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377.魔法使えない人にも恩恵を

 数日後、再びやってきたブルーノと二人で、街外れの倉庫。

 倉庫には、ここ数日ダークエルフ達と一緒に作りあげた一万食分の保存食が積み上げられている。

 100食分をダークエルフ達が作って、俺がまとめて包装する。

 その100食分のが100個、倉庫の中に積み上げられている。


 その中の一つの包装をといて、個包装なのをブルーノに手渡す。


 ブルーノは真剣な面持ちで個包装を開けると、中から焼きたてのパンが出てきた。


「こ、これは……まだ温かい……香りも出来たてのまま……ッ!」

「パン自体はエルフ達が焼いてくれたのをダークエルフ達が魔法で包装してくれたんだ、それを俺がさらにまとめて包装した」


 手分けしてやって、それで作りあげたもの。

 その説明をブルーノにしてやると、ブルーノはますます感心――いや感動した表情になった。


「なるほど! 陛下は一度の魔法で100個分の保存をされるわけですね」

「そういうことだ」

「その手がありましたか……」

「どうかな兄さん、これで」

「形としては完璧です。陛下のお手を最低限煩わせないのも素晴らしい――あっ」

「どうしたんだ?」

「失礼ですが、これはどれくらい保存できるのでしょうか。その……個包装の方は陛下ではなく使い魔の魔物達の手によるものですので、そこが唯一の懸念点でございます」

「ああ。実は最初はもうちょっと短かったんだけど、この形になってから――ラードーンがいうには俺が最後の仕上げをするこの形でグレース達の心の負担が減ったみたいで、保存できる期間が長くなったんだ」

「当然ですな」


 ブルーノはうんうん、としきりに頷いた。


「陛下がひかえているという安心感はなにものにも代えがたいものがございますからな」

「で、ざっくりとした期限だけど」


 俺はあの後、グレース達が「気楽」になった後にテストした結果を頭の中でまとめた。


「二重包装の状態だと、焼きたてに等しい状態で食べられるのが1年、おいしく食べられるのが3年。10年くらいまでは腹を下さずに食べられる感じだ」

「つまり……賞味の期限が3年、消費の期限が10年、ということですな」

「そういうことになるのかな?」


 賞味と消費の細かい意味が一瞬では分からなかったが、その辺りはブルーノの使った言葉だ、間違いはないだろうと思って頷いた。


「すごい……しかも、これ」


 ブルーノは持ったままの、開けた瞬間急速に冷めていくパンを見つめた。


「魔法を使えないものでも、誰でも問題なくつかえるということですな」

「ああ、そこもちょっと改良した。閉じた袋を開ける程度の労力でいいようにした」

「さすがでございます、陛下。正直な話、【アイテムボックス】を使える魔法使いさえいればどうとでもなる話ではあるのですが。魔法使いがいなくても、誰でも長期間保存可能な食糧を簡単に食べられるのはすごい事です」

「そんなにすごいのか」

「陛下流に言えば……そうですな。奇跡の力である魔法がそれを使えない人間にも恩恵をもたらした、ということでございます」

「………………それは、すごい」


 一瞬きょとんとした。

 そして、リアムになる前の人生がその一瞬で頭の中に駆け抜けていった。


 魔法を使えない人間でも、魔法が起こした奇跡の力をある意味使って、恩恵を受ける。


 それはすごいこと。

 そこまで意識はしなかったけど、とんでもなくすごい事だと俺もおもった。

 かつては魔法に憧れる「だけ」だった人生を送っていたのが、そのすごさをより強く実感させた。


 俺がじーん、とその事をかみしめていると、ふと、ブルーノが俺をじっと見つめていることに気づいた。


「どうしたんだ兄さん」

「――っ、大変失礼致しました! 陛下の魔法の御力が新たな段階に入ったのだとしみじみ感じておりました」

「あらたな段階?」


 ――ってどういう段階だ? と俺は首をかしげた。


「ここしばらく、陛下は魔法を使えない人間でも魔法の恩恵を受けれるようになさっておられます。しばらく前の最大の発明【リアムネット】ももちろんすごいのですが、これはある程度魔法を使えなければ恩恵を受けられませんでした」

「……ああ」

「それが今、魔法を使えないものにも恩恵が受けられるようになってきました。更にいえば、100万本の魔法の矢は戦にしか使えないものですが、これは一般の民も恩恵をうける発明です」

「そうかな?」

「例えば……米をこの技法で保存すれば、陛下はどれくらい持つとお考えでしょう」

「米? 炊く前のってこと? だったらまあ、100年位は余裕で――あっ」


 俺ははっとした。


「はい、その通りでございます。米はあれでも保存に向いているのですが、それでもしけったり腐ったり虫に食われたりするのがどうしても避けられず、また完璧に保存したとしても数年、良くて十年でダメになります」

「100年持つ米なら……たしかに」


 前世の記憶がまだ残ってる。

 米が100年も持てば、ためられるときにためておけば、不作とか災害が起きたときとか餓死する人間が大幅に減る。


「……これなら洪水とか来たとしても米はだめにはならないな」

「さすがでございます、ますます完璧でございます」

「陛下はこれをシーラ様にのみ提供するつもりでございましたな」

「ああ」

「これならばシーラ様の国での兵糧と災害時の備蓄が完璧になったと言っていいと思います。長期戦になればなるほど勝ちやすくなるかと」

「おお……」


 またまた予想外の効果が見込めて、俺はますますうれしくなったのだった。

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