371.魔剣らしさ
魔法空間【アナザーワールド】の中に、契約シーラと一緒にやってきた。
20メートルくらい離れた距離で、俺と契約シーラが向き合う。
「では、行きますわよ」
「ああ」
頷きあう俺と契約シーラ。
直後、契約シーラは鞘から剣を抜き放った。
まったくもって変哲のない、いかにもその辺の武器屋で投げ売りされているようなただのロングソード、といった趣の剣。
剣を抜いて、血払いをするように上から下に向かって斜めの軌道で振り下ろす。瞬間、力が解放された。
俺の中から魔力が抜けるのを感じる。
それはつまり、シーラが持つ剣――魔剣リアムの試作品の中にいる盟約リアムが力を行使したということだ。
力が魔剣リアムから放出されるのとほぼ同時に契約シーラの見た目も変わった。
長くて綺麗な髪が真っ赤にそまり、無風なのになびきだした。
同じように澄んでいて綺麗な瞳も、血走っているのを通り越して真っ赤にそまった。
「はあああっ!!」
裂帛の気合とともに、契約シーラは地を蹴って、俺にむかって突進してきた。
約20メートルの距離を一瞬でつめて来るほどの突進、そして横薙ぎ一閃。
刃の冷光が知覚を超える速度で目の前に迫る。
「――っ! シールド!」
とっさに【アブソリュート・マジック・シールド】と【アブソリュート・フォース・シールド】、二種類の魔法障壁を限界の数まで展開。
二種類の魔法障壁は一瞬で砕け散って、消し飛んだ。
数十枚の魔法障壁なのに、文字通り一瞬で破られたから、爆発音が一つに聞こえてしまう位になった。
「【マジックミサイル】41連!」
「41連!」
迎撃に無詠唱で一気に魔法を放ったが、契約シーラは真っ赤な髪と瞳で剣をグルグル振ってから地面に突き立て、まったく同じ魔法をはなってきた。
無数の魔法の矢が空中――俺達の間でぶつかって、連続した爆発音を轟かせる。
まったく同数でお互いの魔法がぶつかり合って消滅した。
魔剣リアムは盟約リアム、つまりは俺同士の戦いだから当然こうなる――と思った次の瞬間。
「倍返しですわ!」
と、契約シーラから更に魔法の矢がとんできた。
さっきのとまったく同じ数。
つまり41連を連射してきたのだ。
「むっ!」
空中に飛んで、魔法の矢を躱した。
俺がたっていた場所に魔法の矢が着弾して、魔法の矢同士の時とは違う、地響きとともに鈍い爆発音が立て続けに起きて、辺り一面を覆い尽くすほどの砂煙が包み込む。
「【アメリア】!」
契約シーラの声が聞こえた。
同時に、俺の足元から太陽をもした魔法陣がひろがった。
魔法陣のなかで、体がはっきりと重くなるのを感じる。
「【エミリア】!」
更に叫ぶ契約シーラ。
今度は月を模した魔法陣が広がって、頭がぼうっとして意識が――。
「【クラウディア】!」
三つ目のまほうじん
わからない
せいこ
「はああああ!!」
……。
…………。
………………。
ぼうっとしていた頭が、次第に元にもどってきた。
意識がはっきりとするようになって、まわりの状況を確認する余裕がで始めた。
何もない【アナザーワールド】の空間の中。
俺の足元からそれぞれ太陽、月、星をもした三つの魔法陣が重なるように広がって煌めいている。
魔剣リアムとして開発した三つの魔法、シーラのもつ魔剣クリムゾンローゼのバラの魔法陣と同じような、見た目が特徴的な魔法陣。
見た目はいい案がなかったから、とりあえず太陽と月と星のひねりのないものになった。
その効果は相手の能力や意識を浸食して、相対的に戦闘を有利に進める魔法だ。
相手の能力を低下させる魔法なのは、契約シーラが提案した「人に害をなす魔王」というイメージに沿った力。
その力を俺が喰らって意識が遠くなった。
盟約リアムつまりおれの力だから、自分で自分を全力で殴ったんだから効いて当然。
それはわかるのだが――。
「シーラ?」
名前を呼ぶ、シーラの姿はどこにも見当たらない。
まわりを見回すと、何もない地面ーーいや床というべきか、そこにむき身の魔剣リアムだけがころがっていた。
それを持っていた契約シーラの姿はどこにも見当たらない。
「シーラ?」
もう一度名前を呼ぶ、やはりどこにもいない。
『ふふっ、面白い物をみせてもらったぞ』
「面白い物? ああそうか、ラードーンにはみえてたのか」
『うむ。一人で最強の盾と最強の矛ごっこをしたのは面白かったぞ。おかげで普段は中々みないお前の間抜け面も見られた』
「そうか」
普段から大した顔じゃないけど、まあそれはどうでもいい。
「それよりもシーラはどうしたんだ?」
『消滅したよ』
「消滅!?」
ラードーンの口からでた意外な言葉、そして物騒な言葉に驚いた。
『所詮はただの人間、しかも契約召喚体だ。お前の力に耐えきれず爆散したのだ』
「ええ!? そ、そうだったのか。ああいや……そうなのか……」
なるほど、とおもった。
物騒な言葉だけど納得してしまった。
「だったらちょっと弱めるか」
『いや、それはそれでよいのではないか? 振るう人間が魔王の力に耐えきれずに爆散する。いかにもな魔剣ではないか』
「そうかもしれないけど……」
俺は苦笑いした。
確かに「いかにもな魔剣」かもしれないけど、契約シーラはまだしも、シーラ本人まで爆散する様なものじゃダメだろうと苦笑いした。
『なあに、あえてリミットつけて抑える必要はない。中にいる盟約召喚のお前が限界を見極めて手加減をすればよいだけのこと』
「あー……それもそっか」
ラードーン提案に納得する俺。
シーラを「吹き飛ばした」が、魔剣リアムは悪くない出来だった。