367.負ける要素
昼前に、話したい事があると言われて、宮殿の円卓の間に呼び出された。
中に入った瞬間俺はちょっと驚いた。
円卓の間ではみんなが各々の席の所でたって俺を待っていた。
驚いたのはたっているからじゃない。
そこにいるメンツだ。
三幹部とされているガイ、クリス、レイナは勢揃いで、アルカードもいる。
人間はスカーレットとアスナがいて、総勢6人とこの手の「会議」にしてはたぶん過去最多くらいの人数だ。
「どうしたんだ? 一体」
「緊急事態につき、主にご報告し、裁可を頂かねばと」
スカーレットがやや硬い表情でいった。
「緊急事態?」
「はい」
俺はみんなを見回した。
緊急事態という割には、みんなの表情が必ずしもそうではなかった。
ガイとクリスは深刻そうというよりはどこかワクワクしているような表情だし、レイナはいつものように落ち着いた感じながらもどこか冷笑的。
アスナは困惑していて、一番「緊急事態」のようにみえるのはスカーレットだけだ。
何はともあれ、と。
立ったままでは何だという事で、俺は自分の席に座って、みんなにも座るようにいった。
全員がいったん座ってから、スカーレットの目配せを受けてアルカードが立ち上がった。
アルカードは恭しく俺に向かって一礼して。
「ご報告いたします」
「ああ、うん」
「ジャミール王国、およびキスタドール王国、両国の国王が直々に会談を行ったとのことです」
「国王同士が?」
俺は少し驚いた。
内容はいまの所一切分からない、が、国王同士が直接会うのはただ事じゃないと何となく分かった。
「内容は同盟、ないしは共同戦線の類の模様」
「同盟?」
「はい、我が国――リアム様に対する同盟だということです」
「……ジャミールとキスタドールが結託して攻撃してくるっていうのか?」
俺が聞くと、全員がそれぞれ違う反応をした。
「人間のくせに生意気だよ」
「うむ、思い上がりも甚だしいでござる。それがし達にもまともに勝てない連中が主に相手にしてもらおうなど笑止!」
「同感。くるならくればって感じ、あたしと脳筋だけでパパッと蹴散らしとくから」
そう話すのはクリスとガイ。
いつもはいがみ合っている二人だが、珍しく意見が一致してるというか、話があってるというか。
どちらもワクワク9割で怒りが1割という割合の感情だ。
アルカードの説明をレイナとスカーレットの冷静コンビは黙って聞いているが、感情をストレートに出すタイプのアスナはアルカードに聞き返した。
「それ、さっきも聞いたけど。どうやってそんな詳しい話を知ったの? 国王同士があうってわかっても、内容までは普通分からないもんだけど」
「キスタドール王が現在もっとも寵愛している妃に寝物語で語っていました」
「寝物語?」
「夜の枕元で語る言葉の俗称です」
「あ、はい」
アルカードの説明に、アスナは一瞬顔を赤くして、そのまま引き下がってしまった。
両国王の話よりもその出所に男女の関係が絡んでいるということが、なにやら恥ずかしさに近い感情に繋がったようだ。
俺はここまでの話をいったん整理した。
「……つまり、キスタドール王がお妃様に外交のことをベラベラ喋ったって事なのか?」
「おっしゃる通りでございます」
「それは……なんかの罠じゃないのか?」
俺は眉をひそめた。
「国同士で手を結んで俺を――いわゆる魔王を討伐しようってはなしだろ? それをそんなに軽々しく喋る?」
『ふふっ』
「むしろ精度の高い情報であると判断します。キスタドール王は特に女好きで知られていますので」
ラードーンは愉しげに笑い、その感情の説明をまるで説明するかのようにスカーレットがいう。
「むしろ、なのか?」
「はい。今も昔も――おそらくはこれからも、権力者が愛妾に枕元で己が自慢をしたがるのはなくなりはしないでしょう」
『うむ、定番だな』
ラードーンは俺だけに聞こえる言葉で補足した。
「はあ……そういうものなのか」
理解はしがたいが、ラードーンとスカーレットが同じようにそう言うのならそうなんだろうなと思う事にした。
「……ってことはジャミールの国王も?」
聞くと、アルカードが答えてくれた。
「ジャミール王からはありませんでした。ただ、外交担当の大臣が抱えている高級娼婦に同じように漏らしていたので、そこで裏をとった形となります」
「本当にどこでもやってるんだなあ……」
「さらには――これは人間どものもくろみで、決してかないはしませんが」
アルカードが冷笑し、報告する。
「双方とも、我が国との戦いを通じて主導権を握り、ジャミール領、キスタドール領、約束の地、そしてパルタ領。これらを統一した帝国創立をもくろんでいるようです」
「帝国を!?」
「はい」
「そんな事を考えてるのか」
「皮算用も甚だしいでござるな」
「本当にね、手を組めば勝てるっておもってるのがお笑い草だよ」
「いい事を思いついたでござるイノシシ女」
「なによ脳筋」
「ちょうど国が二つあるでござる。イノシシ女と拙者で分担をきめて、どっちが先に国をおとせるか競争するのはどうでござるか?」
「へえ、いいじゃないの。あんたの言葉で今のが過去一で大賛成だわ」
ガイとクリスがめちゃくちゃ盛り上がっていた。
いろいろが奇跡的にかみ合ったせいか、二人はかつてないほどの勢いで意気投合していた。
「いやいや、ちょっと待ってくれガイ、それにクリス」
「主?」
「どうしたのご主人様」
「国が手を組んで戦争? をしかけてくるのにそんなに簡単に考えて大丈夫なのか?」
「何故でござるか?」
「そうよ、別に倒してしまっても問題ないんでしょ?」
ガイとクリスはきょとんとした。
本気で来た敵、ジャミールとキスタドールの敵兵を全員倒せばいいって思ってるみたいだ。
『まあ、問題はなかろう』
「ラードーン?」
『我が言った言葉を覚えているか?』
「えっと……たぶん言われたことは全部覚えてるけど、どれのことだ?」
『ふふっ、お前もできるようになったな。さらりと殺し文句を放ってくるとは』
「へ?」
『軽口だ、天然なのは分かっている。それも好ましいがな』
「はあ……」
『我が言ったのは、半年もあれば世界征服出来るだろうという、アレのことだ』
「ああ、それか……」
『我がいる、他の二匹もいる。最終的にはお前もいる。もう【ドラゴンスレイヤー】も食らわぬ。事前に情報もつかめている。さあ、負ける要素はどこだ?』
「……なるほど」
俺はともかく、確かにラードーン、デュポーン、ピュトーンの三人がいるのなら。
ラードーンの言う通り、負ける要素は実はないな、と納得した。