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37.精霊を進化させる

「すっっっっっごーい!!」


 思いっきり溜めたあと、アスナは目を輝かせながら俺に迫った。

 彼女の横で、口にこそ出していないが、ジョディも似たような感じで俺を見つめている。


 俺達は今、アナザーワールドの空間の中にいる。

 外から入って、一軒家のすぐ外に立っている。


「これ、さっきのと同じ家だよね。すっごいなあ、街の南端ではいった時も北端で入ったときも同じところに来るんだ」

「どこでも家を持ち運ぶ……こんな魔法初めて聞くわ」


 二人とも大興奮だ。

 アナザーワールドをマスターして、中に家を建てた。

 この家はこの先、パーティーを組んでいる二人にも使ってもらう事になるから、実際に二人に見せた。


 一回中に招いてから、一旦外に出て、まったく違う場所でもう一回アナザーワールドを開いて一緒にはいる。


 すると、二人はこんな感じで興奮しだした。


「ねえねえ、家の中も見ていい?」

「ああ、もちろんだ。この先狩りに行くときに使うから、使う部屋をもう決めてしまって良いぞ」

「本当!?」

「あらあら……野宿しないで済むのね」


 見た目は美少女に若返ったが、中身はベテランの冒険者であるジョディ。

 これまで野宿を結構経験して来たんだろうな。


 アスナがまず家に入って、ジョディ、そして俺と続く。

 リビングに入った俺達。

 ジョディはリビングに立ち止まったままあっちこっちを見回して、アスナはドアを一つずつあけてその奥を見た。


「すごい、中もちゃんと家になってる。ねえ、どの部屋でもいいの?」

「ああ」

「ジョディさんはどうする?」

「私は……うーん」


 ジョディは窓の外を見て、困った顔をした。


「どうしたの?」

「ここって、採光の概念はあるのかしら」

「あっ、そういえば……」


 アスナも窓の外をみる、俺も見て……はっとした。


 アナザーワールドの中は太陽も月もない。

 まぶしくないし、暗くもない。


 不思議な、そして丁度いい明るさに常にたもたれている。


 暗くないから今まで不便には思わなかったが。


「そうか、これじゃ夜寝るとき困るか」

「暗くできませんの?」

「無理だな――ああ、いや。できる、できるぞ」


 俺は手をかざした。

 魔法を使うと二人は瞬時に分かって、ワクワク顔をしだした。


「出でよ――シェイド!」


 下級闇精霊、シェイド。


 召喚されたそれは、目の前に小さく浮かぶ黒い塊になった。


 夜にみる蛍――あれとまったく正反対で、明るいところにでてきた小さな闇。


 俺はその闇――シェイドに聞いてみた。


「この空間を闇で包み込めるか?」


 シェイドは小さく、上下に揺れた。

 つぎの瞬間、辺りが一気に暗くなった。


 自分が突き出した手がどうなっているのかすらみえない、完全なる闇。


「わっ、暗い!」

「精霊で闇を作り出したのですわね」

「ああ。とはいえこれじゃ暗すぎるな――サラマンダー」


 今度は下級炎の精霊、サラマンダーを召喚した。


 光の精霊でもいいのだが、それだと一気に明るすぎて訳が分からなくなりそう。


 人間が生活の上で闇に対抗するには、やっぱり炎だ。


 サラマンダーが出てくると、家の中はほどよく明るくなった。


「あ、落ち着く」

「丁度いいですわね」

「せっかくだから暖炉に火をおこそう」


 俺はそういい、リビングにある暖炉に、アイテムボックスに溜めておいた薪を取り出してくべて、サラマンダーに火をつけるよう命じた。


 暖炉に火がつくと、ますますほっとした。


 暗闇の中の炎は、心を落ち着かせる不思議な効果がある。


「なんかすっごい不思議な気分だね」

「ええ。でも、すごく落ち着くわ。狩りの後に野宿じゃなくてここに泊まれたら、疲れを次の日に持ち越さなくて良いわね」

「うん! あたし、いっつも蚊に刺されてさ。まわりが誰も刺されなくてもあたしだけ刺されるから、野宿が苦手だったんだ」

「それなら平気だ。ここは俺が許可した相手しか入って来られないから、蚊の心配はない」

「本当!? やった!」

「リアムくん、この闇って、もう少しだけ明るくならないかしら」

「もう少しだけ?」

「ええ、夜くらいの暗さだったらもっといいって思ったの」

「ああ、それはそうだな」


 ジョディの言うことはもっともだ。

 今は、暗すぎる。

 精霊シェイドが作り出した闇は「闇すぎる」。


 向いている、火がついてる暖炉の方は良いが、そうじゃない方向はちょっとぞくっとするくらいの完全な闇だった。


「シェイド、闇の度合いを調整できるか?」


 シェイドは否定した。

 召喚者の俺にダイレクトで伝わってくるメッセージは――


「この子じゃダメみたい。下級精霊は闇にするまでしかできなくて、調整は中級精霊じゃないと出来ないらしい」

「そうなのね」

「中級精霊か……闇もそうだけど、水も召喚出来るようになりたいな」


 かつて、海水を直接真水に出来ない、ウンディーネの事を思い出した。


 やっぱり中級精霊の方が出来る事がふえる。

 そういう魔法書……どこに行けば手に入るんだろう。


「しょうがないよね。精霊もあたし達みたいに成長出来れば良いのに」

「え?」

「え?」


 アスナと俺がお互いに驚いて、見つめ合った。


「な、なにリアム。あたしなんか変なこと言った?」

「アスナ達みたいに……」


 俺はシェイドと向き直った。


 手をかざして、シェイドに新しい魔法をかける。


「ファミリア」


 使い魔契約の魔法、ファミリア。

 主従の関係を結ぶ魔法で、本来なら、召喚中はすでに絶対服従の精霊たちにかけてもまったく意味のない魔法だが。


 魔法の光がシェイドを包み込んだ。


 アスナ達が契約したときとまったく同じことが起こった後。


『ありがとうございます』


 ものすごく丁寧で、知性的な声が聞こえてきた。


『主との契約で、中級精霊に進化致しました』


 そして、闇が少しだけ晴れる。

 完全な暗闇じゃなく、ジョディがオーダーした、自然の夜の暗闇に。


 中級精霊に進化してすぐに、やってくれたのだ。


「えええ!? 精霊を進化させたって事?」

「すごいですわね……」


 目の前で精霊の進化という出来事を目撃した二人はものすごく驚いていた。

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[気になる点] 排気は?一酸化炭素中毒になるんじゃ。
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