375.二重包装
「もう少しだそう、どこまで腐ってるのか確認したい」
俺はそういい、【ダストボックス】から予定前倒しで次から次にだして、それをあけた。
すると出すもの出すもの全てが腐っていた。
甘い香りを放っていた林檎ジュースが黒ずんで汚臭をはなっていた。
「もう……いい」
グレースががっくりと肩をおとした。
同族のダークエルフ達もくやしがったり目をそらしたりと、似たような心境であるのが一目でわかる。
次から次へとだされる腐ったジュースを前にダークエルフ達はわかりやすく肩を落とした。
「どうしたんだ?」
「こんな……頼まれた仕事もこなせずに失敗してしまうようでは……」
「失敗って訳でもないけど」
「え?」
しょぼくれて、肩を落として落ち込んでいたグレースがパッと顔を上げた。
他のダークエルフ達も一緒だ。
「とりあえず全員、もう二つずつ作ってくれ。まったく同じので――気負い無しに同じのでいい」
「わかった……」
グレースはそういい、ふりむいて同族たちと視線を交換した。
気負わなくていいといったけど、顔からはやる気があふれている。
本当に気負わなくていい、というかそれをされるとこまるんだが。
……まあ、大丈夫かな。
俺はそう割り切って、ダークエルフ達のことをみまもった。
エルフメイドたちのサポートをうけて、ダークエルフ達は全員、要求通りジュースを2杯分、魔法で立方体に閉じて保存の形にした。
「できた」
「ありがとう。また【ダストボックス】にいれるぞ。レイナ」
「かしこまりました」
レイナに合図をおくると、その直後にエルフメイド達が動き出して、できたものを回収してきて、俺の所に持ってきて【ダストボックス】におさめた。
そのまま少し待った。
「……これで二週間経過、半分をだすぞ」
そういって、【ダストボックス】から全員が作った内の半分をとりだした。
魔法の「包装」をあけて、中を確認。
「大丈夫だな」
俺がいい、ダークエルフ達がほっとする。
すこしまって。
「一週間たったな、また出すぞ」
そういってジュースを取り出す。
同じように包装を開けると――今度は全部が腐っていた。
すると、直前にホッとしたばかりのダークエルフ達がまた落ち込んだ。
感情の急な起伏にからだがついて行けずに、何人かのダークエルフの顔色が必要以上にわるくなった。
グレースもそうで、責任感や気負いが強い分、ダークエルフの中で一番顔色が悪くなっていた。
それを見かねてか、レイナが訳知り顔できいてきた。
「ご主人様、早く説明をしてあげませんと。何人かは気を病みすぎて本当にやみそうにみえます」
「え? ああ、その通りだな」
「せ、説明?」
グレースが何かにすがるような、そんな感じでレイナのことばに、そして俺にくいついてきた。
「確認をしたんだよ、さっきの結果がどういう事だったのかをまずな。さっきは全員複数つくったのを、何も考えずに適当にだしただろ? 仮にだれかが本当に失敗してたとしてもわからなかった。全員同じ数をつくって、2週間経過と3週間経過にわけて全員のをとりだした。すると2週間のときは大丈夫だったのが3週間でだめになった。つまり」
「つ、つまり?」
グレースを始め、ダークエルフ達は全員がごくり、と固唾をのんでいた。
「魔法自体は全員成功してる、そして全員の効果が2~3週間の間だってことがわかった」
詳しい日数は調べようと思えば調べられるが、今はまだそんなに細かい話はいらないとおもった。
「えっと……」
「失敗じゃないって事だ」
俺が言うと、ダークエルフ勢は一斉にほっとした。
それをみたエルフメイドたちは温かい目でみまもった。
が、ここでもやはりグレースは責任感の強さが悪い方にむかいだした。
「とはいえ……話を聞く限りでは一年ほど保存できるものを作るというはなしだったはずだ」
「それはそうだな」
「それが出来ないのは……ふがいない」
グレースがそういうと、ダークエルフ達がまた落ち込みだした。
たしかにそういう意味では失敗かもしれない。
が、それはどちらかと言えば俺の問題だ。
俺が改良した魔法を、ダークエルフたちが学んで、つかった。
全員が同じような結果をだしたということは、これがこの魔法のあるべき姿だということだ。
そうなると魔法を改良して作り直した俺の失敗だということになるんだが、意気込みすぎて、俺に恩返しをしたがっているダークエルフ達は失敗だとおもってその責任を感じていた。
「ひろってもらって、そのうえ守ってもらっているのにこんなこともできずに……ふがいない」
「それは考えすぎだ――ん?」
グレースの言葉にひっかかりをおぼえた。
その引っかかりがなんなのか――まだわからないが、この感覚はよく知っている。
ほとんどの場合解決につながる感覚だ。
それをのがすまいと、もっとはっきりとつかまなきゃと。
俺は意識を深く潜行して、グレースとのやり取りの全てを引き戻して深く反芻した。
「ど、どうしたのだ?」
「ご主人様の本領発揮よ」
「本領発揮?」
「ここからがご主人様の真骨頂だからみていなさい。それにつづくまでの、ご主人様のための地ならしが出来たことは誇りにおもっていいですよ」
まわりで何か会話がされているようだが、耳に入ってきても意識にはとどかなかった。
そんな感じで考えていると――いつものようにひらめいた。
「そうか! まもればいいんだ!」
ひらめいた俺は、いつの間にか地面をじっと見つめていた視線をあげて、驚いているダークエルフ達にいった。
「全員、もう一つずつつくってくれ」
「わ、わかった」
応じるグレース、そしてダークエルフ達。
三度、こんどは一人一杯分ずつジュースを「包装」する。
出来たものを、全員が訝しむ中綺麗に積み上げる。
レンガで家を建てるときのように、綺麗に積み上げる。
それを積み上げたあと、俺もダークエルフたちと同じ魔法をつかった。
包装されたジュースを集めて、更に包装した。