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363.新貴族

 少し考えて、自然と申し訳なさが込み上がってきて、それをそのまま顔に出してシーラの方を向いた。


「わるい、いまのは無し」

「あら、何か不具合ですの? 魔法でしくじるとはあなたらしくもない」

「いや魔法自体は問題なかったんだが、いまラードーンから『やりすぎだ』といわれたんだ」

「やり過ぎ……ああ」


 シーラはふっ、とちょっとだけいたずらっこのような感じで微笑んだ。


「そういうことですの」

「わかるのかいまので」

「ええ、もちろん。新しい魔法があなたにとってはどれくらいのものなのかはわかりませんが、わたくし自身の立ち位置は分かっていますわ」

「立ち位置?」


 どういう事だ、と不思議がっていると即座にラードーンから説明が飛んできた。


『身の程をわきまえているという意味だ』

「身の程?」

「その方のおっしゃる通りですわ。わたくしはいまあなたの属国であると自らを規定していますの話」

「ぞっこく」


 普段使わない言葉、そして概念。

 それのせいで棒読みっぽいかんじで返してしまった。


「もしくは傀儡でもよくってよ」

「かいらい」


 ますますなじみのない言葉がシーラの口から飛び出してきた。


「ですので、分をわきまえるのは当然のことですわ」

『ふふっ、屈託のない傀儡もあったものだ』

「……なんか二人で話した方がいいみたいだな。俺にはついていけん」


 そう言って苦笑いした。


「そうしてもよろしいのですが、生産性のない会話になりそうですわね」

『そいつの言うとおりだな』

「ほらやっぱりな。気があうと思うよ」


 俺が言うと、ラードーンもシーラもクスクスと笑った。

 ラードーンはともかく、相手の言葉なんて聞こえてないシーラまで楽しげに笑うという現象はなんともおかしくて、こっちまで笑ってしまいそうだった。


「まあともかく――わるい、いまの話はなし。バラのは渡すけど、もうひとつのはそのうち埋め合わせはちゃんとする」

「……いつもながら」

「ん?」

「不思議な方ですわ」


 ラードーンとクスクス笑い合ったシーラは、俺の顔をじっと見つめて、まったく違う感情でしみじみといった。


「不思議って?」

「最初の頃の貴族――原生、いえ第一世代の貴族と言った方がわかりやすいのかしら」

「第一世代の貴族?」


 俺は首をかしげた。


「それと俺が同じだってことか?」

「ええ。先日、貴族は屁理屈をこねくり回す生き物だとお話ししたのを覚えていて?」

「ああ……」


 確か……契約シーラの方から聞いたんだっけな。

 魔法【契約召喚】だと、解除された後記憶と知識は本人の方に還る(、、)から、契約シーラが俺に話したことはシーラ本人も記憶として持っているということだ。


「最初に貴族になろうとした盗賊達は、自分達が行ってきた所業を『洗濯』したいがため、正反対となる善行を行う事にした。そして貴族とは持つものが持たざるものを救うという名目を産み出した」

「ああ、それは何となく聞いた事がある」


 リアムになる前から何となく聞いた事がある。

 貴族は「名目上」弱者を助けたり、救ったりする義務があるというのを聞いた事がある。


 当然、それは庶民の間ではきれい事だとかお為ごかしだとか、そういう感じのものだととらえられてて、貴族が本当にそんな事をする人種だとは思っていない。


 実際にリアムになってからも、それをやっている貴族なんて見かけないから、その時の感覚がそのままいまでも持っている。


 貴族に関して、リアムに転生してからも変わらなかった考え方の一つだ。


「それを行って大義名分を得て、盗賊ではなく貴族だ、と言い張ったのですわ」

「そうだったのか」

「そういうことですから、最初の貴族は必要以上に弱者の救済を行っていましたわ。実際にそういう言葉はありませんが、そういうのがいまわたくしがお話した第一世代の貴族ですわ」

「なるほど………………それが俺と同じってことか?」


 話がぐるっと大回りしたから、最初のと繋がるのが遅くなってしまった。


「そうですわ」

「そうかな」

「そうですわ」


 シーラは同じ言葉を繰り返した。

 同じ言葉だが、語気はちょっとだけ強くて言い切った。


「魔法においては常にそうですわ。どんな人間よりも強大な魔力をもち、創造力もある。それで作り出した魔法に関連するものを常に惜しげもなくまわりに分け与えている。そして――」

「そして?」

「かつての盗賊達と同じように、あなたはいまは魔物の王という、いずれは身分の『洗濯』をしなければならないであろう立場」

『ふふっ、言われてみれば共通点がおおいな』


 俺はまだ「そうなのかな」と微妙な感じだったが、ラードーンはシーラの説に楽しげに笑った。

 ラードーンがそう言うのならそうなんだろうな、と思った。


「今の口ぶりからさっするに、その事をほとんどご存じなかったという事ですわね」

「まあな」

「でしたら、最初は先祖返りだと思っていたのですけれど……あなたの場合新貴族といったほうがふさわしいのかもしれませんわね」

「新貴族……」

「もちろんほめことばでしてよ?」


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