376.地味に大発見
「これは……どういう事でしょうか、ご主人様」
「すごく単純な話だ」
エルフメイド達も、ダークエルフ達も全員が理解できないって顔をしているが、説明すればすぐに理解してもらえると確信してる。
今やったことはそれくらいシンプルなことだからだ。
「食べ物を保存するとき、例えばツボとかに入れて蓋をするだろ?」
「はい」
「で、もっと長く保存したいときはそのツボごと棚に入れたり、場合によっては地面に穴を掘ってツボごと埋めたりするだろ?」
「はい……あっ」
レイナをはじめ、メイドエルフ達はハッとした。
バンシィからダークエルフに「進化」してまもないグレース達とは違って、レイナ達はエルフになって長いし、進んで「メイド」になっているからそのあたりの事により詳しい。
「えっと……どういう事だ?」
「そうだな」
グレース達にも分かるように、別の説明を考えた。
「逆だけど……冬だと外より家の中の方が暖かいだろ?」
「ああ……」
「家の中にいてもまだ寒いときは布団に潜り込むだろ」
「まあ……そう、だな」
「そういう風に二重にすれば寒さを凌げる、ものが腐るのも一緒だ」
こっちは説明としてどうかな? と思った。
本当はツボの説明でなっとくしてもらえたら一番楽だったんだけど、分からなかったみたいだからしょうがない。
「つまり……私達のを……?」
「ああ、これで確かめてみよう」
俺はそういい、ジュースを纏めて「包装」したものを【ダストボックス】にいれた。
そのままみんなと一緒にまった。
「大体……二ヶ月くらいたったかな」
つぶやくように言いながら、大丈夫なのかと自信がなかった。
最初の時の様に一日ごと――っていう短い間隔ごとに取り出してたら大丈夫だけど、二ヶ月を計ってその一回、というのだと感覚があってるかどうかが不安になってくる。
その俺のつぶやきを拾って、レイナがフォローしてくれた。
「ご主人様のおっしゃる通り、二ヶ月相当をすこし経過した所です」
「計ってたのか?」
「はい、必要な時のために、密かに」
「そうだったのか。ありがとうレイナ、すごく助かる」
「恐縮です」
レイナは腰を折って、深々とお辞儀をした。
俺に褒められたレイナ本人は嬉しそうで、他のメイドエルフ達は羨ましそうにした。
「よし、じゃあとりだそう」
宣言してから、【ダストボックス】から「二ヶ月」前に入れたそれを取り出した。
ジュースを纏めて「包装」したそれの外観はまったく変わっていなかったーーが。
「……」
グレースを始めとする、ダークエルフ達がゴクリ、と生唾を飲んで不安そうにしているのがわかった。
ジュースを普通に包装した時も、中は腐っていたが外はほとんど変わっていなかったのだ。
それと同じで、外から見てほとんど分からない。
しかし中は開けてみたら腐っている――失敗しているかもしれないという結果が待っているかもしれない。
その事にダークエルフ達はハラハラしているようだ。
「【ダストボックス】の中で二ヶ月相当が経過してる。さっきのままだともう腐ってるけど」
俺はそう言いながら、俺がやった外側の包装を剥がして、中の個包装とも言うべきのを一つ取って、それも剥がした。
中からコップに入ったジュースが一つ出てきた。
においを嗅ぐ、そのまま流れるように口をつけて、一気に胃の中に流し込む。
「あっ……」
声を上げるグレース。
大丈夫なのか? という言葉聞こえてきそうだった。
が。
「うん、おいしい。全然大丈夫だ」
「本当か」
「ああ、みんなも開けてみろよ」
俺に促されて、ダークエルフ達は次々と包装されたジュースを開けて、同じように匂いをかいで、色合いをみて、おそるおそる舐めるようにのんだ。
「大丈夫だ……」
「腐ってない……」
ダークエルフ達は口々にそういって、安堵が広がっていく。
しかし、その安堵の波を止めてしまうかのような、グレースの一言。
「だ、だが……これは結局、外側のあなたの魔法のおかげなのでは……」
「「「あっ……」」」
グレースの言葉でダークエルフ達はハッとして、また落ち込んでしまう。
「いや、そんな事はない。普通に助かってる。というか……これは今後にも繋がる大きなやり方の発明だと思う」
「と、どういう事だ?」
「今回の話、最初は俺がかなりの力をつかって、数百数千回同じことをしないといけなかった」
「あ、ああ」
「だけどみんなに手伝ってもらって、俺は最後にそこそこの力で仕上げの一回をすればいいだけになった。確かにどこかで俺じゃないとできないぶぶんがあるけど、どんぶり勘定で同じ結果を得るのに俺は1000分の1くらいの労力と時間ですむ。どう考えても普通に助かってるだろ。ありがとうみんな」
「そ、そうか……それなら、いいんだ……」
グレースも、そしてダークエルフ達もホッとして、それから嬉しそうにした。
保存食のはこれでいい。
ダークエルフや他のみんなが個包装をつくって、千個ないしは一万個くらいのまとまったものを俺が一気に包装してしまう。
保存だけじゃない、こういう二段階的なものは他にも活かせるはずだと。
今後に繋がる想定外の大きな発見だと、俺はグレース達が思っている以上に密かに興奮していた。