってるのははっきりしてて、そんな風に冗談っぽくいえるのならまあ問題はないだろうなと思った。


 ならば、と俺達はそのまま待った。

 剣に憑依している俺はシーラの横で空中に浮遊している。

 一方のシーラはいかにも「姫」らしく、上品な姿勢のまま佇んでいる。

 俺はもとより、シーラはまったく姿勢を崩さないでいる。


 すごいな、そういうのって育ちなのかな、と。

 待っている間の話題として聞いてみようと俺が思った――その時。


『――っ!』

「あら」


 俺は気配を感じて、意識を滝壺に向けた。

 そんな俺の気配を感じて、シーラも同じように滝壺をみた。


 瀧の流れている音がするのに、その音さえも聞こえないような静けさを錯覚させるような冷たい空気のなか、その空気が滝壺の近くの一点に集中していき、やがて、新しい精霊ウンディーネが生まれた。

 今まで召喚したウンディーネとほとんど見た目が同じのウンディーネだ。


 俺は初めて、精霊が生まれる現場に立ち会った。


 そのウンディーネは生まれるやいなや、こっちを見て少し驚き、そのまま水の中に飛び込んで逃げてしまった。


「あら、逃げてしまいましたわ」

『にげたな』

「追いかけて、捕まえなくていいんですの」

『え? いや、捕まえないよ』

「あら、捕まえないのなら何のためにそれを待っていましたの?」

『精霊が生まれる瞬間を見たかったんだ』

「ふむ。あなたの『○○したかった』は必要性があってのことだと思いますが、今回はどのような?」

『説明が足りなかったな。精霊が生まれる瞬間を見て、その感覚とかイメージとかがほしかったんだ』

「……もしや、あなたは」


 シーラは少し考えて、真剣そのものの口調で、探るように聞いてきた。


「精霊を自ら産み出そうと考えているんですの?」

『すごいなシーラ。ああ、そういうことだ』

「…………呆れましたわ」


 いかにも呆れた、と主張するかのように、シーラはたっぷりと時間をとってから、誰が見ても分かる位のあきれ顔をした。


『何をだ?』

「すごいのはあなたですわ。人間が精霊を産み出そうなどと――普通は考えもしませんわよ」

『そうなのか? でも、今回のことで必要だから』

「必要」

『ああ、欠陥のある精霊を創るためにな』


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