365.三倍
「どうしたんだ?」
いかにも楽しそうなものを見つけてしまった子供のような感情が伝わってくるラードーン。そのラードーンに聞き返すとますます面白そうだって感じの返事が返ってきた。
『もしやだが、面白いものが出来たかもしれんぞ』
「そうなのか?」
『うむ、まあ、パッと見だから見当違いの可能性もあるが』
「いや、ラードーンが言うのなら間違いない」
俺はそう思った。
例えばだが、俺は魔法が10できて、他の能力は0とか1とかだとしたら。
ラードーンは俺の認識では、何から何まで10、へたしたら20出来る存在だ。
俺は一つだけ10で、ラードーンは何から何まで10。
そのラードーンがいう事なら間違いないだろうと信頼している。
しばらくして、合金がやきあがった。
サラマンダーとノームに礼を言って、召喚を解除して還ってもらう。
そして、土を開けて合金を取り出す。
何度も似たような事をやって来たから、土の中ではノームが金塊のような形の塊にしてくれていた。
それを手に取ってみる、既に冷えて常温になっている。
手にずしりとくる金属の感触で、見た目も黄金と虹色の間くらいの不思議な色合いだ。軽く黄金色に輝いているが、うっすらと虹色の色彩が混じっている。
「……なるほど」
『もうわかるか』
「いまちょっと魔力をそそいでみたけど、なんだろう……ああ」
頭の中の知識をさらって、上手いことぴったり来る感覚を見つけた。
「砂漠にパシャーン、って水をぶっかけた時の様な感じだ」
『ふふっ、中々にユニーク比喩をする』
「そうか?」
『普通の人間は海綿に水が染みこむようだというだろうな』
「そ、そうか」
『まあそれはそれでわかりやすくてよい』
話が一区切りして、ラードーンの意識がはっきりと俺が持つ合金に向かったのを感じた。
『それはどれくらい力がはいって、どれくらい取り出せるのだ?』
「多分だけど――」
そう前置きしつつ、左手で合金をもって、右手を突き出す。
俺の手と体が管になって水を通すイメージで、合金にそそいだ魔力で魔法を使う。
右手から【マジックミサイル】が一本打ち出される。
確認のために一番慣れ親しんでいるもの、さらには同時魔法の負担もなく純粋に魔法単発のみであることを確認をした。
そうして、そそいだ魔力と使える魔力を比べる。
「――ほしいと思った量が入るし、いまの人肌程度の温度で損耗なく使える」
『ふむ』
「これなら……」
と、俺は密かにガッツポーズした。
『ほしいと思った量とはなんの話だ?』
「え?」
『その口ぶりだと狙っていたものがあるという話だが?』
「ああ……。うん、そう」
『何を作ろうとしていたのだ?』
「最初に思ったのはシーラの持ってる剣、魔剣クリムゾンローゼを見たときだ」
『アレを作りたいのか?』
「いやちょっと違う。なんていうのかな……あの剣ってすごく人間くさいだろ?」
『ふふっ、高度な遊びをしているものな』
ラードーンは愉しげに笑う。
ほとんどの場合、ラードーンは物事に対して正義とか悪だとか、そういった尺度での評価はしない。
そのかわり「他者と違うかどうか」で、面白い/面白くないの判定をする。
そういう意味ではシーラと魔剣クリムゾンローゼの関係は「かなり違う」もので、ラードーンが好むタイプのものだろうなと納得した。
「高度な遊びなのか、あれ」
『うむ。まあお前は知らなくて良い世界だ。人間くさい、という受け取りかたは実に正しいからそれでよかろう』
「そうか」
ラードーンがそう言うのならそうだろうと納得した。
「で、思ったのは。というかイメージしたのは。あの剣の中に人間が入ってるって感じ。ラードーンが俺の中に入っているように、何かこう、そういう感じの人間がひとり入ってるってイメージが頭に浮かんだんだ」
『うむ、まあ当然の想像だな』
「それで思ったのが……ラードーン達、神竜達が依り代になるようなものは作れないかって。これもあくまでイメージだけど、言うなれば神剣ラードーン、とかそんな感じの」
『そんな事を考えていたのか』
「ああ。デュポーンとピュトーンが使える依り代ができればいいなって」
『うむ、その方が良かろう』
ラードーンがほとんど何かを断言するような口調でいって、俺はほっとした。
ラードーンがそう言ってくれるのならやってる事は間違っていない、正しかったんだ。という気分になる。
『あれからお前の魂は更におおきくなり、われら三人の器にはなるだろうが。我らがそこで共生することはありえぬからな』
「え?」
『うむ?』
俺は驚き、ラードーンも俺の反応を訝しむ。
「いま……なんて?」
『なにが?』
「俺の魂がどうって……」
『うむ? ああ』
そっちか、とラードーンがポンと手を叩くイメージが脳裏に流れてきた。
『自分だとわからぬか、そうであろうな。うむ、これは我にとっても失念していたことだ』
「えっと?」
『我がお前の体に入ったときに比べて、ただでさえ大きくて面白いと思っていたお前の魂が更に三倍ほど大きくなっているのだ』
「…………えええええ!?」
いきなり言われたことに俺はめちゃくちゃ驚いてしまった。