382.花火
影が伸びてきた昼下がり、宮殿の中庭。
フラッとやってきたデュポーンと二人っきりになって、彼女にバラを渡した。
「これをもって何かしたらいいの?」
「いや、もってるだけでいい。そうしたら――ほら」
デュポーンが受け取ってわずか数秒、真っ白なバラの色が変わって、綺麗なピンクに染まった。
「本当だ、ダーリンの言う通り色が変わった。すごいねダーリン、こんなのもできるんだ」
「一応な」
「あたしはピンクか……これ、何か意味があるの?」
普通に話しているが、デュポーンはピンクのバラを愛おしげに両手でもっている。
大事そうにもったまま、それをきいてきた。
「いや、俺があえて何か設定したというのはない」
「そうなんだ。じゃあ……自然の理にそった色って事だね」
「自然の理?」
「うん! ほら白と黒とじゃイメージが違うじゃん?」
「ああ……」
「あそこまでいくと、人間がつけたイメージじゃなくて、自然の現象がそういう色だったからって感じのやつなんだよ」
「そうなのか。……じゃあピンクにもなにかあるのか?」
「うん、ある。――けど」
「けど?」
「なんだっけ、あたしもそういうの詳しくないんだ」
「なるほどな」
そんなもんか、と何となく納得した。
ラードーンと比べて、大分年頃の少女っぽくて、ところどころ「軽い」感じのするデュポーンだが、彼女の過去とか、根っこにある本質とかそういった物はラードーンとすごく似通っている。
深い所にあるような知識はたくさんしっているが、逆に浅い所にあるような物は意外と知らなかったりすることがよくある。
「なんだっけ……ピンクは、うーん、まいっか」
デュポーンは数秒だけ首をひねって考えたが、すぐに諦めた。
こういう所が実に「らしい」感じがして、もしかしたらピンクはそれに繋がってるのかもしれないなと少し思った。
「ねえねえダーリン、一つおねだりしていい?」
「おねだり? いいけど……なに?」
「このピンクのバラ、このままじゃ枯れちゃうけど、しないようにして」
「枯れないようにってこと?」
「うん! それといつも持ってたいんだ」
「なるほど……」
つまりいまのこの見た目のままずっと持っておきたい。
【アイテムボックス】の中に入れておくといつまでも保存しておけるけど、そうじゃなくて見えるように出した状態でこのままでってことか。
記念品を飾っておきたい気持ちは俺にもわかる。
「ねっ、お願いダーリン」
デュポーンはしなをつくって、わかりやすくおねだりしてきた。
彼女に頼られて悪い気はしない、俺はなにか方法はないかと考えた。
「……ああ、行けそうだ」
「本当に! さっすがダーリン」
「それを――浮かしといてくれる? さわらないように空中に浮かした状態にしてくれるとやりやすい」
「おっけー」
デュポーンは満面の笑顔で軽い調子でおうじ、持っていたピンクのバラを浮かした。
両手の手の平をうわ向きの状態にして、その少し上にバラを浮かせた。
「アメリアエミリアクラウディア――」
前詠唱をして魔力を高め、魔法を掛ける。
まほうの光がピンクのバラを包み込んだあと、その光がバラの中に吸い込まれていくかのようにおさまった。
「できたの?」
「ああ」
「変わってないように見えるけど……なにをやったの?」
「最近やってる食糧の保存のヤツ、アレの応用だ。バラの表面にうすく皮一枚をつくって、その皮の内側に【タイムストップ】みたいなのをかけて時間をとめた」
「すっごい! 【タイムストップ】をそこまで自由自在に使えるの本当にすごい!」
「その状態のままを保てば数百年だろうと枯れはしないけど、外側からの力にはもろいからそこだけ気をつけて」
「それなら大丈夫」
デュポーンはにこりと微笑んだ。
無邪気すぎて、ちょっとだけ怖く感じてしまう笑顔だった。
「あたしが持ってるものに触れる人間なんてこの世に存在しないもん」
「なるほど、それもそうだ」
デュポーンの言うとおりだと思った。
神竜の一人、人間を遙かに超越した存在。
彼女が大事に持っている物をどうこうできる人間なんて確かに存在しないだろうなと納得した。
「あっ、もちろんダーリン以外って意味だよ。むしろダーリンならあたしのもってるもの全部あげちゃう!」
デュポーンはフォローのようにいって、ウインクも付け加えた。
「世界とかいらないからな?」
「先回りしないでよダーリン」
今度はぷんすか、と可愛らしく拗ねた。
コロコロと表情がかわって、それが裏表がないというのもあって、普通に可愛らしく感じる。
「本当にいいの? あの小娘にはやらせてるのに?」
「小娘……って、誰のことだ?」
見た目だけならデュポーンこそ小娘だけど、なぜかそういう物言いがしっくりきて、違和感がまったくなかった。
「ダーリンが魔剣を作ってあげた娘」
「ああ、シーラか」
なるほどその話か。
「そりゃ違うからな」
「なにが?」
「デュポーンがいう世界をとるってのは、俺にくれるためにトルって意味だろ?」
「もっちろん」
「シーラのは『自分がほしい』だから」
シーラのは世界じゃなくて国だけど。
「デュポーンは世界がほしいのか?」
「ううん、ぜんっぜーん。興味ない」
「だろ」
「うーん、だったらしょうがないね」
デュポーンは少しだけ考えて、あっさりと引き下がった。
「……あ」
「どうしたのダーリン」
「結構な魔力が使われた……シーラ、『はじめた』んだな」
☆
キスタドール王国、辺境の街ホリブサ。
シーラ率いるパルタ公国軍1000がせまっていた。
『城塞都市……ってやつだっけ、ああいうのって』
「ええ、そうですわ」
盟約リアムである俺は、魔剣リアムを依り代にしてともにいた。
オリジナルの俺とラードーン。
それと似たような形で、魔剣「俺」がシーラの脳裏に直接語りかけている。
『ここからどうするんだ?』
「まずは花火を」
シーラは淀みない口調でいった。
『花火?』
「ええ。今までのあなたはほとんど専守防衛――火の粉だけを振り払って来られましたわ」
『ああ』
「それが『魔剣リアム』とはいえ初めての攻勢。それをわかりやすく一発花火を打ち上げたいとおもいますわ」
『なるほど』
「力を」
『ああ、好きに使え』
シーラは俺――魔剣リアムを抜き放ち、まだ付着していないが血払いするかのように斜めに振り下ろした。
瞬間、オーラが立ちこめて、髪が黒く染まる。
魔剣リアムとしての「演出」で、魔王の力に染まったという演出。
依り代に入っているからか、肉体ではない五感が普段あまり感じないものを敏感に感じ取る。
シーラが率いる1000の兵に緊張が走ったのを感じる。
シーラは無視をして、ズンズン先に進んでいく。
城塞都市は外壁がそのまま城壁になっているつくりで、その城壁のうえでシーラの姿を認識した兵が慌ただしく動き始めた。
シーラは向こうの矢のぎりぎり射程外で立ち止まって、魔剣リアムを両手でもって天高く突き上げた。
「この一撃が――歴史を変えますわ!」
高らかに宣言し、振り下ろした。
魔剣リアム――盟約リアム。
盟約召喚の俺がついていることで、「俺」本体とまったく同じ力が使える。
前詠唱のない最大出力が、巨大な斬撃という形で飛んでいく。
それが真っ正面の城門にぶち当たった瞬間、城門が吹き飛んだ。
シーラの兵がざわめき、ホリブサの兵に悲鳴と断末魔が交錯する。
「全軍突撃ですわ」
一撃で城門を吹き飛ばしたあと、シーラの号令とともに1000+1人が突撃を開始した。
彼女の宣言通り、これが歴史の分岐点となる一撃と、後世で語り継がれるようになるのだった。
ここまで読んでくれてありがとうございます。
次話よりシーラと魔剣リアムによる新章です。
リアムがやることは基本同じですが、ラードーンポジションになってちょっとだけ変わりますのでそれを楽しんでいただけるように頑張って書きます。
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